首と牢屋
瓦礫の山から少女を助けたぼくは、少女を背に抱えつつ町はずれにある教会へと向かった。満足のいかない身体に少女を庇いながらだったせいか?教会へたどり着くまで結構な時間が掛った。ふと上空に目をやると日の光は、いつのまにか真上まで昇っていた。
歩き進めるぼくの目に半壊した教会が映り込み始める。扉は吹っ飛んで無くなっており、踏み入れる足が床に散らばる埃や石ころを揺らす。削れた柱、散乱する長椅子、奥に佇む首や腕が欠損した石像、教会内の惨状が視界に広がる。
「…惨いもんだな」
頭の中で浮かび上がる感情が、思わず口から零れ落ちる。
埃まみれのカーペットの上を鳴らし歩き、ぼくは奥にある石像近くを散策する。大人の手のサイズくらいの瓦礫を手に取り、これじゃない。これでもない。と、背に抱えている少女に細心の注意を払いながらぼくはあるものを探す。
「…あ、あった」
そう言いつつぼくは目的の瓦礫を手に取る。目的の瓦礫、それは…石像の顔。この教会の地下にいるアイツに会うには、これが必要だった。
石像の顔を観察し状態を確認する。……特に問題は無い。大丈夫そうだ。石像の顔に目立った損傷は観られず、ホッと安堵の息を漏らす。
一度、抱えてる少女の位置を安定させてから石像の顔を脇に挟み、石像右手にある階段から下に降りる。手すりや壁に沿いながら一段一段降りて行く。地下三階くらいだろうか?淡いオレンジ色の光に照らされている部屋に辿り着いた。
入口から見える位置・左手には、鉄格子の扉をつけた部屋が幾つか並んでいた。牢屋だ。と言っても罪人を入れるためのものでは無く、悪さをした子供を収容する反省部屋みたいなものだ。ここに入ったからと言って、不憫な扱いを受ける訳では無い。食事だって朝・昼・晩の三食分ちゃんと用意される。
なんでそんなことを知っているのか?って、それはぼく自身が昔よくここに収容された経験があるからだ。だからこそ何故石像の顔が必要なのか?ってこともこの先にあるものもこの町では、ぼくだけしか知らなかった。
そんなことを思いながら入口傍から順に4つ目の牢屋の前に立ち格子を引き、そこへ足を踏み入れる。牢屋内中央の壁を見つめる。
「パスコード:R.3997」
ぼくは、あるコードを口にした。その言葉に反応し、牢屋の壁をなぞるように青い光が線が走る。やがて壁に手のひらサイズの四角いくぼみが現れる。
腕の力を抜き脇に挟んでいた石像の顔が落ちる。ぼくはそれをなんとか上手くキャッチし、てにした石像の顔をそのくぼみに入れた。石像の顔を確認したくぼみが壁の中へ収納される。直後、ゴゴゴっという強い揺れ音と共に牢屋の壁が両開きの扉のように開き始めた。
扉からその先の奥に伸びる人工的な廊下。ゴールの見えない真っ暗なその先にぼくは、少女を抱えながら進んで行く。