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TRUE♰LIE  作者: れむ
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沈黙の記録

あれから数日。


本当に今週は一度も現場に出ていない。


捺の誘拐未遂の件も結局櫻井さんに独断で踏み込んだことをこっぴどく叱られつつも、相手は例の犯罪組織の残党だったということであっさり逮捕されたようだ。


歩もいる手前、捺とはあれ以来その件に触れていない。


しかし、意識がなかったおかげもあってか、思うほどひどい精神状態というわけではなさそうだ。


櫻井さんの言う通り、バタバタは落ち着き始めている。……ただ一つを除いては。


(とはいってもなあ…)


 正直、彼らのことが頭の片隅からずっと離れない。


だからこそ支障があるのだが、休めば忘れられるものでもない。


することがなくなったからこそ、余計に思考は膨らみ始めてしまう。

 

(というかタクシー代、返さなきゃだな。アジト覚えているか微妙だけど、週末…行ってみるか?)


 つい癖で思考の海に沈み、視線を落としたまま廊下を歩いていると、向かいから歩いてきた人とぶつかってしまった。


向こうも衝撃で気づいたようで、荷物の向こう側から焦った声が飛んできた。


 「うわっ!!す、すみません」


痛む額をさすりながら視線を上げると、抱えた荷物の横からその人物の顔が覗いた。


「いたた…いえ、こちらこそ。って、花枝さん?」


ぶつかった荷物の向こうにいたのは、誕生会のときに沢山話しかけてくれた花枝さんだった。


「あれ?柚紀くん!誕生会以来だね、元気?」


「あ、はい。それにしてもすごい書類の量ですね」


「そうなんだよ~。新卒だからか事務処理ばっかり回ってきて、早く現場に出たいよ」


「はは…大変そうですね。よかったら俺、手伝いましょうか?」


(現場は休めとは言われたけど、書類くらいならいいよな…)


「えぇ!ほんと!?ごめん正直かなり助かる…あ、でも櫻井さんに確認した方がいいよね」


「あ、また近いうちに会うと思うので、俺から折を見て伝えておきますよ。なにをしたらいいですか?」


「そうだなぁ。じゃあ、その足元のファイルの電子化をお願いできるかい?特に期限ないし、暇な時にExcelでリスト化してほしいんだ」


「はあ、リスト化ですか」


そういって足元にあるファイルを拾いあげ、表紙を開く。


最近流行りのDXだろうか。


確かに事件情報等は『けいさつネット』に一元化されているが、一部まだ紙媒体で運用されているのが現状だ。


急ぎでない部分は少しずつ水面下でこうして電子化が進んでいるのだろう。


「はっごめんもう会議行かなきゃ!とにかく何かわからないことあったらまた社内チャットして!それじゃあ頼んだよ」


「え、あ…」


(い、いってしまった…花っていうか花散らす嵐みたいな人だ…)


質問があればと思ってその場で軽くファイルを流し見しているうちに、花枝さんは慌ただしく言い残し、あっという間に行ってしまった。


 仕方なくファイルを持って、自室へと戻ることにした。


改めて重いファイルを開いてみると、それは保管棟にある保管証拠に関するファイルだった。


保管した日ごとに用紙一枚ずつにその日格納した証拠の状態、点数などが記載してある。


これをすべてCSV形式でExcelにてデータを打ち込み、最後にまとめてけいさつネットのシステムにインポートして電子化したいのが意図のようだ。


これにより、紙媒体よりも証拠品や事件概要の紐づけや検索が容易になるだろう。


軽く中をみてみるが、挟まっている用紙やファイルの重さに反比例して、意外と量は多くなさそうだ。


この量なら今週中には終わるだろう。


          ◇ ◇ ◇

 

予想通り、作業は順調だった…ここまでは。

 

しかし、この日付の資料は思いのほか苦戦している。


なぜなら、量は多くないが管理が雑すぎる。

 

「詳細は別紙に記載」とあるのに別紙は見当たらず、最終更新日以降に更新された形跡もあって、どれが最新かわからない。

 

そういうのをひとつずつ丁寧に確認していたら時間がかかる。

 

ここから担当者が変わったのかと思うほど、あまりに杜撰だ。


 このままでは、この後の資料も同じように手間取りそうだ。

 

そう思っていたのだが、その後は思いのほか順調だった。

 

整理の終わったファイルを閉じ、凝った首を回して考える。

 

(結局めちゃくちゃだったのはあの事件だけ、か…)

 

何気なく振り返ってみると、日付に心当たりが浮かんだ。

 

あまりに証拠品の記載が少ないために思いもしなかったが、それは確かに燐の事件と同日だった。

 

(あれ…でも確かあいつ"全部持っていかれた"って言ってたような…)

 

そもそも通報した住民が駆け付けたのも、犯人が逃走する影を見ているほど事件直後。

 

疑惑の犯人は一度身柄を拘束されている。

 

あまりに白昼の犯行で、証言や目撃も多く、証拠を隠す暇もなかったはずだ。

 

それなのに、こんなに証拠が少ないことはあり得るのだろうか。

 

(警察の紛失?いや、でもこんなに大事なものを…?まさか故意――……)


 あってはならない考えが浮かんだ途端。


乾いたノックの音が響き、葉月がそっと覗き込んできた。


「ゆず?」


「な、なに?葉月」


「書類整理しているの?私も手伝おうか?」


「いや、大丈夫だよ。何かしてる方が落ち着くし、もう終わって寝るとこだから」


「そう、わかった。おやすみ」


 「ああ、おやすみ」


 寝る前の挨拶をかわし、俺も寝るべくファイルを閉じる。


 集中して作業した目疲れもあってかベッドに横たわり眼を閉じると、すぐにまどろみに誘われる。


(…やっぱりもう一度会ってみるしかなさそうだ)


彼らのアジトは、確か月ヶ丘の外れだったはず。


なにより、借りをつくったままなのが落ち着かない。


借りを返すついでに、パパっと確認して終わらせた方がすっきりするかもしれない。


 


そうして俺は眠りについた。


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