第61話 少年と蟒蛇
──飛空技師は駆り出される──
障害を退け、遺跡へと帰還する──。
── 昼前 -遺跡-
「あっ! お姉さん居たー! ──なんか乗ってるー?!」
「いいでしょー、ユク君も乗る?」
「乗るっ!!」
偽竜種の背に揺られながら遺跡に戻ると、ユク君がお出迎えをしてくれた。戦い疲れた体に生気が吹き込まれていくのを感じる…。
はしゃぐユク君の両脇に手をやって持ち上げ、優しく偽竜種の上に乗せてあげた。普段よりも高い視点に御喜悦な様子。
「それでユク君、もしかしてだけど私のこと探してた?」
「うんっ。おじいちゃんがね、かいどく?できたんだって」
文法がどうたらこうたら言ってたのにもう解読できたのか…流石に凄腕を自称するだけはあるな…、素晴らしい手腕ですこと…。
ユク君を乗せた偽竜種と一緒に、師匠が待つ遺跡内部へと入る。果たしてどんな内容が描かれていたのだろうか…。
内部に入ると、ヤーナダ文字が殴り書きされている紙が床にいくつも散らばっていて…その中央に手帳を持って座る師匠の姿があった。
「来たよ師匠、もう解読できたんだって?」
「うむ…お主等にいいとこ見せたくてつい張り切ってしまったわい…。お主は何か見つけ…──なんじゃ随分お疲れのようじゃな。あとその偽竜種はどこから連れてきたんじゃ…?!」
一目見て私に何かがあったことを察するとは…、流石は年の功…あんまり気取られないように意識してたつもりなんだけどな…。
偽竜種については拾ったと適当に説明をし、早速本題に入る。師匠は手帳を持って1つ目の壁画の前に立った。
「まずはこれじゃな…〝天を仰ぐヘビと背を向ける人々〟。ここには当時の先人達が目撃した光景と…そこに抱いた恐怖の念が彫られておった」
─1枚目の壁画─
〝民が暮らす都の表、厖大無比なる蟒蛇出づる。百里の胴、千刃の衣、地を這いて天を呑み込む様体、身罷りを統べる。〟
簡単に言うならば…、かつてここにあった集落のそばに巨大なヘビが現れた…的な感じだろうか…?
師匠が言うには、〝身罷り〟とは〝死〟を現す言葉らしい。つまり…死ぬほど恐怖しましたーってこと…? 一般人には難しくてよく分からん…。
ユク君は早々に考えるのを止めて…偽竜種の背に乗って遊んでいる…。自由なものだ…、子供だから許すが…。
「どんどんゆくぞ…! えー次の部分がー…──」
まだ脳が情報を処理しきれていないのに…師匠は矢継ぎ早に話を続ける…。ちゃんとついていけるだろうか…。
─2枚目の壁画─
【〝棘を纏う獣と巨大な炎〟】
〝蟒蛇が出づて参の夜、都の外に鍼の悪魔現ず。夜光に群を成して屍を踏み、暮らし籠に忌火を灯す。〟
─3枚目の壁画─
【〝ヘビと睨み合う無数の獣〟】
〝果てた砂地に血を望み、悪魔は都に歩を移す。捨て駆ける民の背、突として出づるは静なる蟒蛇、百里の壁となり怒哮猛る。〟
─4枚目の壁画─
【〝地を見下ろすヘビと跪く人々〟】
〝夜欠ける失し火の末、禍を払いて都に命光息吹く。救いし蟒蛇に贄を捧げ、後世の安寧に冠を残す。〟
─祭壇の画─
【〝小さなヘビと片膝をついて手を差し伸べる人〟】
なるほど、分からん…。残念ながら私はついていけませんでした…、3枚目でギブアップです…。大人しく専門家を頼りましょう…。
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
──蟒蛇が姿を現してから3日後の夜、都の外に突如〝鍼の悪魔〟なる存在が群れで現れ、人々を殺してまわった。
〝暮らし籠〟とは下流階級の者達が暮らす家々の密集地のことで、少なくとも死者は100~200人に上ったと考えられる。
家々はことごとく踏み潰されて更地と化し…大勢の死者を出した悪魔はそれでもまだ殺したりない。悪魔の群れは都に狙いを定め、歩みを進める。
都の人々は一斉に背を向けて逃げ出すが…そんな中あの蟒蛇が突然姿を現す。蟒蛇は群れる悪魔の進行を妨げ、激しい戦いが始まった。
〝失し火〟とは死闘のこと…。夜が明けるまで蟒蛇と悪魔の戦いは続き、見事蟒蛇は悪魔を倒した。
都は救われ、人々は蟒蛇を〝冠〟…現代で言う〝王〟の称号を与え奉った。そしてその功績と勇敢さを石碑に残し、後世へと語り継いだ──。
師匠が解読できた内容は以上だ。どうやら祭壇の画には文字が彫られていなかったらしいが、あの画は多分見たまんまだし考察も不要だろう。
「ほえー、なんか壮大な物語だねー、おもろっ」
「感想薄いのォ…、かなり歴史的価値のある話じゃというのに…」
歴史が少し好きなだけの一般飛空技師じゃ…この程度の感想しか出てこない…、でも興味深いと思ったのは本当だ。
この石碑の内容が事実かどうかは知る由もないが…少なくとも1300年以上前の時代に〝悪魔〟という概念があったのには驚いた。
見たことのない生物をそう形容しただけか…それとも…。──超能疾患が悪魔の使いと呼ばれる理由も…歴史を辿れば判る日が来るのかな…。
まあそんなことは置いといて、結局ユク君が言うようなヒントは無かった…。壁画の内容は偉大な蟒蛇の英雄譚…手懐けるヒントは微塵も書かれていない…。
「お姉さんどう? 何か分かった?」
「ううん、残念だけど全く関係なかったよ…。ポチとは別のヘビのお話だった」
「え~なんで~?! ポチも同じくらい大きかったよ…?!」
それはそうだけども…多分同類のヘビかなんかじゃないかな…? ヘビは長生きするとは言うが…流石になぁ…?
「なあ師匠…、1000年以上生きれて…更にこの壁画の蟒蛇くらい大きなヘビってこの世にいたりするもん…?」
「そうじゃのぉ…、無くはない…っと言うべきか…」
師匠は何やら歯切れが悪い回答を述べた。えっマジでいんの…? 先人達の誇張話じゃないの…? 気になるから師匠を問い詰めて詳しく聞くことにする。
この世には〝幼呑蛇〟と呼ばれる小さな魔獣のヘビがいる。コイツはとても長生きするが、基本的に他の捕食者達に食われてしまう…のだが…。
捕食を逃れて力強く生き延びた個体は〝巨呑蛇〟と呼ばれ…幼呑蛇とは比べ物にならない程大きくなるという…。
「じゃがそれでもせいぜい|66~99フィート《(※約20~30m) 》程じゃ、壁画にあるように〝百里の胴〟とまではいかぬ。まあこの表現も誇張されておるとは思うがの…」
「じゃあやっぱりいない…?」
「いや…ワシは見たこともないし見たという話も知らんが…──」
巨呑蛇まで成長する個体は多くこそないが…一定数の目撃情報はある…。だがそこ止まり…大抵は縄張り争いなどで命を落とす…。
しかしそれでも生き続け…その悠久にも等しい刻を渡った個体は全長219ヤードにも及び、その名を〝呑威焉蛇〟と呼ばれるらしい。
古い文献でしか存在が確認されておらず…その希少さは竜種にも並ぶとされている…。もはや伝説の存在とも言えるだろう…。
219ヤード…──当てはまるかも…。悠久の刻を生きる…か…、これはひょっとしたらひょっとするな…──
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
「じゃあ私達はもう行くけど、本当に師匠だけで大丈夫? また埋まって生き恥晒したりしない?」
「おぉ…エグいこと言うのぉ…。心配いらんわい、ワシのイヌ達は頭が良いからの、お主の動きから穴掘りを学んだことじゃろう。埋まっても大丈夫じゃ」
壁画とそこに彫られていた文字の解読を終えた私達は、ここで師匠と別れる流れになった。
武器を持たないご老体とイヌ達だけじゃ少し心配だが…遺跡に来れたのだから大丈夫なのだと信じよう…。
「遺跡や遺物に興味があるのなら、またどこかで会えるじゃろう。ではまたの、歴史好きなお主等に幸あれ」
そう言って師匠はイヌ達が引くソリに乗って行ってしまった。なんとなく…次会う時も埋まってるんだろうなと私は思った…。
その時が来るかは分からないが…とりあえずそれまで何事もなく無事であることを祈ろう…。ちょっと変な師匠の行く末に幸あれ…。
「じゃあ私達も帰ろっか、目的は果たしたわけだしね」
「うんっ、またてくてく歩いて帰ろっ」
「それなんだけどね~、私に良い考えがあるんだ~! なァ…!」
「 “クギャ…?!” 」
コイツは背に人を乗せて飛べる。たとえ定員1人だとしても、子供1人くらい気合があれば飛べるだろ。頑張れる筈だ、死にたくないのなら。
乗り気じゃない偽竜種に圧を掛け、その背中にまたがった。ユク君は私の股の間に座らせ、左腕でガッシリと体を支える。
ちょっと痛いかもだけど…荒縄を偽竜種の胴にまわして手綱代わりにした。これで一応大丈夫…な筈…。
「お姉さん…これおちない…?」
「大丈夫だよきっと…、これでもお姉さん飛空技師だから…飛ぶことに関しては右に出る者居ないから…。オマエも頼むぞ…? 未だオマエは非常食の立場にあるってことを忘れるなよ…?」
「 “クギィ…” 」
── 入相 -デゼト村近辺-
「ひぃぃぃ…! ひぃぃぃぃ…!」
「揺れが凄くなってきてるぞ…! もうちょっとだ頑張れ頑張れ…! ここまで来たら素直にオマエの頑張りを褒めさせてくれ…!」
「 “ギャ…ギャギィ…” 」
昼前から入相までの長距離飛行で偽竜種はへとへと…。途中私のお弁当を分けてあげたりしたが…流石に休憩無しは酷だったらしい…。
疲労からくる横揺れ縦揺れが物凄いことになっている…。手綱を握っている右手からは擦れて血が出ている感覚があり…、ユク君は左腕にしがみついたままうつむいている…。
「あっ見えたアレアレアレ…! あそこがゴールだ…! 頑張れ偽竜種ゥ…!!」
「 “クギャギャ…!!” 」
よろよろと羽ばたきながらも…偽竜種は最後の力を振り絞って村へと向かう。徐々に砂が近くなっていき…やがて勢いよく胴体着陸をした…。
着陸する寸前に私はユク君を抱きしめて偽竜種の背から飛び降りた。ゴロゴロ砂の上を転がり回り…砂に含まれる小さな小石で肌が傷付く…。
50フィート程転がったが…命からがら助かった…。
「ユク君大丈夫…? 痛いとこない…?」
「うん…、でも怖かったぁ…」
怪我はしてなさそうなので安心…、涙を浮かべるユク君を優しく抱き寄せる…。私の方は右肩がちょっと痛い…、脱臼するかと思った…。
飛空艇のつもりで偽竜種に乗っちゃダメってことを身に染みて感じた…。幼少期を思い出すよ…まったく…。
ユク君を抱きかかえて、胴体着陸した偽竜種のもとへと駆け寄る。かなり勢いよく墜ちたから心配だ…、無事だといいが…。
「大丈夫か…?! まだ生きてるか…?!」
「 “クギャー!” 」
「なんだよピンピンしてんじゃん…、心配して損したぜクソが…」
「 “ギィ…!?” 」
偽竜種の硬い鱗はいいねェ…人族の柔肌は脆くて脆くて…。変に大怪我されなくて良かったけどもよ…。
「──何事だ…?! 一体何が起こった…?!」
騒ぎを聞きつけた村の人達が出てきた…、まあ村近辺に偽竜種が堕ちてきたら…そりゃ大事になるわな…。
事の経緯を説明し、ユク君と協力して危険は無いとしっかり伝えて事なきを得た。村長らしき人物にはちょっと怒られた…、二十歳を越えて何してんだか私は…。
ユク君に励まされながら、私達はユク君の家へと帰った。なんだか色々あって疲れる1日だった…、今日はぐっすり眠れそうだ…。
── 朝 -サザメーラ大砂漠 南側-
「今日こそペットにするぞー!」
「懲りない子だなぁ…、可愛いからいいけど…。──っでオマエはいつまでついてくんだ…? もう自由の身だぞ…? 巣に帰っていいんだぞ…?」
「 “クギャギャー♪” 」
昨日お弁当を分け与えたからなのか…やけに懐かれてしまったようだ…。村長の説教の後ちょっと褒め過ぎたかもしれない…、参った参った…。
変な子分ができた気分だ…、後悔するぞー? 脚もぎ取れるくらいビシバシ労働させようかな? 血反吐を吐き散らすくらい酷使したろうかな?
今後の偽竜種の処遇について考えていると、この前ユク君に案内されたあの場所に再び辿り着いた。
目的は知っての通り、ポチを手懐けることだ。以前私達に大口で迫ってきて…一度は死を覚悟させられた化けヘビをだ…。
だが今の私の気分は意外にも悪くない、むしろ少しワクワクまでしている。昨日遺跡で知り得た昔話、それを元に私は一つの答えを導き出した。
要は答え合わせだ、もし違っていたら食べられてしまう危険な答え合わせ…。もしもの時は偽竜種を囮にしよう…、私達よか美味そうな見た目してるし…。
「じゃあお姉さんこれ、またあっちに投げて!」
「はいはい、よーいしょっと!」
手渡された撒き餌を前回同様、何の生物も視界に映らないだだっ広い砂原に放り投げた。偽竜種が反応してしまったが、ゲンコツで大人しくさせた。
砂が盛り上がった部分に身を潜め、何かが釣れるのを待つ。すると大して待たずして、奥の方から砂煙が近付いて来た。
「 “キュピュゥゥゥゥ!!” 」
「うわあああ…?! イモムシみたいのが出てきたァ…?!」
今回釣れましたは灰色の体をしたデカいワーム…。ブヨブヨでウニョウニョ…とてもじゃないが直視できない気持ち悪さだ…。
目が無いのも気持ち悪いし…鳴き声も気持ち悪いし…呼吸してるみたいに口を広げたり狭めたりしてるのとか本っっ当に気持ち悪い…!
私は思わず目を閉じ…隣りで伏せているユク君をなでなでする右手にのみ神経を尖らせる。そうしていると、また遠くから何かが近付いてくる音がする。
半目で確認すると、見覚えのある高い砂煙が近付いて来ていた。どうやら来たようだ…ポチ──生ける伝説の存在〝呑威焉蛇〟が…。
「 “ジャラララララッ!!!!” 」
「 “キャピュ…?!!” 」
真下から出現した呑威焉蛇は、デカイモムシの胴体に噛み付き…そのまま丸吞みにしてしまった…。ちょっとどうかと思う…。
おやつ感覚で平らげた呑威焉蛇は、舌をチョロチョロさせて余韻を楽しんでいる様にも見える。ちょっとどうかと思う…。
「き…来たねお姉さん…、どうする…? さくせんある…?」
「まったくこの子ったら…、私に任せて。オイ偽竜種、もしもの時はユク君を連れてデゼト村に帰還しろ。死守だぞ死守、分かったな?」
「 “クギャッ!” 」
私はポンッとユク君の頭に軽く手を置いた後、立ち上がって堂々と呑威焉蛇に向かって歩き出した。
呑威焉蛇はすぐに私の存在に気付き、凝視したままジリジリと這い寄って来る。正直怖い…年甲斐もなく漏らしそう…。
やがて手を伸ばせば触れられる距離まで近付いた。呑威焉蛇はあの時のように…全てを吞み込んでしまいそうな大口を開けた…。
だがそこから次の行動に出ることはなく、ただ私の前で大口を無防備に開けているだけ。──やっぱりそういう事だったか…。
「ユク君! 出て来ても大丈夫だよっ! 呑威焉蛇は私達を食べたり襲ったりしない優しいヘビだからっ!」
「 “ジャラララ~!” 」
私が呼び掛けると、ユク君は偽竜種の背に乗りながらゆっくり近付いてきた。もしかしてもう逃げる準備してた? ドライだねェ、可愛いからいいけども。
そばまで来たユク君と偽竜種は、まだ少し怖がっている様子。まあこんなにガッパリ口を開けてるんじゃ怖いか…、実際怖いしね口の中は…。
「大丈夫だよ、見ててねユク君。お~い! ちょいと失礼するぞ~!」
「 “ジャララ~” 」
化けヘビは「どうぞ」と言わんばかりに舌を伸ばしてきた。土足でいいのか気にはなるが…イモムシよか綺麗だろうし、遠慮なく舌の上に乗った。
靴裏からでもザラザラが伝わってくる舌の上を歩き、自らの意思で口の中に入った。大丈夫だとは思うけど…なんだか吸い込まれそうで怖い…。
真ん中ぐらいまで行くと舌がググっと上がり、針の様な牙に手が届く位置まで持ち上げられた。私はその牙に触れてみて確信、やっぱり思った通りだ。
私は両手でギュッと牙を握り締め、力いっぱい下に引っ張った。奥歯を嚙み締め…血管が切れそうな程力を込めると、牙はズポッと引っこ抜けた。
「わああっ!? お姉さん何してるの!? いじめちゃダメだよっ!」
「違う違う…! これは牙じゃなくて今まで呑み込んだ生物のトゲなの…! この化けヘビはただトゲを取ってほしかっただけなんだよ…!」
詰まるところ真実はこうだ。この化けヘビ…もといポチは、遥か昔──あの壁画が描かれた時代に、都の危機を救った蟒蛇と同一の存在。
私の勝手な推測だが…あの祭壇にあった〝小さなヘビと片膝をついて手を差し伸べる人〟の画は、壁画の内容よりも前の情景を表したものだ。
恐らくはまだ幼呑蛇だった頃、優しい人に助けられたことがあるのだろう。そして呑威焉蛇へと成長した後、その時の恩を返す為に都に姿を現した。
鍼の悪魔…多分トゲだらけの危険生物から都を護り、その後も人々と共存しながら危険生物の脅威から都を護っていただろう。
だが時代の流れに合わせて徐々に人々の記憶から消えていき…ついにはその存在を知る者は居なくなった…。
それでもポチは人知れず危険生物から人々を護り続け、そして現在に至る──。デゼト村はかつて都に住んでいた人々の末裔が築いた村なのかもしれない。
「牙にしては数が多いし、何より不揃い過ぎるなってこの前見た時に思ったんだ。それであの壁画に彫られていた伝記と結び付けて考え、ようやく真相に辿り着いたんだ。──そうだよな? 蟒蛇」
「 “ジャララッ!” 」
この砂漠には結構トゲトゲしい生物が多いからな…、吞み込む過程で折れて刺さっちゃうんだろうなきっと…。前に吞み込んでた巨大サソリとか黄棘狼とか…。
〝鍼の悪魔〟のトゲがあれば少し採取したいが…流石に残ってはないだろうな…。もう当時の人達が取ってしまっているだろう。
しっかし…よくもまあこんな状態で村を護り続けたもんだ…。吞み込む度にトゲが押されて痛かっただろう…、大した奴だぜ…。
「ほらユク君もおいでっ! 手懐けたいんなら自分で動かなきゃねっ!」
「う…うんっ! ぼくもがんばるっ!」
そこからしばらくは蟒蛇の口掃除が続いた。女子供にはしんどい肉体労働だが…ユク君と蟒蛇の為にトゲを次々抜いていく。
一番力持ちと思われる偽竜種はと言うと、ずっと蟒蛇にビビり散らかしている…。ずっと砂の上で縮こまって…、役立たずめ…。
結局全てのトゲを私とユク君で取り除いた。とは言っても腕力や体力の問題上…8割は私が頑張ったのだが…。今日もぐっすり寝れそう…。
「どうだ蟒蛇、スッキリしただろ?」
「 “ジャラララッ♪” 」
「わー! ポチうれしそー!」
数十年振りか、はたまた数百年振りか、口内の痛みから解放された蟒蛇は嬉しそうに身を捩じらせて天を仰ぐ。
でもちょっと危ないな…、少し身を捩っただけで流砂が起こりそうな勢いだ…巻き込まれて踏み潰されたら余裕で死ぬぞ…。
「 “ジャララッ♪” 」
「わあっ! くすぐったいよ~♪」
「おわァ…唾液が…」
感謝を表しているのか、蟒蛇はその長く大きな舌でペロペロしてきた。感謝されるのに悪い気は起きないが…サラサラした唾液が付くのは勘弁したい…。
舌ザラザラでこそばゆいし…お礼は全部ユク君に任せて私は一旦避難。未だ縮こまったままの偽竜種に寄り添い、頭をなでなで。
しかしこうしてちょっと離れた場所から俯瞰的に見ると凄いな…、子供と蟒蛇が楽しそうにじゃれてる…人に言っても信じないだろうなこれ…。
「ユク君っ、今のうちにお願いしな? きっと聞いてくれるよ」
「わすれてたっ! ねえねえ、ぼくのペットになって~!」
「 “ジュラ?” 」
ユク君のお願いに蟒蛇は首を傾げた。昔の時代に〝ペット〟って言葉が無かったからかな? 蟒蛇も偽竜種と同様に言葉が通じる筈だが…。
「えーっ…──オ友ダチ、仲ヨシ、オッケー?」
「 “ジャララッ♪” 」
どうやら〝友達・仲良し〟は理解できたようで、蟒蛇は舌の上にユク君を乗せると、嬉し気に掲げて胴上げをし始めた。
巨体には似つかず純真で無邪気なヘビですこと…。可愛くて無邪気なユク君とはお似合いですな、この絵面には慣れませんけど…。
でもとりあえずユク君への恩返しはこれで終了、後はアクアス達の迎えが来るのを願うだけ。アイツ等…今頃どこにいるのだろうか…。
アクアス達のことや自分の行く末に一抹の不安を抱きながら、私はユク君とポチの楽しそうな戯れを見つめる。
「 “ジャララララッ♪” 」
「えへへっ♪ あはははっ♪」
──第61話 少年と蟒蛇〈終〉
恩返し完了──。




