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「ラブラブ」「長靴」「長丁場」
「今日の山越えは厳しそうだが大丈夫か?」
先輩隊員が心配して声をかけてくれた。
初めての旅路、初めての雷雨、初めての山越え。これら全てが被らなくても良いのになと心底思った。
空は黒く分厚い雲に覆われ、振り向いた先輩はカッパを深くかぶっていて、その顔までは覗き込めない。
「正直、怖いっすけどね」
頭をポリポリと掻きながら俺の後ろから声が聞こえた。
こいつも、俺と同じ新人だ。
「でも、俺には故郷の恋人から祈りを込めてもらったこの長靴がありますから!」
雷雨に打たれながらそう、嬉しそうに話す新人。
カッパを深くかぶっているのにその口元が緩んでいるのがわかる。
正直、羨ましい。
俺も故郷に恋人がいるが、この旅路に出る前に大喧嘩をしてしまったところなのだ。
空咳を繰り返す彼女は元気だろうか。
この雷雨の山を越えればようやく故郷に辿り着く。
旅路の途中で小さな白い花を見つけ、それを押し花にして持ち帰ろうと、このリュックに詰めている。
この山を越えたら、彼女に花を見せてやるんだ。