デリア・ミューリュ
デリア・ミューリュの案内を終えたルセットさんが席を外し、ぼくは彼と二人で話すことに、
「確認ですが、ウォロンさんがこの都市に来られたのは昨日でお間違いないでしょうか?」
業務の一環と言わんばかりにスラスラと口にするデリアの言葉にぼくは「はい。そうです」と頷く。
「ありがとうございます。それでは幾つか確認を説明させていただきました」
デリアは手元の紙束を捲り始め、ぼくへ質問を始めた。
聞かれる質問の内容は想定していたものよりも普通で、盗み聴きしていたとしても違和感を抱くようなものは無かった。
「名前に職業、主な目的や滞在日数もしかは永住か?身分証の確認」など
どれもこれも自分がいた村で仕事を始めた時に耳にしたような手続き上必要なことばかりだった。
ぼくはその確認事項のほとんどに嘘なく答えた。デリアは、返ってきた答えを耳にしながら手元の紙束にペンを走らせる。
「ご回答いただきありがとうございます。確認事項は以上で終わりです」
走らせるペンを止め、デリアは紙束を上から下へとなぞっていく。自身で記した内容に不備が無いことを確認した彼は紙束閉じた。そして……
「では最後に一つ注意事項がございます」
デリアはぼくの前で人差し指を立てる。その一つの注意事項にぼくは大体の察しがついている。
「この都市に滞在している間は一切、外のことは口にしないで下さい。ここに来るまでの道のりは勿論のこと。外で経験したことや大陸・生物その他の情報も他者には漏らさないで下さい」
優しげな表情で注意事項を口にするデリア。そんな彼にぼくは「もし口にしたら……?」と聞く。すると一変、デリアはその表情から優しさを消し、仕事人間のような怖い表情を浮かべ言う。
「それを……お聞きなさいますか?お伝えしても構いませんが、その後の保証は出来ませんよ」
敵を前にしているかのような表情のデリアを前にぼくは……
「いえ、そう言われては結構です。最も少し気になっただけなので、」
「……そうですか。私も口にしないで済んで良かったです。それでは私はこれで。」
怖い顔から再び優しげな顔に戻ったデリアは、一礼してこの場を後にする。と思いきや……
「あ、そうだ!」
何かを思い出したようにデリアは踵を返してまたぼくの方へ顔を向ける。
「ウォロン。あちらで昼食を取られている彼女は……」
デリアはその手でティアのいる方を差す。
「連れです。それが何か……?」
「お連れ様ですか。ですと彼女にも確認を取りたいのですが宜しいでしょうか?」
「すいません。ついさっき泣かせてしまって……、身分証の確認じゃダメですかね?」
「そうしましたら同一かどうか?お顔だけ拝見してもよろしいでしょうか?」
「……わかりました」
正直、今のティアを会わせたくは無かったけど、ここで拒否すれば変に踏み込まれかねない。そう感じたぼくはデリアの頼みを聞き入れ、倉庫内でチキンサンドを食べているティアを呼びに行くことに。
ティアの下へ行くと彼女はチキンサンドを食べ終えており、飲み物を喉に流していた。
「ティア。ちょっとだけいいかな」
ぼくはお昼をゆっくりしていたティアを起こし、デリアの待つ倉庫入口へ戻った。
「お待たせしました。この子がティアです。ティア、挨拶して」
「……ティア・エルユです」
「っ、……初めまして、デリア・ミューリュと申します」
局員の制服でビシっとしているデリアに少し怖さを感じたのか?ティアはぼくの背後に隠れつつデリアへ挨拶する。
「それでは身分証を確認しますね」
デリアはぼくからティアの身分証を受け取り目を走らせる。少しして確認を終えたデリアから身分証が返ってきた。
「お二人とも確認が取れました。大丈夫ですねので、私はこれで失礼させていただきます」
最後に笑顔を見せたデリアは、ぼくらに軽い会釈し去って行った。
「もう少し休憩してから再開しようか」
ぼくの言葉にティアは元気よく頷く。さっきの涙目が嘘かのようにティアは笑顔だった。
倉庫内の休憩スペースまでティアが先を歩く中、ぼくはそれを目に入れつつ流れてくる音声に耳を傾ける。
「気づきましたか。ウォロン?」
「ああ、」
ティアに聞かれないよう、ヴィオラの音声にぼくは脳内で返信する。
「さっきのデリアとか言う人……」
「ティアの顔を目にした時、信じ難い物を目にしたような様子だったな」
「ええ、恐らくというか確実というか昨晩の襲撃を知る者だと」
「だよな。だからって今何か出来る訳でもないし、暫く様子見だな」
デリア・ミューリュ
一局員である彼が、どうしてティアを前にあの反応を見せたのか?
彼から王族へと繋がるか?
さてどうするか……?




