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TRUE♰LIE  作者: れむ
22/25

登場人物の声を聴く

週明けの月曜日。

まだ痛む傷口を制服の下に、また俺たちは『一般的な高校生』に着飾った。

 渡り廊下を歩いているとき。

先を歩く葉月の後ろを追っていると、すれ違った担任に呼び止められて振り向いた。


「東雲くん」


「はい」


「放課後、残っていてくださいね」


「あ、はい」


前を歩いていた葉月に追いつくと、葉月は心配そうに顔を覗き込む。


「先生なんだって?」


「今日残れってさ」


「なにしたの…?」


「いや、なんもしてないと思う…ケド」


(まさか傷がバレた…?)


 本当に心当たりがない。


制服で隠しているつもりではあるが、まだ肩には包帯を巻いてある。


葉月にもまだバレてはいないと思うけれど、時々痛みが響くとつい顔に出てしまいそうになる。


目線の高い大人からすると、もしかしたら包帯が見えてしまうのかもしれない。


気を引き締めるように、俺は制服の第一ボタンまで留めて教室へ急いだ。


          ◇ ◇ ◇


そして迎えた放課後。


「あの、先生。用事とは…?」


「東雲くん。君は授業態度が良いとは言えないが、成績はよかったよな」


「まぁ、はい」


「先生は驚いた。まさか君がついに赤点をとるなんて」


そういってぴらりと見せたのは、もっとも苦戦した国語のテスト。


「赤!?」


(なんてこったこの俺が…赤…?)


初めての衝撃に頭痛がしそうだ。


「と、いうわけで。君らしくない結果なわけだけど…最近なにかあったのかい?」


「いえ、すみません…シンプルに勉強不足です」


「…そうか。まあ、挽回の処置として補修を受ければ赤点評価は回避してやる。いいな?」


「はい、お願いします」


そういって配られたプリントは10枚ほど。


漢字の書き取り、小論文。作品や作者情報の紐づけを問う知識問題。


ここまでのペースは全く問題ない。この勢いなら18時までには終われそうだ。


そう思って、次のプリントを取り出して手が止まった。


出た。苦手分野――…題材を読んで登場人物の心情を問う問題。


国語の何が苦手かといえば、"明確な正解がないところ"だ。


数学なら決められた公式、手順で求めればただひとつの正解に辿り着く。


登場人物が何を考え、何を思って行動したかなんて俺にはその"正解"がわからない。


(これが正しいって、公式があればいいのに…)


埋められるところはどうにか埋めたが、最後の問題がどうしてもわからない。


先生はいつの間にか席を外していたようで、誰もいない空間につい気が抜ける。


 静かな教室。窓から見える景色はもう夜に差し掛かり始めている。


机に突っ伏してそんな景色を見ていると、わずかにガタッと音がする。


「歩」


 音のした方へ視線を向けると、そこには制服姿の歩の姿があった。どうやら部活は休みのようだ。


「よ。なにしてんの」


「それは聞いてくれるなよ」


「さては補修だな?お前、国語苦手だもんな」


「うるさいな、邪魔するなら帰れよ」


「教えてやろうか、登場人物の気持ち」


「え」


 驚いて短い声をあげるより早く、歩はプリントを奪うと問題文を読み上げた。


「『エリーは果敢に敵地へ乗り込み、盗品を取り返した。褒めてくれると思って自信に満ちて持って帰ると母に強く叱られた。』


このときエリーが怒られたのは何故でしょう、か。はは、お前が苦手そうな問いだな」


「厳しい母だよな、成果上げてるんだから褒めてくれてもいいものを…」


「エリーの母さんはさ、ただ心配だったんだと思うよ。盗品なんかよりも大事な、娘が傷ついてきたこと。……自分の身を顧みないで、勝手に決めたこと」


(勝手に…?)


その言葉でピンときた。


歩が今話しているのは物語じゃない、N.Tと対峙した時のことだ。


「なにが正しいか分かんない時でもさ、

周りはちゃんと“怖かった”とか“嫌だった”って思ってんだよ」


 プリントを掴む歩の手に力が入り、クシャと軽い音が響く。

顔を上げると、歩は泣きそうな、怒ってそうな。何とも言えない表情で俺をとらえていた。


「……国語の問題みたいだな」


「そう。

お前はいつも、答えだけ見てる」


葉月が俺を心配するのは身内だから。


櫻井さんや藍田さんが心配してくれるのは上司として、保護者としての責任があるから。


(歩や燐は…?)


身内でもなければ、保護責任もない。自分をどう扱おうと自分の自由。


それなのに何故怒るのかいつも不思議だった。


あの怒りや苦しそうな顔は、どうしたらいいか正解はわからなくても、"これは嫌だ"という気持ちの表れ。


きっとほんの少しあたたかく感じたのは、自分を自分以上に大事に思って、叱ってくれたからだ。


置き換えれば単純。


俺が歩や捺にそう思うように、俺自身もまた"傷つくことが怖い"と誰かに思われていることがあるのだと初めてじんわりと感じた。


 どうにも自分のことに関しては鈍くなる。歩のことを言えた口じゃない。歩のあの行動も根本的な原因は俺のせいだ。


 それに気づいてしまったら、ぽつりと気持ちが漏れた。

 

「…悪かった」


「わかればいーんだよ。ほらさっさと埋めて帰るぞ」


 照れたように急かされる。


 俺は解答を書き上げると、プリントを取りまとめてカバンにしまった。


 正答はわからないが、確かに空白は埋まった。

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