ハッピーバースデー
「「「柚紀くん、葉月ちゃん、お誕生日おめでとう!!」」」
とある休日。
橘さんに呼ばれて中会議室へ入ると、そこには櫻井さん以外にも、普段あまり話す機会のない様々な部署の大人たちが十数名ほど集まっていた。
クラッカーが弾け、無機質だった会議室が一瞬で華やかに彩られる。
「あ、ありがとうございます……」
「ありがとうございます!」
突然のサプライズにどぎまぎしている俺とは反対に、
葉月は驚きながらもとても嬉しそうにお礼を言っていた。
連結された会議用テーブルには白いクロスがかけられ、
その上に色とりどりの料理がずらりと並んでいた。
大きなネタのお寿司、香ばしいガーリックの香りが漂う肉料理、
新鮮なサラダ、デザートまで。
ビュッフェ形式で皆が思い思いに皿を手に取り、和やかに談笑している。
「今日のごちそうは藍田さんや俺たちのおごりだから、遠慮せずいっぱい食べてね」
「はい。……あれ?藍田さんは?」
「今日は大事な用事があるんだって。代わりにプレゼント預かってきたよ。はい、これ」
橘さんから手渡されたのは、薄く平たい硬質な箱。
俺と葉月は一度顔を見合わせ、そっと蓋を開ける。
中に入っていたのは、指紋ひとつない新品のスマホ。
見た瞬間、最近発売された最新型だと分かった。
「最新のスマホ……!」
「わー!ありがとうございます!」
「いえいえ。今度本人に会えたら、お礼伝えておくね。じゃ、楽しんで!」
橘さんは軽く手を振り、また皆の輪に戻っていった。
その後は、二人用のケーキを皆で分け、余興やミニゲームもあって、
緊張していたはずの俺も最後にはすっかり自然に話せるようになっていた。
◇ ◇ ◇
楽しかった会も終わり、満腹で息苦しいくらいの状態で、
櫻井さんと共に会議室を後にする。
寮へ続く廊下で、櫻井さんが振り返った。
「どうだ?腹いっぱい食えたか?」
「はい、あと1日は食べなくても大丈夫そうなくらいには」
「とても美味しかったです!ありがとうございます」
「そうか。よかったな。……んじゃ、こいつは俺からだ。おやすみ」
そう言うと櫻井さんは、俺と葉月の頭の上へぽん、とプレゼントを乗せた。
あまりに自然な手つきで、
気づけば俺はその箱を手に取っていた。
俺のは手のひらサイズの正方形の白い小箱。
葉月のは長方形で、ファンシーな柄の包装紙に包まれている。
部屋に戻り、それぞれ開けてみる。
「わー!!見て見てゆず!かわいいネックレス!どう?似合うかな?」
葉月が首元にかけたのは、
小ぶりな花モチーフの華奢なネックレス。
色白の肌にきらりと映えて、本当に似合っている。
「うん、似合う。かわいい」
(櫻井からのじゃなければな!!)
なんでもスマートにこなすあの意地悪な大人が、
こんなに葉月を喜ばせている事実に、
複雑な気持ちがじわりと胸に広がる。
俺も自分の箱を開けてみると、
そこには黒のスマートウォッチが入っていた。
(まぁ……別に嬉しくはないが、あるに越したことはないし……もらっといてやる……)
もし櫻井さんがいたら、
この心の中の悪態は秒でバレて怒鳴られるだろう。
スマホに続き、こんな高価なものばかり。
ありがたさと気恥ずかしさの両方を感じながら、
左手首にスマートウォッチをそっとはめた。
両親が亡くなった頃、
どんな誕生日を過ごしていたかもう覚えていない。
けれど今こうして、寂しくない誕生日を過ごせているのは、
藍田さんをはじめ、ここで迎えてくれる皆のおかげだ。
年齢はまだ学生でも、
この場所に少しでも恩返ししたい。
今日は、その思いを改めて胸に刻む夜だった。




