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灰色世界に命の雫を  作者: 白馬 鏡
プロローグ ep1~ep13
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モニター越しのテレパシー

 「……わたしは、……誰、なんですか?」

 少女が口にしたその言葉に不意を突かれたぼくは、目の前に座るこの子に対し、驚きを隠せないでいる。予想外の現状に戸惑いつつもぼくは、すぐにポッド近くの端末を起動し、少女のバイタルチェックを行った。

 端末のキーを叩くぼくの操作によって、数枚の電子モニターが展開され、それら全てのモニターに少女の健康状態に関するデータが表示されていく。

 全てのモニターに目を運び少女のデータや数値を確認するも特に異常は見られなかった。治療に使用したナノマシンも正常に作用している。

 ウォロン:ヴィオラ。手術は無事に成功したんだよな。

 ヴィオラ:ええ、何の問題も無く。ご指示通りナノマシンを使用した彼女の手術は成功しています。

 ウォロン:じゃあ、なんで記憶が

 ヴィオラ:恐らくこれかと

 目の前の状況をまだ把握できていない少女。あの子に不安を与えないよう会話の内容を聞かせないためにぼくは端末のチャット機能を立ち上げ、そこに現状に対する疑問点を叩きいれる。ぼくの質問にヴィオラから一つのデータが送られてきた。届いたデータをぼくは、最優先で開いた。

 開かれたデータには、少女の手術前のバイタルデータと術後のバイタルデータを並べた比較データだった。それに目を通したぼくは、あることに気づいた。

 ヴィオラ:お気づきになりましたか

 ウォロン:ああ、

 術前のデータに載せられている少女の人体を表した図。図の数か所には異常が見られる部位を可視化したように赤く染められていた。

 歩行機能を失った脚部、損傷した左腕部、視覚機能を失った左目、そして出血が確認されていた頭部の一部分。

 ヴィオラ:恐らく、頭部に見られるこの小さな外傷が彼女の記憶に異常を与えた原因かと

 ウォロン:……そうか

 ヴィオラからの予測にとりあえずのコメントを返す。

 口元に手を当てながら表示されているデータと睨めっこする。ふとぼくの視界に心配そうにこちらを見つめる少女の顔が映り込んだ。

 ぼくは少女へ笑顔を向けつつ「大丈夫だからね。ちょっと待ってて」とその場しのぎ言葉を口にする。ぼくの言葉に少女は、無言でコクリと頷いた。

 口元に当てていた手を再び端末のキーへ添える。

 ウォロン:少女の記憶を戻すことは出来ないのか?

 ヴィオラ:出来たらとっくにやってますよ!

 ヴィオラ:第一、生物の記憶は未知の領域。いくら私が世界最高峰のコンピュータだからといっても失う・忘れる前の記憶を戻すなんて無理ですよ

 ウォロン:だよな

 ヴィオラからのチャットに思わずため息が零れる。

 ヴィオラ:そう決めつけられるのも、なんか嫌なんですけど……

 ウォロン:じゃあ、どうするよ

 ヴィオラ:でしたら記憶を上書きしますか。それか洗脳でもして

 ウォロン:それはダメだ!思い出すのならいざ知らず、上書きや洗脳はそれまでの生き方の否定だ。それに…

 ヴィオラ:それに……なんです?

 ウォロン:この子にとって地上の惨状は忘れちゃいけないものだ

 ヴィオラ:それはウォロンの考え方でしょうに。あの惨状を忘れて生きられるならそのほうが良いでしょう

 あーどうすれば良いんだ!そんなぶつけ先の不明な気持ちを胸の内で叫びながらぼくは頭を掻く。

 あーでもない。こーでもない。色々な方法を考える中、ぼくはあることを思い出した。

 ウォロン:ヴィオラ、分かったぞ。あの子の記憶を戻す方法が!

 ヴィオラ:なんですか?

 ぼくは、思いついたとっておきの方法をチャットに素早く打ち込んでいく。

 ウォロン:あの子を…ぼくの妹にする

 ヴィオラ:……はい?

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