お疲れで宿屋
「いや〜、ありがとう。助かったよ」
「お力になれて良かったです。ではまた明日、お疲れ様です」
夕暮れ時、量産型機兵一機の解体を終わらせたぼくらは、ルセットさんに報告し倉庫を後にした。
「これからどうするんですか?」
都市部へ向かう中、一緒に歩くティアがこの後の予定を聞いてくる。
「明日もあるし、今日は宿屋かな」
「宿屋?」
聞いたことが無いのか?ティアは耳にした宿屋という単語を復唱する。
「知らない。ご飯食べたり、風呂に入れたりする施設なんだけど……」
「聞いたことはあるんだけど、見たことは無くて。だからちょっと楽しみ!」
宿屋という楽しみが増えたティア。そんな彼女の歩調はいつもより軽快に弾んでいた。
それから都市部に戻ってきたぼくらは、泊まれる宿屋が無いかを探し始める。けど……
「はぁ〜、何処もいっぱいだね」
四軒ほど回ったが、何処も部屋が一杯で泊まることが出来なかった。
隣で歩くティアもさっきのワクワクした歩調とは一転して、今は元気の無いトボトボ歩きに変わっている。
まぁ、さすがに四軒も回れば疲れもしますね。と言いても時間も時間だ。次の宿屋で最後にしよう。
都市部の中心から離れる形で足を進めること数分。疲れ歩くぼくらは一軒の宿屋を見つけた。
“エスカルゴン”
宿屋の看板にはその文字が刻まれている。
「なんだか凄い名前ですね。入ってみましょ!」
ティアは先行して宿屋エスカルゴンの扉を開けた。
「待って!ティア」
ぼくは先行するティアの後を追う。
チリーン!!
「いらっしゃいませ!」
宿屋に入るとウエイトレス姿の若い女の子がカウンターから声を掛けている。
「すいません。宿泊したいんですけど、部屋空いてますかね?」
元気なウエイトレスの子にダメ元で尋ねる。
「空いてますよ。宿泊期間はどうされますか?」
「三日間でお願いします」
「かしこまりました。部屋数は幾つ使われますか?」
「二部屋で、……」
「一部屋でお願いします!」
ぼくの言葉を遮ったティアが、ウエイトレスに注文する。
「え、え〜と」
突如として耳に入ってきたその注文にウエイトレスの子は、困惑した様子になっている。
「ティア。ぼくらは男と女だ。さすがに同じ部屋には……」
「兄弟なら問題ないはずです」
「いや、でもね。……」
それでもダメだ。そうティアに言おうとしたのだが、ティアは頬を膨らませ“むっ”と怒っているかの様な表情を見せる。
暫くティアの顔を見つめるもぼくは「はぁー」とため息を落とす。
「一部屋でお願いします」
「一部屋ですね。かしこまりました」
注文を受けウエイトレスの子は手元の紙にペンを走らせる。
その待ち時間。ぼくは不安のため息を、ティアはウキウキした表情を、互いに募らせていた。




