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飛空技師は駆り出される  作者: 似瀬
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第133話 仮説

           ──飛空技師は駆り出される──


ストップ! 先走り!

()だだだだだ…! 何で…!? 君達何で僕に関節技決めてるの…!? 早く中入ろうよ痛だだだだだ…!」


「テメェが先走るからだろうが…! 中に猛獣居たらどうすんじゃい…! 襲われてからじゃ遅いんだぞォ…!! 軽率に動くなバカタレェェ…!!」


「ギャアアアアアアアッごめんさーーい…!!」


1人先走ったジルゥに追いつき、中に入る前に関節技で静止させた。私が上半身を固め、アクアスが下半身を担当した。パークはビンタ、全然効いてないけど。


これで懲りただろうし…今回はこの辺で許してやろう。そしたら今度こそ中に入ろうか…十分警戒しながらな…。


錆びついた鉄の扉らしき物を見つけ、アレスは慎重に押してみる…っが開かない…。両手で力強く押してみても開く様子がない…。


私も加わって全力で押すがうんともすんとも言わん…、ガガテガ遺跡みたいに触れただけで開いたりもしない…。


ぶっ壊してもいいが…こういう歴史的価値のありそうな建造物を壊すのはちょっとなァ…、私もこういうの好きだからなぁ…。


何か方法はねェものか…、他に入れそうな場所でも探すか…? もしかしたら裏側に窓的なものがあるかもしれんし…とりあえず後ろに回って──


「〝無心の剣(フロー・ブレイク)〟!!」


「あああああっ…?! 何してんじゃオマエェェ…!! 正気か…!? 歴史的に価値のある遺物だぞ…!? どこの世界にこんな雑に扱うバカが居んだよ…!!」


「仕方ねェだろ開かねェんだから…! それに見ろ…攻撃しても開くどころか壊れもしねェ…、良かったじゃねェか守られて」


「ただの結果論じゃねェかよ…」


しかし今ので壊れないとは驚いた…、この小さな建造物にもまた…不思議な古代技術が用いられているのかもしれん…。


むぅ…残念だ…、中に何があるのか気になるが…扉が開かないんじゃ仕方ないな…。諦めて巣荒らしを再開するか…。


「──あっ、皆様~! こっち壁が崩れてて普通に入れそうですよ~!」


「だってサ、頑張ッタ意味なかったネ」


「うるせェな…さっさと行くぞ…」


反対側に回ってみると、確かに壁の一部が崩れていて中に入れそうな隙間がある。広くはないが…1人ずつなら入れそうだ…。


我先に入りたがるジルゥを食い止め、まずはアレスが中へと入る。特に危険はなかったようなので、順番に隙間を通っていく。



─ 古の屋舎 ─


何となく分かってはいたが…中は荒れ放題…、床には朽ちた木片が大量に散らばっていた。棚や机でもあったのだろうか…。


壁には何やら真紅の布のようなものが掛けられており…何かの模様らしきものが描かれているみたいだが…ボロボロ過ぎてよく分からん…。


それ以外に気になるものは特に無い…、むぅ…ハズレか…。まあそんな都合よく手掛かりは落ちてないよな…、切り替えて巣荒らししよ…。


「ン? おネエさん、そこに何かアル~」


「本当か? どこにある? ──それは…指差してんのか…? 小さくて全然分かんねェな…、えーっと…この辺りか…? ──んっ、コレか」


足元に転がる朽ちた木片の下に、両手サイズな革製の箱が埋もれていた。何やら独特な装飾が施されているが…他と比べてこれだけ不思議と綺麗だ…。


「おネエさん早く開けてヨ」


「急かすな急かすな、いくぞ…? ふんっ…! ──何だコレ…紙か…?」


中には折り畳まれた古い紙が入っていた。随分と劣化してるが…広げた途端に破けたりしないだろうな…。


恐る恐る慎重に折り畳まれた紙を開いていくと、何かが描かれているようだが…しっかり広げないと分からない…。


クソ…なのにやたらデカいなこの紙…。破けてしまわないようゆっくりゆ~っくり広げていくと…やがてその全貌が露わになってきた。


「これは…()()()か…? それもなんかの建物の…」


「何の見取図だろうネ、この建物カナ?」


「んなわきゃねェだろ…サイズが違いすぎる…。幾つも部屋があるし…階層も分かれてる…──これは…まさか…! ジルゥ…! ちょっとコレ見てくれ…!」


「なんだい? コレは…随分と古い見取図だね。部屋の多さと階層からして…よほど大きな建物だ…。この見取図がこの建物と同じ年代に存在した建物のものだとするのなら…──あの()()がピタリと当てはまるかもしれないね」


やっぱり…どういう偶然か知らんが…コレは古城内部の見取図…! 入口から部屋数…更には階段の位置まではっきりと記されてる…!


コレがあれば、石版を取りに古城へ潜り込んだ時…迷わず内部を進める…! 無駄に内部をうろつかずに済めば…全体のリスクが大幅に下がる…!


こいつァいいものを見つけた、何よりのお宝だ。普通こんな紙切れあっという間に朽ちてなくなりそうなもんだが…よく残ってたもんだぜ。


コレ以外には特に目ぼしい物は無さそうだが…これ以上を望んでも罰が当たるってなもんだ。パークには感謝しねェとな。



ひとまず見取図は箱に戻し、戦利品を持って再び狭い隙間を通って外に出た。さっきまで晴れていた空はいつの間にか雲に覆われていた…、マジでころころ変わるな…本当に読めない天気だぜ…。


「ジルゥ、悪いが(コレ)持っててくれねェか…?」


「もちろん構わないよ、戦闘要員である君達の片手を塞ぐわけにはいかないからね。それにしても実に興味深い…、()()()()()以上も前の代物だろうに…これほどの状態で遺っているなんて…奇跡すらも凌駕する事象だよ…。はたして凄いのはこの紙かこの箱か…あるいはその両方か…、むむむ…」


自然調査員とはいえ、古代の代物にはやはり心惹かれるようだ。分かる…! 私もそういうの大好き…! ロマンだよな人類の…!


きちんと解明されてほしい気持ち半分…このままずっと思考していたい気持ち半分…、過去の魅力とはままならないものだ…。


ロマンを手にしながら、中断していた巣荒らしを再開させる。お手柄な活躍をしたパークを容赦なく打ち上げ、次なる巣を見つけた。


もちろんその巣を回収しに行くのもパークだ、今日は随分と役に立つ…後でしっかりと労ってやらねばな。


「なぁジルゥ、さっきその箱と見取図が2000年以上前の物って言ってたが、見ただけでそこまで分かんのか? 私はてっきり数百年前ぐらいかと思ってたが…」


「僕の考察もあくまで仮説だけどね、でもそれぐらい昔な筈なんだ。──ついては君達、ネブルヘイナという環境についてはどれだけ知っているんだい?」


「私は…せいぜい〝危険な場所〟としか…」


「後は〝人の手が加わってない天然の大自然〟とかか…?」


実際クソ危険な場所に変わりないしな…、シヌイ山と大砂漠よりも危険だらけな場所だ…。早く出ていきてェ…。


人の手が加わってないってのは…もはや事実かどうか怪しいもんだ…。なにせあんだけご立派な古城を目の当たりにしちまうとね…。


だがジルゥの発言的に…他にも何かありそうだが…、皆目見当もつかない…。


「このネブルヘイナ大森林はね…〝古代の楽園〟なんだよ。思ったことはない? この大森林(エリア)で見掛ける様々な生物…様々な植物…更には鉱物に至るまで、ほとんど外で見たことがないものだらけって」


「いやー…そもそもそこまで詳しくないからなぁ私は…。ニキならまた違う意見を述べたかもしれねェけど…」


「そっか…じゃあ言っちゃうね! 大森林(ここ)に存在する様々なものが、既に外では絶滅しているものだらけなのさ! もっと正確に言うと〝進化の過程で消えていった〟だね、まあ〝現代には居る筈ない〟とだけ思ってくれればいいよ」


絶滅…現代に居る筈ない…か…、うん…ちょっと頭がついていかないかな…。だってそんなことあります…? 現代に絶滅した古代の生物や植物が生きてるなんて…。


とても信じられない話だ…。そういう話を描いた本とかは知ってるが…それ等はあくまで作り話(フィクション)であって、現実(リアル)じゃない…。


「そんなことあるのかって顔だね、でも本当の話なのさ。僕等自然調査員がネブルヘイナへ調査しに来た理由がまさにそれでね、実際外では化石として発見されている動植物が当たり前かのように生きていて、それには凄く驚いたものだよ。


じゃあ何故そんな環境が今なお残っているのかと言うとね、正直〝自然の神秘〟としか言いようがないんだよね。外と隔絶された空間…人の手が及んでいない環境…、この条件が揃ってこその産物…! 全ては世界最大級のマウンテン・プールが産んだ奇跡さ…!


高い知性と団結力で食物連鎖の上位に君臨する知性生種…その影響を一切受けなかったからこその生態系ってことだね~。いやー本当に凄いことだよこれは! 世界広しと言えども絶対にここでしか見られないよ! 絶対にね!」


凄い興奮してるなぁ…、興奮がオーバーフローした人の形容しがたい気持ち悪さ怖い…。でもこういう人を見てると逆に冷静になれていいよね…。


「っで話は少し変わるけど、君達は〝飛布蛞(パンプラート)〟って言う生物は見たかな? 古原大(こげんだい)に生息してるんだけど、実はこの生物の化石が約1900年前の地層から見つかっているんだ! つまりネブルヘイナの生態系は少なくとも1900年もの間、時が止まったままの状態というわけさ!」


んー…難しい話で混乱しそうだから一旦整理しよう…。まずネブルヘイナ大森林という場所は、古代の環境が現代まで残っている奇跡の場所ってことだろ?


っでそれは人が長い間干渉していなかったからこその産物で…少なくとも1900年は続いているってことだろ?


でもそんなネブルヘイナの東に広がる冥淵樹海(めいえんじゅかい)には、明らかに人が造ったと思われる古城と…その見取図&それを収納しておく箱があったと…。


っということは…? かつてこの地には人が住んでいて…? しかし何らかの理由で全員姿を消し…? そこから古代環境が1900年続いた…? ──ほあ…?


規模がデカ過ぎて目眩がしてきた…。だって今付喪月暦(つくもれき)1831年よ…? 大方人類の文明が始まったのが1831年前よ…?


人類史が始まる前から…古城を築ける技術を持った人類が存在したってこと…? ──余計分かんなくなった…、バカになりそうだ…ナップみたいな…。


「ちなみにもっと摩訶不思議な情報があってね、ネブルヘイナへと続く唯一のトンネルがあるだろう? あれが開通したのが今から約600年前、大体1200年代頃ってことが判ってるんだ~」


「それの何が摩訶不思議なのですか…?」


「トンネルが無かったにも関わらず、どうやってあんな立派な城を建てられたのか不思議だろう? 材料をどこから調達したのかも謎だし、何より人手が必要だった筈だ。どうやってあんな険しい山を越えたのか…何故そこまでして古代人達はこんな場所に城を築いたのか…──知的好奇心がくすぐられて仕方ないよ…!」


確かに不思議な話だ…、飛空艇ですら僅か200年前の産物だというのに…古代人は空を自由に飛べたとでも言うのか…? めっちゃ退化してますやん私等…。


翼や羽を有する知性生種が居たとかでもないだろきっと…? あらゆる知性生種が生まれたのだって付喪月暦(つくもれき)の中での出来事だし…。


「──それで思い出したんだけど、昨日の夜君達から色々と話を聞いただろう? ここへ来た理由とか、リーデリアの悲劇の詳細とか。それを聞いて僕なりに色々と考えてね…一つの仮説を立てたんだ…! 話してもいいかな? 気になるでしょ君達も? 話していいよね? そうだよね、ありがとう感謝感謝!」


こうなったジルゥは止めようがないと理解している…、大人しく仮説を聞く他ない…。時々パークを打ち上げながらジルゥの言葉に耳を傾ける。


ジルゥが立てた仮説──それは魔物の正体が〝古代生物〟であり…魔物を封印していたあの石碑が、実は古代生物を〝復元〟させる装置だとする説だった。


通常であれば信じようのない御伽噺だが…、さっきの摩訶不思議な話を聞いた後だと強く否定ができない…。


付喪月暦(つくもれき)以前から未知の方法で古城を建てられるほどだ…そういう未知の技術があってもおかしくはないと思えてしまう…。


どういう原理でそんなことが可能なのか分からないが…石碑(アレ)が神造物ならばそれも頷ける…。正直どっちでも同じだ…封印だって原理不明だし…。


古代人達は何かしらの思惑で〝古代生物「魔物」〟を()()しようとし…それが永い年月の中で()()と間違って伝わり…どういうわけか今になって魔物が復元されてしまったと…。


なんと傍迷惑なことか…、ふざけないでいただきたいわ…。過去に行けるのなら携わった奴全員に膝蹴りしてやりたいね。


「むぅー…本当にそんなことがあるのでしょうか…。少々出来過ぎているような気もしますが…」


「まああくまで僕の妄想話だからね、真実は誰にも分からないものさ~」


アクアスの意見はごもっともだな、色々理解できない点はいくつかある。


まず一番に引っ掛かるのはやはり目的…。あんな破壊しか生まない危険過ぎる生物を蘇らせて一体何をしたかったのかさっぱり分からん…。


そして復元に時間がかかり過ぎていること…。恐らくは復元に2000年以上もの時間がかかってるだろこれ…?


古代生物を復元するほどの超絶技術がありながら…何故そんな長期的な復元になったのかが意味不明だ…。


思ったより根が深いのかもしれないな…このリーデリアの悲劇は…。とんでもないことに首を突っ込んでしまったのかもしれんな…私達は…。


──ハァ…、この一件が片付いたその先に…納得のいく真相が見つかればいいな…。でなきゃ割に合わねェぜ…。


「おネエさーん! 巣アッター! 褒めテー!」


「ああ偉い偉い! そのまま巣落としてくれ! 十分気を付けてなっ!」


「ハーイ!」



──第133話 仮説〈終〉

謎は深まるばかり──…。

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