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TRUE♰LIE  作者: れむ
2/13

特殊捜査員


その言葉を境に、少年のまとう雰囲気が一気に変わる。

少年は満面の笑みで白い透明な袋をきゅっと強く握りしめる。


「確かにいただいたよ麻薬密売組織『dolphin’s』のみなさん♪」


 たった一言で、その場の空気が緊迫しざわめくのを肌で感じ、目の前の男も含め周りにいた、取り巻きの男たちも少年と少女に鋭く警戒の目を向ける。


「!? なんでおまえ……っなぜそれを…!?」


「おっと、それは話す必要ないと思うけどね」


「なんだと…?」


 今にも噛みつきそうな視線を送る大の大人を目の前にして尚も、少年は余裕の態度を崩さない。その口元には、先ほどの無邪気な笑みとは程遠く、怪しげに浮かぶ三日月の唇。



「リュウさん…!!」


 突如、乱暴に扉の開く音ともに奥の方から声が飛び込んできた。部下らしきその声の主は、入って来るや否や真っ青な表情で、息を切らしてリュウさんの元へ駆け寄る。


「なんだ新人。お前らには見張りを言いつけておいただろ」


「だからです!まずいです!パトカーがこちらに向かってきてます!!」


 このようなハプニングに慣れていないのか動揺する新人。小さく舌打ちするものの、お頭であるリュウは冷静に状況を分析する。


「チッ!ついてないな、パトロールか。何台だ?」


「それがっ」


 新人が言いかけたその時、窓際にいた者が現状を確認するために、少し騒がしくなってきた下を見下ろす。その顔は、みるみる青ざめていく。


「一、二…三…まだ来ます!リュウさんこれは…」


「ああ、パトロールなんかじゃねぇ。明らかに…!」


 状況を把握したリュウは厳しい状況に、思わず歯ぎしりが漏れる。窓からはパトカーの赤色灯の色が薄暗い部屋に差し込む。やがてパトカーが止まり、ドアを開閉する音がいくつか聞こえてほんの数分もしないうちに暗い夜の街に無機質なスピーカーの音声に乗せて力強い声が響く。


「おまえらは、もう包囲されている。おとなしく出てこい…!」


 その声は、確かにこの廃墟ビルの下から聞こえている。

つまり、包囲されているのはこのビル。完全に逃げ場を失い、ちょっとしたパニックに陥る中リュウは強硬手段に出る。


「こうなったら仕方ねぇ!そいつらを人質にしろ」


 リュウの命令にその場の全員が総出で、二人に向かって襲い掛かる。

しかし少年は少女もかばいながらも、慣れたような身のこなしで軽々とかわす。


「残念だったね。生憎、そう簡単に捕まらないよ。いくぜ葉月!」


 スルリと集団の手を逃れたかと思うと、姉:葉月はづきの手を引いてそのまま窓へと全力疾走する弟:柚紀ゆずき


「待ってゆず!もしかしてここから飛び降りる気じゃ…?」


「おー勘がいいな。セーカイ。しっかりつかまってろよ!」


「え…え…!?」


戸惑う葉月にも構うことなく、窓枠に思いっきり踏み込んだ足をバネにぐっと力を込める。踏み出した勢いで、栗色の柚紀の髪がサラサラと夜風になびく。 爽快な音を立てて、無事に二人が地面へ降り立つ。


「もう!!いきなり飛び降りるなんてビックリしたじゃない!」


「ははっこれくらいよゆーだって」


「そうじゃなくて!!いろいろと心の準備がぁ…」


「そなの? そりゃあ悪かった」


ちょっと涙目になりながら葉月が柚紀につっかかる。

が、柚紀はたいして悪びれる様子もなく、それどころかからかうようなふざけた口調でしれっと答える。


「相変わらず命知らずだな、お前は」


突然の声の主に二人は後ろを振り返る。

すると、ちょっと呆れたような目で、ピンとアイロンのかかった白いシャツに黒いネクタイをきっちりと閉めた、スーツ姿の男性が立っている。その姿に思わず、といった感じでその名が口をつく。


「あ 櫻井さくらい


「さん、だろ。櫻井さん。……で、どうだった?」


よほど慣れているのか、柚紀の失礼な態度に軽く訂正をかけるだけで話を進める。


「ああ、ビンゴ」


柚紀はポケットから先ほどの透明な袋を取り出して、櫻井の前にピッと得意げに差し出した。


「…よし、証拠も上がったな」


柚紀から受け取ったものをしっかりと検査薬で検査し結果をその目で確認した櫻井は、待機していた部隊たちに向き直ると威厳のある声で指示を下した。


「  総員突入!!  」


「ま、待てよおぉぉっっ!!!」


 ほぼ同時に、ひと際大きな叫び声がそこら一帯にこだました。震えた声は、今まさに突入されかけていた廃墟ビルにいるリュウだった。突入しかけていた警官たちも思わず動きを止めた。


「お、おまえら警察だろ?証拠もなくて俺らを捕まえようってのか!?そんなの不当逮捕もいいとこだぜ!!」


ふんっと鼻を鳴らして、余裕の笑みを作って見せる男。しかし、対する柚紀はむしろ楽しそうな顔にすら見える。


「残念だけど、証拠ならあるよ。あんたたちがくれた、この上ない決定的証拠がね」


「く…っ…お前ら…!」


 柚紀に突き付けられた動かぬ証拠につい、言葉が詰まる男。しかし、そう簡単には引き下がらない。


「そんなのでまかせかもしんねぇだろ!警察ももう終わりだな、こんな通りがかりのガキなんかのいうこと真に受けて…!」


「それに関してはだな…」


「いいよ、櫻井さん。自己紹介くらいするって」


 荒れ狂うリュウに冷静に諭しかける雲の切れ間からさす月明かりが、柚紀の胸元に揺れるシルバーのリングを美しく光らせる。月明かりに照らされたリングを見つけて、男は目を見開いた。


「!? そのリング…!!」


「ああ…これ?おじさん目、いいんだね 」


 首から下がる細いチェーンの通ったリングをつまんで、柚紀は紳士的な笑顔を浮かべた。


「そ 俺たちが西鈴警視庁所属、特殊捜査員の葉月と柚紀です。よろしく!


…って、いったってもう俺たちの役目はもうお終いだし、会うこともないだろうけどね」



「くっ……くそーーーー‼」


 男の悔しげな悲鳴が暗く街を包む闇夜に広くこだまする。

突入された警官たちに次々に連行されていくdolphin’sのメンバーたち。


 

 しばらくの間、柚紀たちはその様子をただぼんやりと眺めていた。




























西鈴せいりん警視庁の特別寮から本部へと続く長い廊下。

二人より一回りも二回りも背の高い大人たちが、忙しそうに行きかうその廊下を、俺たちはのんびりと歩いていた。



「葉月、柚紀」

「ふぁい?」


制服姿ながらも、いまだに眠気が抜けずあくびを繰り返す。


「おはようございます、櫻井さん」

 

「おはよう、葉月。昨日はご苦労だったな、ふたりとも。」

 

「ほんとっすよ。もう眠くて眠くてしょうがないったら…………んー」


言いながらまた自然とこぼれるあくびをこらえきれず、背伸びをする。


「はは、学生は大変だ。今から学校か?」

 

「はい。もうすぐテストもありますし、頻繁に休むと何かと疑われたりするから休めませんので…」

 

「そうだな、目立つような行動はくれぐれも控えてほしい。なぁ?柚紀」


 二人に言いながらも櫻井の視線は、集中的に一人に向く。


「って、俺ですか!」


「当たり前だ。お前以外に誰がいるっていうんだ?それと…」


 ひときわ声を小さくして櫻井の目が副総監そのもののそれへと変わる。


「近頃、学生の間で妙な噂が立っているらしい。なんでも特別な力を悪用せんとたくらむ奴らがいるとな」


「特別な…力…ですか?」


「ああ 最近この手の噂が絶えなくてな、まあ”超能力者”なんて非科学的なもんが実在するとは思えないが……とにかく情報に気を付けてくれ。以上だ」


「了解」


「わかりました」







「しっかし、なんだろうな。特別な力って」


 頭の後ろで腕を組みながら、隣にいる葉月にきいてみる。


「うーん、特別な力かぁ…遠くにある物を触れずに動かす力とかかなぁ」


「それなんの犯罪に役立つの?

役に立ってもしょうもないことにしか思えないんだけど…」


「え?うーん、それじゃあ…念力とか?テレパシー使って仲間とこうビビーッと連絡取っちゃったり…」


「え? そんなもんか?」


「え?ちがう?じゃあ時間を止めてー…とかそういうのかな?」


多少納得できないところもあるが、やっと出たまとも(?)な意見に、うなづく。


「まぁ、そんなんだろうけど…にしても、超能力者なんてそうそういないはずなのにそう簡単に犯罪なんて起こせるもんかな」


「んー…よくわかんないけど、あたしたちは情報収集するのが仕事なんだからとりあえず情報を集めなくっちゃだね」


「それもそうだな」


 そんなことを互いに呟きながら、俺らは教室へと向かった。





 

――ガラ……。


 教室の扉を開けると、それに気づいた俺たちの友人が駆け寄ってくる。教室に入った時から俺たちは、特集捜査員ではなくごく普通の学生へと変わる。


「お 柚紀。はよ」


「おう  あゆむ


「葉月!おはよー」


「なっちゃん おはよう」


浦木(うらき) あゆむ

俺が一番初めに仲良くなったクラスメイトだ。

そして葉月に声をかけてきたなっちゃんこと城山しろやま なつ

確か歩の所属する野球部のキャプテンの妹(?)だっただろうか。

そもそも部活動生ではない俺たちにとっては特に関わりがないからその辺の関係はよく覚えてはいないけど。

相変わらず一緒に登校してきた俺たちの顔を交互に見比べると、捺はあきれたように小さなため息をつく。


「あんたたちほんと仲よしよねぇ、一緒に登校したり帰ったり…ほんとに付き合ってないの?」


「まぁね、歩たちほどじゃないけどさ」


「「なにその言い回しこんなん全然好きじゃないし」」


(誰も”好き”とはいってないが?)

 内心ツッコみつつも、俺の挑発に乗せられた二人が、これまた仲良くハモりながら反論する。

俺ら二人が双子であることは、生徒を含め一部を除いては先生も知らない。だから何も知らない歩達からしたら仲のいい男女、と見えるだろう。

しかし、歩たちは違う。

俺たちみたいな双子なんかじゃないのに何かといつも二人一緒にいる。これはなんだかんだいっても仲良しだと思う。









 

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