烏鳴く朝
カー、カー、カー、
どこかでカラスが鳴いている。
鳴り響くその声で意識を取り戻したぼくは、パチパチと降りていた幕をゆっくり上げる。開いた目にまず入り込んできたのは、薄暗い部屋の光景だった。しかしその光景は一般的に目にするようなモノとは程遠かった。
崩落した部屋の壁から徐々に差し込んで行く日の光が部屋の惨状を鮮明に浮かび上がらせる。横倒しになっている長机、足の折れた木製の椅子、散らばる食器やガラスの破片、シンクから溢れかえる水道水、床に染み付いた血痕。ボロボロの壁に背を預け座っているぼくは、この目にその現実を認識する。
現実を認識したぼくは開けた目を一度閉じ、下手に身体を動かさず耳を澄ませた。
…… …… …… ……
再びゆっくりと目を開ける。
吹き抜けてくる風の音、生きていることを証明する心臓の音。それらの音だけがぼくの耳に流れ込んだ。
とりあえず近くに人の気配がないと感じたので、天井へ向け無事な片手と背中で壁を這うようにして身体を伸ばす。
一度深呼吸し、目の前に残るボロボロの扉へ向け、一歩一歩ゆっくりと足を動かす。脳からの指示に応答しない右足を引きずりながら進むこと…やがて扉の前にたどり着いたぼくは、無事な片手でその扉をコツンっと叩いた。
力を加えられた扉はギギ…と音を立てながら外側へ崩れ落ちていった。部屋から外へと通ずる道が開かれる。扉が落ちたことで日の光が、浴びるようにして一斉に差し込まれる。その光に対し眉間にしわを作るぼくは、崩れ落ちて床に散らばった扉の破片を踏みつけつつ薄暗かった部屋を後にする。
部屋から外に出て次にぼくの目に映った光景は、建物や木々の燃え跡だらけの灰色の世界だった。