あの時と奥の部屋
「どう?サイズは、」
自分が着ている服と同様の服をティアに渡したぼくは、彼女からサイズ感や着心地を確認する。
「すごい。こんなの着たことないよ」
ティアは手足を動かしながら身に着けた服の関心を見せる。
「ねぇ!」
服の凄さに驚きを見せている目の前に立つティア。少し視線を外していただろうか?ティアのことを見ていたはずのぼくを呼ぶ。
「見て見て、ウォロンさん」
楽しそうにぼくを呼ぶティア。ぼくの目が自身に向けられていることを理解したティアは、ひらりっと一回転する。回転によって服の裾がはためく。その姿はまるで、新しいおもちゃを買ってもらった幼子のようだ。
回転を終えたティアは、にっこり笑顔を浮かべるとそのままジッと固まってしまった。ティアの笑顔から一直線の視線が送られる。どうやらティアは、ぼくからの感想をお待ちのようだ。そんなティアに・・・
「うん、似合ってるよ!」
ぼくは、当たり障りのない思った感想を口にした。
「ありがとうございます!」
自分に送られた感想に元気よく返すティア。ティアの反応を見て、ホッとした気持ちが心の中に残る。
下手に可愛いとか、カッコいいとか、言わなくて正解だったな。ティアは女の子だ。と言っても14歳という年頃だ。なぜティアの年齢を知っているのかって、ティアを解析したヴィオラからの報告だ。記憶が無いとは言え、自分を取り巻く環境には敏感な歳だろう。
「着替えた後で今更だけど、本当に良いの?」
「大丈夫!手伝うって決めたもん」
心配そうに聞くぼくの言葉に、胸の前でガッツポーズをとるティア。
「それに記憶も戻さなきゃだし」
昨日の襲撃者。彼らがここに来る前からぼくは奴らの下に向かう事を計画していた。
14歳の少女・ティア 記憶があるにしろ無いにしろ助けた時、彼女を一人留守番させる訳にもいかないと思っていた。
ヴィオラに任せても良かったが、機械と人じゃ考え方が違う。何より初対面だ。
たった一つ助けた命。ティアに対してだが、柄にもなく心配性を抱えるようにぼくは、仕事の手伝いという名目で彼女を旅に連れて行くことに決めた。まぁ、何かあったらぼくが身を呈してティアを守ればいいことだ。この時はまだそんな風に思っていた。
完璧な人間は存在しない。どんなに自分の腕に自信があっても誰しも失態を犯すことはあるのだと。
ヴィオラ:ウォロン、例の調整が整いました
ウォロン:分かった。すぐそっちに行く
左手のほうの服の袖に着けられている青く発行する細い機械から小さなモニターが展開され、ヴィオラからのチャットが届く。そのチャットにすぐさま返信を入れたぼくは、ティアに声を掛けつつ部屋の中心にそびえる巨大コンピュータの後方に回り込む。
巨大コンピュータの背後には扉が一つ。部屋を移動することに少し怖がっているのか?そんなティアがぼくの背後にピタリとくっついて来る。
扉が自動で開きぼくらは、その奥へ進んで行く。