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飛空技師は駆り出される  作者: 似瀬
151/155

第150話 暴レ散ラカシ

           ──飛空技師は駆り出される──


カカ、アバレル──!

<〔Perspective:(‐アレス視点‐)Alaes〕>


「ヴゥゥ…! ヴゥゥ…! グゥルルル…!」


「ぐるるるって…もう完全に獣の域じゃねェか…、これ本当に元に戻るのか…? ずっとこのままだったりしねェよな…?」


こんなことになるんなら…あの時急かすんじゃなかったぜ…。ってかスゲェ効能だな酋長の薬湯…、暇を持て余したジジイの手作りとは思えねェな…。


まあ昔から多少ぶっ飛んだ人ではあったが…流石に暴走状態から戻れないような代物は作らないと思いてェがな…。時間経過で元に戻る…よな…?


ひとまず戻ると信じて…何とか荒女(あらおんな)を押さえ込まなきゃならねェわけだが…、剣は使えねェな…。


ただでさえ荒女(あらおんな)は全身ズタボロ…特に腹部の傷は相当なもんだ…。今は治癒促進薬(ポーション)のおかげか暴走によってアドレナリンが出てるからか血が止まってるみてェだが…自由に動き回れるような傷じゃねェ…。


塊血(かいち)を呑んでたとしても…既にかなりの血を失ってる筈…。これ以上出血箇所を増やせば…本当に死んじまう…。


理想は素手で組み伏せて、暴走が鎮まるまで動きを封じ続けることだが…今の俺でどこまでやれるか…。


荒女(向こう)は武器あり・外的強化(ドーピング)あり・実質負傷による身体能力低下(ディスアドバンテージ)なし…。対し俺は武器なし・外的強化(ドーピング)なし・パンサー野郎との戦闘で負ったダメージあり…。分かりやすく不公平(アンフェア)…。


唯一糸口となりそうなのは、荒女(あらおんな)が理性を失ってることのみ。見た感じ知性も獣レベルまで低下してそうだし、高度な技術とかは使ってこないだろう。


あとは荒女(あらおんな)の暴走状態がどれだけ身体能力を向上させてるかが問題だが…。


「ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ッ…!!!」


「…っ!? マジか…?!」


そこそこの距離があったってのに…たった一歩で目の前まで迫ってきやがった…。しかもそのまま握り拳を振るってきた…。


咄嗟に体を反らしたおかげで直撃は避けられたが…左拳が鼻先を掠めた…。あまりにギリギリの回避…しかも左拳から空気を裂く音が聞こえて悪寒が走った…。


もう獣どころか鬼じゃねェか…、ほとんど鬼人族(デモナ)じゃねェか…。


こんなのを好き勝手暴れさせておいたら…間違いなく俺の方が先に倒れちまう…。あんまり傷付けないようにと考えていたが…四の五の言ってられねェな…。


追撃される前に突き出された左腕を掴み、そのまま体を捻りながら荒女(あらおんな)をうつ伏せで地面に組み伏せた。


背中を押さえつけ、左腕を背中側へ持ち上げる。大抵の奴はこれで身動きを封じられるが…コイツはどうだかな…。


「ウア˝ァァァァァ…!! ガァアアアアゥゥゥウウ…!!」


「クソ…あんま暴れんじゃねェよ…」


身動きできないことにイラついているのか…それとも無理に動こうとして左腕を痛めているのか…、いずれにせよ良い気はしねェな…。


それに…やっぱ力が強ェ…。この体勢だから何とか押さえ込めてるが…それでも力を抜くと強引に拘束を解かれちまう…。


「ウゥゥ…ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ァ…!!!」


「はっ…!? 嘘だろ…!? マジか…?!」


荒女(あらおんな)は雄叫びを上げながら右腕と両脚で体を持ち上げ始めた…。そりゃ気道を塞がないよう少しは加減してたが…だからってこんな…。


すぐさま全体重をかけて押さえつけを試みたが…止まらねェ…止められねェ…。これ以上は左腕を折っちまう…──仕方ねェ…。


斑千風(エクゼト)で一気に後ろへ跳び、十分に回避行動へ移れる距離を取った。本当は折ってでも押さえ込むべきだったのかもしれねェが…無理なもん無理だ…。


まあ切り替えるしかねェな、恐らくはまた押さえ込めるチャンスは巡ってくる。対策を講じれるほどの知性は残ってねェだろうし。


「ア˝ア˝ア˝ゥゥゥゥ…!! ガア˝ア˝ア˝ァァァァ…!!!」


十分距離は取ったが…やはり一瞬で間合いを詰められる…。だがそれも含めて余計に距離を取ったから、十分に対応はできる。


今度はさっきと違い、本命の衝棍(シンフォン)で攻撃を仕掛けてきた。衝棍(コレ)は拳と比べて危険度が段違い…無理に反撃を考えるべきじゃない。


動きを冷静に見極め、勢いよく衝棍(シンフォン)を振り下ろそうとしてきたタイミングで素早く背後に回る。


振り下ろされた衝棍(シンフォン)が地面に触れた瞬間…まるで爆発が起きたかのように土煙が舞い…強烈な突風に体を押された…。


あわよくば羽交い締めにしようと考えてたが…甘かったか…。しかしヤバ過ぎるな今のは…、あんなの喰らっちまったら…たとえ全快な時であっても瀕死にされちまいそうだ…。


クソ…何でこんな危ねェ綱渡りしなきゃならねェんだ…。無事に正気に戻ったら絶対文句言ってやるからな…!


「ア˝ァ…ア˝ゥ…ゥア˝ァ…」


「んっ…? 何だ…随分苦しそうだな…」


酷い頭痛にでも襲われているのか、荒女(あらおんな)は頭を押さえて苦しそうに呻き声を上げている。小刻みに体が震え…何かの禁断症状みてェだ…。


「ゥゥゥ…── “ゴパァ…!” 」


「…っ?! 荒女(あらおんな)…?!」


苦しむ中で…突然大量の血を吐いた…。全身傷だらけな今の荒女(あらおんな)じゃ死に直結しかねない量だ…ヤベェ…!


もう四の五の言ってられねェ…力ずくで気絶させる…! アイツの体はもうとっくに限界なんだ…! 既に死の淵に片足突っ込んでんだ…!


幸い荒女(あらおんな)は苦痛に悶えててこっちを見てねェ。意識もかなり揺らいでるだろうし、今なら手刀で気絶させられる千載一遇のチャンスだ。


万が一にもこっちの動きを悟られないよう、斜め後ろから接近していく。頼むから余計なことはするなよ…すぐにその苦しみから解放してやるからな。


「グゥゥ…グゥゥ…──…っ! ウガァ…!!」


「なっ…!?」


できるだけ足音を小さくして接近した筈なのに…あと1歩で手が届くところで振り向きやがった…。背中に目でもあんのか…!?


荒女(あらおんな)衝棍(シンフォン)を勢いよく振って薙ぎ払い攻撃を仕掛けてきた。かなり危なかったが…咄嗟にしゃがんでこれを回避。


だがその直後、偶然か狙ってなのか…強烈な蹴りが繰り出された…。体を傾け、左腕で蹴りを受けたが…次の瞬間には視界が高速で動き…気付いた時には仰向けで倒れていた…。


何が起きた…? 体のあちこちが痛ェ…、特に左腕…これは折れてるな…。クソ…全身満遍なく鈍器で殴られたみてェだ…。


体を起こすと…森の中に居た。向こうにはさっきまで居たと思われる開けた場所が…、ただの蹴りでここまでぶっ飛ばされたわけか…とんでもねェな…。


恐らくは巨木に衝突して止まったんだろうが…その時に頭を打ったからか出血してやがる…。少し目眩もするが…弱音吐いてる暇はねェ…。


すぐに立ち上がって開けた場所へ急行する。俺を蹴り飛ばした荒女(あらおんな)はと言うと…さっき以上に苦しみ悶えている…。


いっそこのまま放置してれば勝手に意識を失いそうだが…むしろ今はそれがマズい…。大量に吐血した状態で気絶すれば…最悪そのまま死んじまう…。


傷の血は止まってるから…せめて塊血(かいち)を飲ませねェとな…。左腕は…辛うじて多少動かせる…──やるっきゃねェな…。


塊血(かいち)をできる限り小さくなるよう握り潰し、呼吸を整え…斑千風(エクゼト)で一気に荒女(あらおんな)へと接近した。


やたら勘が良いが…反応できない速度で接近すればどうってことねェ…! 素早く左腕を首に回し、袖を噛んで裸締の体勢を取った。


当然すぐに雄叫びを上げながら抵抗してくるが…その口へ指と一緒に無理やり塊血(かいち)をねじ込んだ。


直後噛みつかれ…鮮烈な痛みが全身を駆け巡ったが…歯を食いしばって塊血(かいち)を喉の奥へ奥へと押し込む。


呑み込めるように裸締は多少緩めてある…、このまま押し込み続けて…自主的に呑み込むよう促す…。そうでなきゃ呑ませられねェ…。


こうなりゃ気力の勝負だ…荒女(あらおんな)が吞み込むまでこの痛みに耐え続ける…。たとえ指が噛み切られようとも…絶対に退かねェ…!


「ン˝ン…!! ン˝ンン…!! ──〝ゴクンッ…!〟」


塊血(かいち)を呑み込んだ動きが左腕から伝わってきた。これでいい…後は荒女(あらおんな)が気絶するのを待つだけだ。


指を引き抜き、すぐさま斑千風(エクゼト)で後ろへ跳ぶ。荒女(あらおんな)はこっちを振り向き鋭い眼光を向けてきたが、すでにその足取りは千鳥足。


それでも1歩ずつこっちへ歩いてきたが…5歩ほど進んだところでようやく止まった。苦痛にまみれた表情がスッと和らぎ、力尽いたかのようにうつ伏せに倒れた。


恐らくは気絶しただろうが…一応近付いて確かめる…。顔にかかった髪を払って確認したが、まるで眠っているかのように気を失っていた。


「ったく…とんだお転婆娘め…。──だがまあ、友達(ダチ)の仇…討てて良かったな。その頑張りに免じて…文句は言わないでおいてやるよ。お疲れ…荒女(あらおんな)…」








<〔Perspective:(‐カカ視点‐)Kaqua〕>


「──んぅ…ん…ん…? んん…? ぅおっ…!? 何だこれ…!? どういう状況だ…!?」


「目覚めてすぐうるせェ奴だな…、ほんで早ェな起きんの…」


「えっえっどういう状況これ…?! 頭がプチパニックなんだが…?!」


何故かアレスにお姫様だっこされている…一体どういう経緯でこうなったんだ…!? 何でこうなったんだっけ…!? ──あれ…? 何でだ…?


なんか頭に靄がかかったみたいにボヤ~っとしてる…全然こうなった流れを思い出せねェ…。ってかなんか体中痛ェ…なにこれ…。


「なぁアレス…何で私はオマエの腕の中で寝てたんだ…? 何て言うか…あんまり覚えてないっつうか…──なんか盛った…?」


「何を疑ってんだテメェは…。テメェは鬼尽湯(きじんとう)を飲んで理性を失い、そのまま気絶したんだよ。覚えてねェか?」


鬼尽湯(きじんとう)…? あー…そういや飲んだ気がするわ…、窮地に追い込まれて…希望に縋る想いで…」


鬼の如き力を得る代わりに暴走してしまうってレビン酋長言ってたもんな…。そうか…そのせいで記憶が一部抜けてんのか…。


「んっ? なぁアレス君…ひょっとして私…オマエに何かやっちゃったりした…? 暴走したまま襲い掛かっちゃったりしたぁ…?」


「いや、俺が駆け付けた時には既に気絶してたよ。近くに瓢箪が落ちてたから、状況的にそうだろうなと判断しただけだ」


「あっ良かった~! なんかオマエがスゲー負傷してるから…ひょっとして私がやっちゃったのかなって思ったけど、良かった良かった…危ねェー」


でもそうだとすると…アレスの怪我は全部ネコ野郎にやられたわけか。まあアイツ強いもんな…何なら私と戦った時より強くなってそうだ…。


私の方も結構も苦戦したし…ニキは大丈夫かな…。アクアス達の方も心配だし、早く皆のもとに戻らないとな。


「──なぁアレス君よ、私起きたからもう下ろしてもらって大丈夫だぜ? 怪我してんのに私を抱くの辛いだろ?」


「別に大したことねェよ。それについさっきまで気絶するほど暴走してたんだ、そんなすぐに回復はしねェだろうし、今は黙って運ばれとけ」


「えェー…ちょっとなぁー…」


なんだろう…なんかお姫様抱っこって…どこ見とけばいいのか分からねェんだよな…。不思議と落ち着きはするが…なんか変な感じがする…。


これどこ向くのが正解なんだ…? 進行方向…? 正面…? アレスの顔…? ──いやムリムリ…顔はハズくて見らんない…!


進行方向は首疲れるし…正面が正解なのかなぁ…? 分からんなぁ…。


「ってかおんぶで良くないか? 何でわざわざプリンセスキャリーで…」


「最初はおんぶだったが、その…あれだ、背中に…あっいや…えーっ…──背中を痛めてんだよ。それでこうなった」


「ほーん、まあ抱えてもらって文句は言わねェけど、あんま無理しなくていいからな? あと皆んとこに着く前には下ろしてくれな? 恥ずかしいから…」




     ▼   ▽   ▼   ▽   ▼




「──あっ! カカ様~! それにアレス様も! ご無事で何よりですっ!」


「ニキも何とか勝ったニよ~、2人もお疲れニ~」


途中少し迷いながらも、何とか元居た場所まで戻ってこれた。アクアス達も負傷してはいるが、誰一人として欠けることなく皆揃ってのお出迎え。


辺りを見渡せば至る所に獣賊団(クズ共)や教徒達が転がっている。改めて見るとスゲー人数(かず)だな…、よくこんな戦場でアクアス達は生き残れたもんだ…。


「ってかテメェこの…! 皆のとこに着く前に下ろせって言っただろ…! こっちはずっと正面見てたんだからオマエが気付いて下ろさなきゃだろが…!」


「あーうるせェうるせェ、怪我人は黙って運ばれてりゃいいんだよ」


「オマエだっておんぶできないぐらいには怪我人だろうがよ…! えェい…! いいから早く下ろせェ…!」


クソぉ…見られたくない姿を皆に見られたぁ…。別に見られても問題ないけど…何か大事なものが傷付いた気がする…、自尊心とか…。


だがまあ…私の下らない自尊心なんてこの際どうでもいい。とりあえず倒れてる敵が目覚めちまう前に、さっさとこの場を離れちまおう。


「クギャおいで、オマエの背中に乗せておくれ」


「 “クギャッ!” 」


「結局運んでもらうのかよ…」


乱雑に転がっている敵を踏まないように気を付けつつ、まだどこかに敵が潜んでいる可能性も考慮して、周囲に十分注意を払いながらこの場を離れる。


しかしまったく…毎度毎度苦労させられるぜ…。しかも今後はランルゥ教団とも戦っていかなきゃならなそうなのも…面倒極まれりだなほんと…。


獣賊団(クズ共)はともかく、教団とはどうにか分かり合えないもんかな…。似た境遇に苦しめられていた者同士…絶対分かり合えると思うんだけどなぁ…。


ハァ…神っつう存在はどこまでも難儀なもんだ…。とりあえず今回は…あの姉弟だけでも正しく導けたっぽいから良しとするか…。


切り替えていこう…本当の戦いがまだ残ってんだからな…。石版は取り戻した…邪魔者も蹴散らした…あとは魔物だけだ…。


しっかり準備して臨まねェとな…あの邪悪な病魔を討つ為に…。



──第150話 暴レ散ラカシ〈終〉

その時は近い──。

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