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TRUE♰LIE  作者: れむ
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不穏な便り

「…であるからして、ここにこの公式を当てはめると――…」


先生の声と、チョークの音だけが響く教室の中。


黒板に書かれた数式を、俺は一度も見ていなかった。


ノートを取っているふりをして空白のページに走り書きしているのは、

消えない違和感と、いくつか分かったことの断片的な事実だけ。


まず、燐の事件において、燐の証言では証拠はほぼ没収されたと言っていた。


一方で、整理された証拠資料はその真逆で、ほとんどの証拠が記載されていなかった。


そして事件の状況としては白昼。犯人の目撃情報もある。

 

証拠を隠す暇があるとは思えない。


状況から鑑みるに、どちらが正しいかと言えば、燐の証言の方が信憑性は高い。


と考えると――


警察が保有している証拠の実体と、あの記録がどこかで乖離したか。


あるいは、現場で押収されたのち、警察に保管されるまでの経路で、何らかの理由により紛失した可能性だろうか。


前はあらぬ方向に考えてしまったが、まだ過失の可能性だって十分にある。


——だが。


証拠は「消えた」のではなく、最初から「残されなかった」のかもしれない。


しかし、それを裏づけるものは、まだ何もない。


まずは保管棟で、証拠が実際に残っているかを確認して、可能性を切り分けるのが先だ。


(……うん。これは近いうちに、保管棟をのぞいてみよう)


 


――それから、気になることがもう一つ。


それは、N.Tが俺たちを探していた理由を聞いたときのことだった。


 


『え、俺たちがお前らを探してた理由?』


『そうだ。最初に会ったとき、言っていただろう』


『ドットに言われたから』


『……そいつの目的は?』


『知らね。見つけろって、それだけ。俺たちも、その目的を知るためにお前たちと話したかったんだ……って、真琴が言ってた』


 


ドットについても聞いたが、正体はN.Tも知らないらしい。


ただ、燐たちをあの場所に集め、生活を支援している存在。


必要な物資や金銭はドットが用意し、その代わり、指示があったときは従う。


それが、彼らとドットの関係だという。


唯や真琴ならまだしも、隠し事が下手な燐が動揺を見せないあたり、この供述は本当だろう。


差し詰め、真琴がドットにバレないよう俺たちに接触を図ったのは、

 

目的を達成した時点で、自分たちが消される可能性を考えたからだ。


そして、指示が『見つけろ』止まりだったということは――


(報告されずとも、“監視されている”……ということか)


もしこの仮説が正しければ、唯がドットをシャットダウンしていたことも納得がいく。

真琴が、俺をあっさりアジトへ入れることを許可した理由も、同じだ。


外で危ないのは、接触そのものじゃない。

目的や能力の核心みたいな、“決定的な情報”を口にすることだ。


侵入や小競り合いなら、見られても痛手にはならない。

だが、こちらが何を知り、何を疑っているのかまで渡すわけにはいかない。


計画的な真琴のことだ。

 

どこで監視されているか分からない外で探り合うより、裏をかいてアジトへ引き込み、

そのうえで“目”を潰すほうが、よほど安全だと踏んだのだろう。

そもそも、藍田さんにもらった私用スマホで連絡先を交換できれば楽なのだが、どうもあいつらはスマホを持っていないらしい。



N.Tも、俺たちも、誰も黒幕(しょうたい)を知らない。


気味悪さに、背筋をなぞるような寒気が走った。


その思考に区切りをつけるように、授業終了のチャイムが鳴り響いた。


           ◇ ◇ ◇


放課後。


いつものように葉月と二人で帰宅しているときだった。

 

突然、ずしんと重い重力がかかったように、その場にぺたんと手をついて座り込んでしまった。


「ゆず!?大丈夫?」


「あ、うん…ごめん」


(なんだ、今の…)


得体のしれない感覚に呆けていると、葉月が心配そうに手を伸ばしてくれた。


「ひゃっ」


俺がその手を取ると、葉月は何かに気づいて短く声をあげた。


視線の先には、電信柱にくくられた目撃情報募集の看板。

その足元には、花束やジュースがいくつも供えられていた。

 

――そうだ。ここは近隣では有名な交通事故多発ポイント。


視界の悪くない大通りの一本道なのに、なぜか死亡事故が繰り返され、

近所ではすっかり『心霊スポット』と呼ばれている場所だ。


花束が視界に入った瞬間、胃の奥がきゅっと縮む。


「ま、まさかと思うけど、今の幽霊のせいとかじゃ、ないよね…?」


「うん、ごめん。ちょっと気を抜いたみたい」


 葉月はめっぽう心霊(オカルト)には弱い。


 潤んだ葉月の表情に、つい力が抜けてしまった。


 実際、生まれてこの方霊感なんてない。


 この(ちから)のせいで、他の人が聞きのがすほど微細な声や音を拾うことはあっても、決して幻聴ではない。


 現にそういった場合は大抵、ビデオなどには記録されており、音量を上げれば他の人にだって確認できるものばかりだった。


 故に、霊的な体験はしたことがない。


「ごめんって。ほら、帰ろ」

 

不安がる葉月を促すように背中を軽く叩き、再び歩き出す。


背後に残る花束と看板を、振り返らずにやり過ごしながら――

胸の奥に残った、理由の分からない重さだけを、そっと押し殺した。

 


 

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