救うことと助けること
「ヴィオラ、ポッドを出してくれ」
「了解しました」
ぼくの指示を認識したヴィオラがそう回答する。
巨大コンピュータ『ヴィオラ』その両脇に広がるコンクリートで出来たまっさらな地面。ゴゴゴッと音を立て地面が開き、中から人が寝れるくらい大きなポッドがそれぞれに一つずつ計二つが出現した。
ぼくはヴィオラの右手にあるポッドへ近づく。近づくとポッドが自動で開いた、ぼくは背に抱えていた少女を注意を払いながらゆっくりと下ろし、ポッドの中へ寝かせた。
少女の存在を確認したポッドがゆっくりと閉まる。ぼくは傍に置かれていた端末に手を伸ばし、ポッドの操作を始めた。
身体中に駆け巡る痛みを奥歯で噛み締めつつ手元に集中しながら出来る限りの速度で、一つ一つキーを打っていく。
「……正気ですか?」
ポッドの指示を受けた時点で気づいていたのか?打たれたキーから自身に流れてくるコードで感づいたのか?ぼくが今やろうとしていることに気づいたヴィオラが、そんな音声を発する。
「ああ、」
ヴィオラの質問にぼくは冷静に返す。
「それを彼女は望んでいるのですか?」
ヴィオラからの言葉に端末を操作するぼくの手が一瞬、止まる。その後すぐ、ぼくは操作を続行する。
「ナノマシン。それで彼女を治しても以前と違う体に気づいた時……」
「この子はぼくの呼びかけに答えてくれたんだ。助けてって、だからぼくはこの子は助ける!」
発し続けるヴィオラの音声を遮るようにぼくは、心の中に生まれている決意を吐き出す。
「……助けることは生かすことではありません。僅かな命を終わらせることも助けることです」
「ヴィオラ。お前が言ってることは分かる。けどお前が言うそれは、ただの救いだ。助けることじゃない」
「ウォロン、貴方の言い分も十分救いですよ」
「……いいから手伝えよ!」
ヴィオラが発した一言に思わず端末を叩く。定まらない不協和音な呼吸。そんなに成りながらもぼくは、あの子を助けることに集中する。
それから暫くの間この空間では、素早く叩かれるキー音と演算処理の行われる電子音だけだった。