旅への翼と広がる両手
ヴィオラの連絡を受け、ぼくとティアは巨大コンピュータのあるこの部屋から奥へと続くもう一つの部屋へ向かった。
重い鋼の扉を抜けると先ほどと似た広さ空間が広がっていた。空間の隅には幾つもの鉄柱が建てられており、中央には一機の戦闘機が格納されている。
戦闘機に近づき、ぼくはコックピット付近で足を止める。その時、急に足を止めたからか?跡をついてきていたティアがぼくの背中にぶつかる。後ろを確認すると、ティアは額を掻いていた。
視線を再び戦闘機のほうへ向ける。
一般的な戦闘機よりも大きいせいか?見上げると戦闘機の胴体部が視界一杯に広がっている。けどこのままじゃ、コックピットには届かない。
ぼくはその場で一つ、踵を鳴らした。すると……ぼくのサインに反応し、ぼくらが立つ床が不細工な造形を形成しながら上へ向け、一直線に伸び始めた。コックピットまで伸びるその床にただ身を任せた。因みにこの時ティアは、伸びていく床に「え⁉なに、なに、」と怯えた様子でぼくの腕を掴んでいた。記憶が無いとは言え、初々しいその反応を見せるティアが可愛いなと思ってしまった。
「よっ、と!」
コックピット傍にまで届くと床は動きを止めた。ティアに一度、手を離すようにお願いしたのち、ぼくは軽く飛び戦闘機へと乗り込んだ。
着地もバッチシ!足元や高くなった目の前の風景に関心しつつ、ふとティアのほうに視線を向けると……
「あ、あわわ、あわわわ」
細く長くそびえ立つ床の上でティアは、青ざめた表情を浮かべながらその身を縮こませていた。その姿はまるで、高い所に上ったはいいモノの自分では降りられなくなっている小動物のような状態だった。
やばい!早く引っ張んないと、
「ティア!」
コックピットの縁に足を掛け、ぼくはティアへ向け両腕を広げる。安心しろ!という気持ちを表情に載せ、ティアを見つめる。しかしティアは怯えていて、飛ぼうとはしない。
「大丈夫!ちゃんと受け止めるから、ぼくを信じて」
怯えるティアに安心するよう声を掛ける。いつティアが飛んできても良い様に彼女へ向け手を伸ばす。
「っ、」
彼女の中で覚悟を決めたのか?勢いよく地面を蹴りぼくの胸目掛け、ティアは飛んで来た。飛んでくるティアは、恐怖からかギュッと目をつぶっている。
飛んできたティアをぼくはその身体で、腕で、ギュッと抱きしめる。
涙を浮かべた瞼を上げ、その目に自身を受け止めるぼくの姿がティアの目に映る。
「……怖かった~」
胸の中で脱力感に駆られた声が木霊す。そんなティアを前に顔から笑みが零れる。
「何イチャイチャしてるんですか」
ふと電子音がぼくらの耳に送られる。聞こえてきた音のほうへ視線を向けると、コックピットの操作パネル中央の小さなモニターでヌルヌルと顔文字が動いていた。
「別にイチャイチャしてねぇよ」
ため息を零しながら顔文字へ向けそんな気持ちを吐く。
「観てましたけど、最初から一緒に飛べば良かったんじゃないんですか」
「あ、いや~、それは……」
「観測者たちもそう思ってますよ」
「観測者って?」
顔文字に言われながらぼくは辺りを見渡したが、特に何も無い。
「サァ、」
そんな姿のぼくに顔文字のヴィオラはそう何かを濁すのだった。