第152話 作戦会議
──飛空技師は駆り出される──
久々の熟睡──。
──昼前 【雨】
「んっ…んぅ…んー…うぅん…。──コイツはまた…何で顔に引っ付いてんだよ…」
目が覚めると目の前が真っ暗。だが宵星の暗さじゃない…この柔らかな感触は間違いなくパークのものだ…。
引き剥がそうとするが、これまたがっしりと引っ付いてやがる…。寝起きであんま力入らないせいで…引き剥がすのにめっちゃ苦労した…。
「zzz…zzz…」
えっ寝てんの…? まさかこれ寝相…? 確か腹の上に置いといた筈なんだがな…、当たり前みたいに顔まで来やがって…。
人の顔面を抱き枕代わりにするとはいい度胸だ…目覚めたら私のクッション代わりに尻に敷いてやろう。もしくは今日の枕代わり。
「おはようございますカカ様、よく眠れましたか?」
「ぐっすりだぐっすり、なんか久々にしっかり疲れがとれた気がするぜ。──おっ? アレスが私より起きるの遅いなんて珍しいな、まだ寝てんのか?」
「アレス様も重傷でしたし…余程疲れが溜まっていたのかもしれませんね」
まあなんだかんだアイツが一番気を張ってたからな。邪魔な敵を倒して無事石版を入手したことで、緊張が緩んだのかもしれないな。
どうせ今日も体を癒すことに集中する一日だろうし、大人しく寝かしてやろう。作戦会議は全員起きてからでも遅くはない。
「しっかしあれだな…起きてもずっと夜みたいだと調子狂うな…。全身で朝日が浴びてェぜ…」
「今日は生憎の雨みたいですよ、っと言っても宵星じゃ雨すらも届いてはきませんけれど」
耳を澄ますと微かにではあるが確かに雨音が聞こえる。雨天でも濡れないのは最高だな、こりゃ文句言えないぜ。
「他のメンバーは?」
「ジルゥ様は向こうで釣りをしていて、他の御三方はカカ様が目覚める少し前に出掛けられました。ニキ様が「宵星にしかない素材を集めたいニ!」っと言い出されて…」
「ロイスとカーリーちゃんは追添いか。ったく…今は大人しく体を労われと言ってんのにアイツは…」
「ジッとしていられないのでしょうね…ニキ様らしいですが…」
それで怪我増やしたらどうすんだよ…黙って回復に専念できないもんかね…。世界を渡り歩く旅商人には、大森林ですら狭すぎるってか。
とりあえず何事もなく無事に帰って来ることを祈りつつ、帰って来たら軽く説教でもしてやろう。
「──おや、お寝坊さんがようやく起きたんだね、おはよう。ちょうど釣りたての魚があるけど、遅めの朝食はどうだい?」
「そうだな、じゃあ1匹貰おうか。昨日より腹の傷の調子は良さそうだし、昨日あんま食ってないから腹減った」
「では私がこんがり焼かせていただきます」
アクアスに魚を任せ、ジルゥに魔物討伐に適した場所がないかを聞いてみる。どこかしこも生い茂った森だが、どっかには適した場所があるんじゃないかと思ってる。
最終決定は全員揃ってからにするが、今のうちにいくつか候補を挙げられれば話し合いがスムーズに進む。
「適した場所かぁ…正直僕がネブルヘイナで過ごしたほとんどの時間は冥淵のものだからね…他の森でとなるとかなり限られてくるよ…?」
「おっ、ってことは何ヵ所かあるんだな? 流石地文学者~頼りになるぜェ~」
「いや~/// それほど~/// でもどういう場所をお求めだい? やはり障害物のない開けた場所がお求めかい?」
「──あーそうねぇ…今まではそういう場所で戦ってきたけど…ぶっちゃけどっちがいいんだろうな…」
障害物のない方が近接・遠距離ともに役割を果たしやすいんだろうが…魔物の攻撃を防げる盾という観点で見れば障害物はかなり有用。
誰かが負傷した時にも、障害物に隠れれば比較的安全に治癒促進薬を飲ませられる。そう考えると…一概に開けた場所が良いとは言えない…。
逆に障害物がある場所で戦闘するのなら、場所はそれほど重要じゃない。そこら辺に生えてる巨木の一つ一つが優秀な障害物となりうるからだ。
「一応開けた場所の候補教えてくれるか?」
「うんいいよ、ただ宵星と冥淵は除いて考えてもいいよね?」
「そうだな、宵星は戦うには視界悪すぎるし、冥淵には普通に戻りたくねェしな。可能なら古原大を多めで頼むぜ」
「了解、いくつか挙げるからよく聞いてね」
「ご一緒にお魚もどうぞ~、こんがり焼けて美味しそうですよ~」
焦げ目でパリッとした皮、噛むごとに身から溢れ出る旨み、味の濃い魚卵と内蔵、ジルゥの話を聞き逃しそうなほどウマい。
これはもう2匹ぐらい食えそうだ、アクアスにおかわり注文しちゃお。んで焼き上がるまでにジルゥの話をよく聞いておこう。
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
「──んん…あ˝ぁ…、う˝ぁー…体だりぃ…」
「むぐっ? んぅー、んむむむーむぐぐぐぐぐぐっ?」
「何言ってるか分かんねェよ…、あんま騒ぐな…頭に響く…」
もしやアレス君、目覚め悪いタイプかな? すんごく項垂れてまあ…、私も朝苦手だけどあそこまで辛そうにはならねー。
アイツよくあれで見張りとかできるな…いつも相当無理して見張りしてたんだろうか…。今日は私も見張りしてやるか…。
「アレス様おはようございます、限りなく昼食に近い朝食はいかがですか?」
「ああ…そうだな…、魚1匹お願いできるか…」
そう言ってアレスはねぼったい目を擦りながら、釣りの為に空けた穴に顔を突っ込んだ。一瞬寝落ちしたのかと思ってビックリしたぜ…。
顔を洗って少し頭を起こしたアレスは、私とジルゥの方へ歩いて来て座った。そのまま少しボーっとした後、ようやく口を開いた。
「他の連中はどこに行った…?」
「旅商人の仕事とその補佐に行っておりまするー」
「何ィ…?! ったく何してんだアイツ等…今は療養をとあれほど…」
「ハハッ、私と同じこと考えてやんの、ニキが帰って来たら一緒に説教しようぜ~。木の枝から逆さ吊りにしてやんだ」
ついでにもっとキツい罰ゲームでも課そうかな。ウパの実クリームを入念に喉奥まで塗りたくってやろうかな、ケッケッケッ…!
「っでオマエ等は何の話をしてたんだ…? のんびり雑談か…?」
「ジルゥの知見に頼って、魔物と戦う場所にいくつか目星を付けてた。全員揃ってから話をするつもりだったけど、先にオマエの意見を聞きてェな」
「ああ分かった聞かせてくれ、さっきので少し頭が冴えたからな」
ジルゥが挙げた候補地は3ヵ所、2ヵ所は古原大で1ヵ所は喰胃。
1つは古原大北東部。そこにはまあまあ広大な野原が存在してるらしく、障害物はゼロ、グラードラ草原の時と条件はほぼ一緒。
2つ目は古原大南部。そこは開けた場所で高低差のない平らな地面をしているが、尖った岩が所々地面から突き出ているらしい。
3つ目が喰胃東部。そこも開けた場所ではあるものの、〝ムチコゴミ〟という巨大な植物の群生地らしい。
〝ムチコゴミ〟は衝撃を加えると渦巻いた若芽を伸ばして、鞭のように攻撃してくるのだそう。要は巨大な鞭だ、めっちゃ危険な植物。
「以上がジルゥ先生が挙げた候補地だ、さァ意見を述べてみよっ!」
「なんだ急に…。──そうだな…俺は2つ目がいいんじゃねェかと思う」
「古原大北東部か、理由は?」
「俺達にとって都合が良い。高低差のない動きやすい地面は当然だが、戦いを優位に進める上で適度な遮蔽物もまた重要な要素になる。こっちは数だけが魔物よりも優れてる点だ、遮蔽物を利用しての奇襲はかなり有効だと言える。
しかも魔物は俺達より遥かにデカいんだろ? 小さい俺達は岩陰に身を隠せるが魔物はそうもいかねェし、障害物で移動も制限されるときた。これ以上の好条件はねェだろ」
「なるほどね、3つ目はどうだ?」
「ムチコゴミとかいう植物を上手く使えばまあ、戦いを有利に進められる可能性はあるが…制御できない武器は俺達にも牙を向きかねない。それにムチコゴミの扱いを常に考えながら魔物と戦うのはリスクがデカい…余念は予想外のミスを生む…。
それにここから距離があるし、加えて喰胃は古原大に加えて危険度が上がる。目的地に辿り着くまでに余計な負傷や体力の消耗を招く可能性は高い。リスクを天秤に掛けると…魔物相手にするべき賭けじゃねェな」
流石はハンター殿、意見がしっかりしておられる。なんかもう皆で話し合う前に結論が出てしまったような気分だ…。
もう2つ目でいいんじゃないかな…? それでいいか、全責任はアレスが背負うということで。二等星ハンターが背負うということで。
「──あっ、カカとアレスも起きたんニね! おはようニ~! 2人共コレ見てくれニ、この大量の貴重素材を! コレ全部売ったらいくらの儲けになるか─」
「おう帰って来やがったなアンポンタン紫頭巾がゴラァァ…!! とりあえずそこ座れェ…! ブチ“ピーーーーー” …!!」
「急に凄まじい暴言が飛び出たニ…?! ちょっ止め…来んなニーー…!!」
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
ようやく皆が揃ったので、ジルゥとアレスの2人と話した内容を居なかった3人にも説明した。
話を全て聞いた上で、皆の意見は概ね私やアレスと同じ。その後も慎重に話を合いを続け、魔物との決戦の地は古原大南部の地に決まった。
他の候補地に比べて、魔物と戦う上でこちらに都合の良い立地。更には宵星からも近く、移動時の消耗を避けられる。
「よーし、決めるべきことは決めたし、あとは各々が体を万全の状態に戻すだけだな。治癒促進薬の効力込みで、全員明日には限りなく全快に近付く。目的地までの移動中に全快するとして、今日はゆっくり体を休めるとしようか」
「じゃあそろそろ下ろしてくれニー…、これじゃあ治るものも治らんニー…」
「んっ、そうだな」
「スルー!?」
アイツはもう少しだけ逆さ吊りだ、たっぷり反省させねェとまたやりかねないからなあのバカタレ頭巾は。
「それよりカカー…! 場所は決まったニけど…どうやって魔物を誘導するニ…?」
「──へっ…?」
そういえばそれ考えてなかったァ…!! ヤッベェ…完全に失念してらァ…! 今までのやり取り全てが無駄になっちまったか…?!
うわっ…一瞬で身の毛がよだちましたねぇ…、目覚めてすぐの時より体ヒエヒエだぁ…。計画が崩れていく音がするぜぇ…。
「荒女…魔物を誘導させる方法は…?」
「えーっとですねぇ…〝石版を所持した状態で特定のエリアの端付近まで接近する〟になりますね…。ちなみにジルゥ先生…? 我々が目指さんとした彼の場所は…ネブルヘイナの端とどれぐらい距離が離れてるもので…?」
「んーっとねぇ…片道なら半日も掛かりはしないだろうけど…、往復となるとそうだねぇ…まあ半日近く掛かっちゃうかなぁ…」
しばし静寂…パチパチと焚火の音だけが聞こえる…。訂正…微かにパークの寝息も聞こえる…、コイツ何もしてねェのに寝すぎだろ…。
「ハァー…、そういえばまだ私回復しきってないんだよね…あっなんか眠くなってきちゃったな私…皆後は頼んだよおやすみー…」
「おい待て待て待て待て…仮にも俺達のリーダー役なんだから早々に匙投げんな…。これから方法を考えんだよ…」
「あと下ろしてくれニ…」
方法を考えるったってなぁ…戦う場所を変更する以外に手があるか…? 魔物が偶然通り掛かるのに期待して耐久すんのは現実的じゃねェし…。
かと言って魔物と長時間に渡る命懸けの鬼ごっこなんて…それこそ一角族でもなきゃ無理だろうよ…。
可能性があるとすればアレスのみだが…流石にキツいよな…。それにアレスは主戦力…鬼ごっこで体力を疲弊させるのは得策じゃなさすぎる…。
「カカさん、一つ質問があんだけど。石版って必ずしも人が持ってなきゃいけないわけじゃないでしょ?」
「えっ…? まあ…多分そうじゃないかなとは思うけど…」
「だったらさ、ヒューイに石版を持たすのはどう? ヒューイがネブルヘイナの端付近までひとっ飛びして、またここへ戻らせるの。人の足よりずっと速いし、かなり合理的でしょ?」
なるほどっ、それは実にいい考えだ。それなら私達は十分体力を温存したまま戦いに臨める、それに越したことはない。
ただ唯一懸念点があるとすればヒューイの身…。魔物がもし遠距離攻撃の術を持っていれば…私達のもとへ辿り着く前にやられるかもしれない…。
シヌイの魔物もサザメーラの魔物も…どっちも遠距離攻撃ができた…、ネブルヘイナの魔物も何かしらありそうなものだ…。
「 “クギャギャッ…! クギャギャッ…!” 」
「おうおう急にどうしたクギャ、腹でも減ったのか? ちょうどそこの木にウマそうな肉が吊るしてあるだろ」
「おっ? ニキ詰んだニ?」
さっきまで私の背後で大人しく座ってたのに、急にクギャが騒ぎ始めた。腹空いてんのかと思ったが、どうやら違うらしい。
服を咥えてめっちゃグイグイ引っ張ってくる…何だってんだ一体…。仕方がないのでかまってちゃんの方を向く。
「はいはい、クギャ君何ですか? 撫でられたいだけなら後に─」
“バサッ! バサッ! バサッ!”
「おォー?! オマエ飛べるようになったのか…?! あっよく見たら翼膜治ってるじゃねェか…! そういう大事なことはもっと早く伝えんかいバカタレェい…!」
「 “ギャギィ…” 」
もっと早く治ってくれれば色々と都合良かったんだが…まあちゃんと治ったんだからひとまず良しとすっか。
ヒューイの役をクギャと交代すれば、不安要素を一つ取り除ける。飛行速度も偽竜種の方が速いし、クギャの方が色々と確実だ。
ってことでクギャの存在を含めた上で改めて話を進め、ようやく全てが決定した。
明日移動を開始し、2日後に決戦の地に到着、その翌日に魔物討伐を決行…! もう魔物との戦いは目と鼻の先…今からしっかり覚悟としかないとな…。
今度の戦いもまた…絶対に勝つ…! 皆が居れば絶対に果たせる…!
「よし皆っ! 来たる決戦の日に備えてしっかり休むぞっ! 栄養しっかり摂って、心を整えて、たっぷり寝るぞー!」
「「「 おー! 」」」
「じゃあそろそろ下ろしてくれニー…! もう勝手なことしないから頼むニー…!」
──第152話 作戦会議〈終〉
決戦はすぐそこ──。




