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TRUE♰LIE  作者: れむ
3/13

「ったくからかいやがって…あ」


歩がふと思いついたように声を上げて捺が聞き返す。


「わ びっくりした。何よ急に、歩」


「わり、柚紀たち知ってるか?近頃のあの噂」


「「うわさ?」」


「噂?ああ、例のアレのことね」


噂という単語で理解する捺とは違って、そろってハテナマークを引き出す俺たちに少しばかり声をひそめて歩が続ける。


「帰宅部のお前らはあんま知んねぇかもしれないけど、実は近頃不思議な力がある犯罪組織がこの辺動いてるって話だ」


「犯罪組織?」


「一体どういう…」


いいかける葉月の言葉を最後までは聞かず、歩がその続きを続ける。


「関係があるかって思うだろ?葉月ちゃん。それがな……」


「それがあたしたちと同年代って噂なのよ」


「え?同年代って同い年?」


「その犯罪組織が、か?」


「そうそう……ってマジかよ!?」


驚く俺たち以上に、この話を最初に振った歩が驚きの声を上げる。


「うん。だから今すっごい噂になっててー……って、歩、あんたが話始めたくせに知らなかったの?」


 呆れたようにため息をついて、隣の歩を捺が横目で見る。


「う……ていうか、いくら部活でも野球部は他とは違ってそういうの話してる時間もないんだよ。朝練だろ?昼休みの練習だろ?それから放課後だろ?そんでそのあとー……」


「はいはい、忙しそうよね。みてりゃそんなん分かるよ」


 指折りで数える歩に捺がそういって遮る。


「だろ?じゃあ城山先輩に今日の部活はゆるめにー……」


「びっしりよろしくってお兄ちゃんに伝えとくよ」


「なっ……これ以上はほんとねぇって!」


「へへん、ばーか。言っちゃおうっと♪」

 

 楽しそうに逃げていく捺を歩が本気で追いかける。相当、これ以上きつい練習は耐えられそうにないようだ。そんなことを頭の隅で考えながら俺の頭はもうひとつのことが巡っていた。


(俺たちと同年代の犯罪組織、か……)


声を先ほどより少しひそめてそばにいる葉月にささやく。


「葉月」


「うん。櫻井さんの言ってた情報に近いね」


「もうちょっと探ってみるか」











昼休み。


「よーし4時限目終わりーっと。葉月。屋上行こうぜ」


 葉月の頭の上にぽすっと手をついて、葉月が答えながら席を立つ。


「うん。今日はねタコさんウインナー入れてきたんだぁ」


弁当の入ったランチバッグをもって、笑いかける葉月に思わず顔がほころぶ。


「やったね♪葉月ちゃんのタコさんウインナー俺も頂戴っ」


「おまっ……なに俺の声にかぶせて当たり前のようについてきてんだ歩!」


「あ、歩君だー。歩君も一緒食べるー?」 


「えっ!マジ!?いいの!?じゃあ俺も混ぜてもら……おぉ!?」


と、そこでなにかに歩が後ろが軽く押されてその拍子につまづきかけて何とか踏みとどまり歩がふりかえる。


「おぉ!?じゃ、ないわよ。あんた昼の練習あるでしょ」

 

「げ、捺!」

 

「わ なっちゃん♪」

 

 俺たちについていこうとした歩の腕を、捺が引っ張る。


「ごめんね葉月、歩のことは気にしないで柚紀と二人で食べてきて。ほら、いくよ歩!」


「えー今回だけでいいからお昼くらい休ませてくれよ。城山先輩にうまくいってよ。な?な?頼むよ!」


「えぇー?なにいって……」


「頼む!お願いっ!これほんっとお願いっ!」


 歩が手を合わせて必死に捺に懇願する。ていうか、どれだけ練習嫌いなんだよ歩のやつ。


「んー…しかたないなぁ じゃあ、その…よ、四人で食べよ…?」


 なにやら頬を少し赤く染め、うつむき気味に歩におずおずと提案する。

そんな捺にも気付かずに単純に歩が喜ぶ。


「おう!よし四人で食おう!野球のない昼休み!やったー♪」


「人数増えてお弁当もきっとおいしくなるね」


「だな!」


 そうして捺、歩を加えていつもの屋上へと階段を上がり先頭を切って歩いていた歩が一番に扉を押し開け吹きつける風を受けながら気持ちよさそうにひとつ、深呼吸をする。


「はー気持ちいいー」


「今日もいい天気だねー歩くん」


「おう、こんななかで弁当食べるなんて夢みたいだ」


「あー…歩くんたち野球部はすぐ食べてすぐ練習だもんねーいつも大変そう」


「そうなんだよ~だからゆっくり食べられるお昼ご飯が憧れで……」


 歩のすぐ後に屋上についた葉月が、仲良く談笑している。


(おいおいあいつ、葉月から離れろよ)


自分でもよくわからないまま、そんなイライラが募り始める。心なしか隣の捺も浮かない顔で前の二人の様子を見つめる。


「なぁなぁ葉月ちゃんって好き嫌いとかある?どんな食べ物がすきー?」

 

「あたしはー…あ、甘いのすっごい好きなんだ」

 

「あ 俺も俺も!シュークリームとかバニラとか、男のくせにっていわれちゃうんだけどね」


それを知ってか知らずか、葉月たちの会話はさらに盛り上がっている。


「えーすきだったらすきでいいんだよー、おいしいもんね」


「おおー、わかる人がいてよかった~。そうそう!そういえば…」


「「ちょっと、失礼‼」」


「捺…」


「柚紀くん…」


 止まらない二人の甘党談義にわざとらしく咳ばらいをして、割って入り会話を無理やり中断させる。思わずかぶったその声に葉月たちがようやく俺たちの存在を思い出したような顔をする。

特に捺はあからさまに不機嫌で、腕組みをしながら鋭い眼光で歩をにらみつける。


「そろそろご飯食べようよ。歩、あんた部活サボったって言っていいの?」


「う、ごめん」


 先に座りはじめる俺と捺に続いて葉月が俺の横にゆっくりと腰を掛ける。


「じゃあ俺も……」


「ちょっと待て、歩は捺の隣だ」 


 自然な感じで葉月の左隣に座ろうとする歩に俺は捺の隣に座るよう促す。


「えー?なんでー?」


「いいからおとなしく座る!」


「はぁ?別にいいけどさ」


 捺の気持ちも気付かない歩が、疑問符を浮かべたまま捺の隣に腰を掛ける。

 歩には見えないように俺が捺に向かって左目を軽くつぶると、捺が照れたようにうつむく。


うまくくっつけよ、二人とも。

そんで、この恩は情報で返してもらおう。


「ってわけで、さっそく食べるか」


「お そうだったそうだった♪こっちが本命☆いっただきまーす」


それぞれがそれぞれの持参したお弁当を広げる。お弁当はいつも葉月が作って朝の時点で渡してくれるが、おかずの中身もバレないようにいつも少しずつ変えてくれている。

今日のメニューはタコさんウインナーにミニトマト、みずみずしいサラダにたまごやき。

色とりどりの綺麗に敷き詰められた弁当が、さらに食欲をそそり早速お箸を伸ばしながら捺たちにずっとひっかかっていたことを聞くべく話を振る。


「そういやさっきの話なんだけどさぁ」

 

「「さっきの??」」


主語をなくした俺の言葉に捺と歩が、小首をかしげる。


「ほら さっきいってたじゃんか。例の犯罪者の"うわさ"ってやつ」


「あー… あれね、あれがどうかしたの?」


「いや、同年代ってちょっと興味わいたもんだから……あのうわさって歩たちどこで聞いたんだ?」


「んー、あれは部活の人がいってたのよ。ね?歩」


「ん? ああ、なんか先輩たちも何人か怪しげなやつを見かけたとか……」


「まじっ!?」


「……見かけてないとか」


「なんだよ。はっきりしないな」


「だって しょうがないじゃん。あいつら、神出鬼没っていうし……」


俺がため息をひとつついて見せると、好物であろうタコさんウインナーを頬張りながら、ほんの少し口を尖らせていう。


「そうだよ~。あ、そういえばその犯罪組織なんだけどね。さっきおもしろいこと聞いちゃった」


「おもしろいこと?」


「おもしろいことってなに?なっちゃん」


捺の楽しげな口調に好奇心をくすぐられたのか、先ほどまでおとなしくお弁当を口に運んでいた葉月までも思わず口を開く。


「それがね、ほら。さっきあの犯罪組織って同年代っていったでしょ?」


「ああ、うん」


そう。

明かしてしまうなら俺たちがこの情報でなにか引っ掛かるのもたぶん俺たちと同年代である、という事実が大きいだろう。


「なんとそのメンバー、うちの学校の生徒じゃないかって噂なの!!」


「え!?この学校の!?ほんとなの!?なっちゃん!!」


「えぇ!?ちょっ、捺それどこ情報だよ!?」


「ふふん♪お兄ちゃんからなのだー☆」


興奮する歩と葉月に、自慢げにピースサインを出しながら捺が答える。


「なるほど。城山センパイ、こーゆー情報早いもんなぁ地獄耳ってゆーの?どんなに情報網広いかわかりゃしない」


「そうねぇ 例えば『歩がここでサボってましたーっ』とか、ね。誰が言うんだろうね?」


「心のそこからごめんなさいっ!」


「うん素直でよろしい」


 横目でいたずらにからかう捺に対して、歩が情けない悲鳴を1つ上げて謝る。


「捺、それって確かな情報なのか?」


「お、柚紀。結構食いついてくるね~。まぁ、確かに犯罪組織なんて噂が自分の学校にあれば嫌でも気になるんだろうけど」


 質問には答えずに、捺が楽しそうに笑う。

正確にいうと俺たちがこの情報に関して調べているのは、好奇心もあるが何より特殊捜査員として与えられた『情報収集』という地味でありながらも立派な俺たちの使命のため。

しかし、一般人であり、大切な友人、事情も知らない二人にわざわざそんなことを明かす必要はない。ここは適当に話を合わせておくのがいいだろう。


「まぁ、そんなとこだな。それでどう?」


「うーん…噂だから確かとは言えないかな」


「そっかぁ~」


「そんな深刻そうな顔しないでよ~あく噂だし、誰かが面白がって立てた作り話かもしれないんだもん。それに、犯罪組織っていっても殺人だとかしてるわけじゃなくて教室が荒らされたりとかイタズラみたいな軽いものなんだから」


「そう……だな」


頭を抱えてうなる俺を落ち込んでいるとでもとったのか必死に弁解する捺。

この話が事実なら俺たちは、仮にも警察組織の一部に属する存在として見過ごすわけにはいかない。

しかし、噂であったなら噂であったで俺たちは任された情報収集がまた手掛かりのないゼロからのスタート。どっちであっても俺たちにとっては困るもんだ。


「ごめんね 今度またお兄ちゃんに聞いたら教えてあげるよ」


「ん、頼むよ」


 この話が信憑性はないものとわかり肩を落とす俺を気遣ってか、捺がそう約束してくれた。

(やっぱり噂だけじゃそう簡単にたどれるもんじゃないな…)


 


キーンコーンカーンコーン。

そんなのんびりとしたお昼時間の終わりを、校内校外に響き渡る鐘の音が知らせてくれる。


「あ、鐘なっちゃった。そういえばあたし、日直だから次の授業の準備頼まれてるんだった!ごめん、先いくね」


「待てよ、俺もいくって。手伝ってやっからさ」


 食べ終えた弁当箱を片手に慌てて駆け出そうとする捺の手を掴んで、歩がいう。


「え……? でも柚紀たちいるんだし、一緒に戻ってこれば?たまの休みなんだし」


「いいから行くって。お前はすぐ一人でやろうとするんだから、ほっとけますかての」


「えぇ……?でも、でも……」


 気恥ずかしさというやつだろうか。なんだかんだ言っても嬉しいくせになおも食い下がり捺は、目線を俺たちに向けて助け船を求める。


「いいよ、二人とも先にいきなよ。俺たちもすぐ片づけたら戻るから」


「……ありがと。じゃあの、歩、手伝い、お願い……シマス」


「いえいえ、どういたしまして」


緊張のせいもあってか敬語になってしまっている捺に、歩はくすくす笑いながらその後を追い、二人は先に教室の方へと姿を消した。


「青春だねぇ、あのお二人さんも」


 そんな彼らの背中を見送って、甘酸っぱい青春のワンシーンに思う。

 

「ん?何か言った?」


「んーん、別に。さ、俺たちも教室に戻ろうか」

 

「? うん?」


 俺のひとりごとを聞き取れなかったらしい葉月が小首をかしげて、聞き返すが答えることはせず俺は葉月の背中を軽く押すと一緒に教室へと戻った。

 


 




 



 

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