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灰色世界に命の雫を  作者: 白馬 鏡
プロローグ ep1~ep13
7/37

目覚めと答え合わせ

 プシューとポッドが白い煙を吐く。開いたポッドの中から身を起こし目を覚ましたぼくは、自身の身体に違和感や痛みが無いか確認するため手足を動かしたり関節や腰をひねった。

 数時間前、少女の入っているポッドの端末操作を終え、残りの設定とポッドの観測をヴィオラに引き継いだぼくは、自分の怪我を治すためにもう一つのポッドで横になった。

 世界中のありとあらゆるデータを持つヴィオラ。それらを基礎に人間や生物・無機物までも完璧に治すこのポッド。おかげで奴らの襲撃によって受けた怪我は全て完治していた。制限無く動かせる指一本一本からそれを実感する。

 ポッドから出たぼくは身に着けていたボロボロになった衣服を脱ぎ棄て、ヴィオラが用意してくれた黒を基調とした衣服に袖を通す。この衣服はヴィオラが製造してくれた特別品であり、ある程度の耐刃・耐熱・耐衝などが施されている。

 頭の先から足の先まで身を新たにしたぼくは、黒く反射するヴィオラの素体を鏡代わりに自分の身なりをその目に確認する。

 「あの(アノ)ー、ヒト()(カガミ)代わり(ガワリ)にするの(ニスルノ)やめてもらえます(ヤメテモラエマス)

 身だしなみを確認するぼくの耳にヴィオラからの呆れを感じさせる音声が聞こえてきた。

 「これくらい良いだろ」

 そんな返事をヴィオラにしつつぼくは、一つまみした髪の毛先をいじる。

 「ヴィオラ、あの子はどう?」

 黒いヴィオラの素体から視線を外し、隣でまだ蓋が閉じたままのポッドに目を向ける。システムが作動したままのポッド、その中で少女は瞼を閉じている。しかし数時間前に目にしていた少女の傷は、その影を思い浮かばせないほど綺麗に無くなっていた。

 「手術(シュジュツ)()完了(カンリョウ)しています(シテイマス)ですが(デスガ)まだ(マダ)眠って(ネムッテ)もらって(モラッテ)います(イマス)

 「なんで?」

 意図的に寝かせている。何故そんなことを?ヴィオラの判断に対し、思わず疑問の声が漏れる。

 「目が覚めた(メガサメタ)(トキ)知らない(シラナイ)場所(バショ)にいれば(ニイレバ)どうなりますか(ドウナリマスカ)そんな(ソンナ)彼女(カノジョ)()私一人(ワタシヒトリ)()相手(アイテ)するのは(スルノハ)面倒(メンドウ)です(デス)

 ヴィオラが続けて発した理由にぼくは納得した。確かにあの子にとってここは不可解な空間だ。目覚めたばかりだと記憶も曖昧なことが多い、誰もいないこんな場所で、こんなデカいのに声を掛けられたら誰だって混乱する。

 「()どうします(ドウシマス)

 「え、!」

 「開けますか(アケマスカ)もう(モウ)少し(スコシ)(アト)にしますか(ニシマスカ)?」

 「……わかった、開けてくれ」

 今なのか、後なのか、どっちにしろ現状を説明しなきゃいけないことに変わりは無い。けれど何をどう説明すればいいのやら、少女への説明も纏まっていないままヴィオラにポッドを開けるよう指示を出す。そんな目先のことを考えてる間にも、ヴィオラによって少女が寝ているポッドの蓋が白い煙を吐きながらゆっくりと開かれる。

 ポッドの中で横になっている少女の瞼がゆっくりと上がる。

 「……ここは、」

 見知らぬ天井か、見知らぬ顔か。少女は自分の目に映ったものが何なのか?理解しようとしている。

 「おはよう、気分はどうかな?」

 ぼくは、当たり障りのない質問を目覚めの挨拶と共に少女へ送る。

 「……え~と」

 現状に困惑しているのか、質問にどう返せばいいか分からないのか。少女は起き上がりつつも、ぼくらに戸惑いの表情を見せる。

 さすがに当たり障りなさ過ぎたか。少女が浮かべる顔色にぼくは、質問を間違えたかな~と頭を抱える。

 「気分(キブン)はどう(ハドウ)なんて(ナンテ)今どきの(イマドキノ)小さい(チイサイ)()でも(デモ)もっと(モット)上手い(ウマイ)こと(コト)言えますよ(イエマスヨ)

 そんなことを考えていると空間全体に広がるヴィオラの発する音声が、ぼくの耳に入り込んできた。

 言われなくてもそんなことは、ぼくも分かってるよ!」

 ヴィオラの音声に頭の中でツッコミを入れつつ振り返ったぼくは、無言の視線をヴィオラへ送った。

 「あ、あの~」

 何かを伝えようとしているのか?少女の声にぼくとヴィオラが反応する。

 「ここは……何処ですか?」

 「あ、ここはね……」

 少女からの初めての言葉に返事をしようとした時、続けて少女の口から出た言葉にぼくは答えるはずのものを一度、喉の奥へ戻した。

 「……わたしは、……誰、なんですか?」

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