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飛空技師は駆り出される  作者: 似瀬
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第130話〝10年の呪縛〟

           ──飛空技師は駆り出される──


ジルゥを拾って2人のもとへ──。

「おーい2人共ー、見張りお疲れェーい。何の収穫も得られなかった負け組達がお帰りだぜー」


「あっお帰りー。──知らない人居る…変な恰好してる…」


「どうもー、収穫に含まれなかった悲しい変な恰好の男だよー」


食料と水は得られなかった代わりに、冥淵(めいえん)に詳しいジルゥを連れてロイス達のもとへ戻った。(りゅう)は…相変わらず古城に居るな…。


ひとまず2人にはジルゥとの出会いの経緯を説明し、その上で(りゅう)に関する絶望的な情報も伝えた…。


「えっ…数ヵ月動かないの…? あそこから…? それは…困ったね…」


「普通にヤバくないそれ…? どうすんの…?」


「それについては後で再度話し合いを設けるつもり…。とりあえず今はこのジルゥの拠点に行くことになったから、早速移動するよ。食料と水もあるんだってさ」


「そうそう、きっとくつろげるよ。さァ行こうじゃないか君達! ただもし猛獣が出たら対処の方はお願いするよ? 僕戦闘能力皆無だからね」




     ▼   ▽   ▼   ▽   ▼




──昼過(ひるす)ぎ 【快晴】


「──さっ着いたよ。皆お疲れ様、ゆっくりくつろいでおくれ」


「もうへとへとダヨ」


「オマエ何もしてないだろが…」


途中大蛇やキモい巨蟲との戦闘を挟みつつ…何とかジルゥの拠点に辿り着いた。木の上に作られた拠点は、思いのほかちゃんとした作りをしている。


木の骨組みとその周りを囲うように敷き詰められた草、上には大きな葉っぱで屋根まで作られている。普通に過ごせそうな出来の良さ。


梯子を上って中に入り、隅に荷物を置いて適当に腰を下ろして一息つく。立派な拠点だが流石に7人は狭いな…、気持ち傾いてる気がする…。


「喉渇いたでしょ、真水しかないけど良かったら飲んで飲んで」


「ああどうも…、ンクッ…ンクッ…ふぃー。──さて…それじゃ今後について話し合おうか…、どうする…? 帰る?」


「帰んねェよ…?」

「諦めないでくださいカカ様…!」


まあ冗談ですけどね。でもぶっちゃけ喰胃(くい)とか宵星(よいぼし)にはどっちみち戻らなきゃならねェから…あながち間違いでもないのよな…。


ジルゥが食料と水を持ってるったって、急に6人(クギャとパークを除く)増えたら持たない筈…。そうなれば結局食料と水の調達が必要になる…。


何なら明日から調達に出向く羽目にもなりかねん…。いまのうちに仕事の配分とか当番とか色々決めておいた方が良さそうだ。


「ねェ、ジルゥさんだっけ? ジルゥさんって普段どうやって生きてんの? 1人で生きていけるようには思えないんだけど」


「それ今聞いてどうすんだよ…」


「だって気になったもん。道中色々と遭遇して戦闘になったけど、ジルゥさん戦えないじゃん。どうやって食料とか調達しながら生きてんのか不思議じゃん」


カーリーちゃんマイペースだなぁ…、まあそれは私も気になってはいたけど。戦闘能力皆無じゃ数日と掛からず死んじまいそうなもんだが…。


それなのにコイツは冥淵(ここ)に住み慣れてるまである。拠点を築き、食料と水を確保し、当たり前かのように暮らしている…自力でだ。


「フフフッ、気になるかい? でも案外単純だよ? 弱っちい僕が生きられている理由──それは戦闘を避けているからさ、凄く単純だろう? 僕が冥淵(ここ)で暮らし始めてからというもの、一度だってさっきみたいな危機に発展したことがないのさ」


「でもさっきは戦闘になったじゃん」


「あれは君達が居たからだよ。あの大蛇も巨蟲も、君達の匂いを感じ取って襲って来たんだ。実際狙われたのは君達で、僕は一切狙われてなかっただろう?」


そう言われてみりゃ…そうだったような気もするな…、あんま意識して見てたわけではねェけど…。


「ほらこれをご覧。僕がいつも身に纏っている(みの)だけど、この(みの)は特殊な植物で編み込んだ代物でね、なんとにおいを遮断してくれる凄い一品なんだよ! って言っても僕が自作した物だから、自画自賛なんだけどね…」


「においを…遮断…?」


「そういや食料調達ん時も宵星(よいぼし)ん時も…まったく匂いを感じ取れなかったな…。目にするまで気付けなかった…」


ロイスは触角で匂いを辿れていたし、恐らくはアレスも同様のことができるんだろうが…そのアレスがこう言うってことは…本当に遮断できてるんだな…。


確かに凄い代物だ…それがあればあのウザったい食獣植物も襲ってこなかったかもしれん…。ハヤタタにも気付かれなかったりして…。


ハッ…! ──コレ…もしや使えるのでは…?! 匂いを遮断することができれば…こっそり古城に侵入&石版回収も可能なのでは…?!


音立てたり視界に入ったりしたらアウトってのは変わらないが…匂いを絶つだけで成功率は上がる…!


リスクはつきまとうが…古城を離れるタイミングをずーっと待ってるよりいいかもしれん…! こんな場所さっさとおさらばしてェ…!


「なァジルゥ…! それと同じのってまだあるか…?! あったら譲ってくれ…! 頼む…! お願い…! 人助けだと思って…!」


「待って待って…! もちろん喜んで渡したいところだけど…この(みの)はコレ1つしかないんだ…。如何せん僕しか居なかったから…必要な分しか作ってないのさ…」


むぅ…まあ致し方ないか…、っとなれば自らの手で必要な分作るしかないな…。編み込みは器用なニキに頼むとして…問題はやっぱ材料か…。


「その(みの)に使った植物ってのはどこで採れる…? その辺テキトーに探せば見つかったりするもん…?」


「残念ながら特定の場所でなきゃ採れないね…、そういう意味でも特殊なのさこの植物は…。どうしても入り用なら案内するけど…大きな危険がつきまとうってのを覚悟してね…。最悪命を落とすかもしれないよ…」


「オッケー、じゃあ案内頼むわ。そんじゃ細かいこと決めちまおうぜオマエ等」


「あれ~? 軽ぅ…」


とりあえず今日はこのまま大人しく休んで、明日にでもその植物を採りに出掛けよう。そんでその次の日にでも…(りゅう)の根城に侵入するとしよう…。


ってことでまずは二班に分かれます。片方は楽しい植物採取、もう一方は食料調達だ。もしも予期せぬ事態が生じたら…嫌でも足踏みになる…。


そうなった際に困らないよう、十分な食料と水を確保しておく。万が一を軽視する奴は万が一に泣く…備えは十分に越したことはない。


そして色々話し合った結果、人選はこの通り。

<楽しい(※死の危険あり)植物採取チーム>

・カカ(パーク込み) ・アクアス ・アレス ・ジルゥ


<愉快な食料&水調達チーム>

・ニキ ・ロイス ・カーリーちゃん ・クギャ


「皆異論ないなー? じゃあ明日はこのメンバーで行動するように。間違っても勝手な単独行動とかはするなよ? ──するなよ…?」


「肝に銘じておきますニ…」


ニキはあれこれトラブルを持ち込んでくるからな…、本当は私の監視下に置いときてェが…怪力持ちは食料調達に向いてるからな…。


しかも私とアクアスとニキの3人じゃ行かせられねェってアレスが頑なに止めるから…、ほぼ有無を言わさずこの采配になった…。


保護者かアイツは…、仮にも魔物2体を討伐してるんだぞ私達は…。二等星ハンターが居なくたってやっていけるっつの…。


「もう決めることは大体決めたんだし、もう1個質問してもいいよね? ジルゥさんってどれぐらい冥淵(めいえん)で暮らしてんの?」


「そうだねェ…今年で10年になるかなぁ…」


「10…!? ヤバ…オレまだ5歳じゃん…」


そんなに長く冥淵(この森)に居るのか…、途方もねェな…。そりゃあれこれ詳しいわけだ…アレス達とは年季が違う…。


「ネブルヘイナに入る前に君の集落にも立ち寄らせてもらったし、何なら君と会うのも2度目なんだよ? 可愛かったなぁ、木の棒片手に「もりばんになる~!」って意気込んでたっけ。えっと確か名前が…──ターキー?」


「カーリー」


「ああそうそう、ごめんよ名前間違えて…」


カーリーちゃん頭押さえて必死に思い出そうとしてる…。それはそれとして5歳のカーリーちゃん可愛いな、ほっこりエピソードごちそうさま。


「ついでに聞いてもいいニ? 10年もこんな場所に居るのって…もしかして呪毒が原因ニ…? もしそうなら血を飲んで解毒とかしないニ…?」


「君達は木の実1個食べただけだから、適当な生物の血で解毒も可能だけど…僕のは数段上だから…あの程度の生物の血じゃ効果ないんだ…」


ジルゥ曰く、10年前ここへ調査の為に足を踏み入れた際…凶暴な生物の襲撃を受け…腕を負傷してしまった。


命からがら逃げ出せたものの…患部から呪毒に侵されてしまった…。その呪毒がかなり強かったらしく…簡単には解毒できないそうだ…。


「護衛も付けて…万全な状態で臨んだ筈だったんだけどね…、未知の場所だっただけに…見立てが甘かった…。狩猟町(イントレイス)でムルクって人から…「あそこには近寄るな…!」って警告を受けたんだけどね…、知的好奇心に勝てなかった…。これは報いだよ…軽率で愚かだった僕への…」


「他の奴等はどうしたんだ…?」


「皆帰還したよ…呪毒に侵されたのは僕だけだったから…」


たった1人で10年も…、私だったら気が狂っちまうぜ…。1年持つかな…? 寂しくて死ぬ自信あるな…、寂死(さびし)する…。


そりゃノリノリで拠点まで連れてくるわけだ…、人との久々の会話はさぞ身に染みたろうな…。素直に同情しちまう…。


「解毒する方法はないニ…?」


「君達と同様に血を飲めば解毒できるだろうけど…強力な呪毒に抗うには上位捕食者の血でなきゃダメだろうね…」


戦闘能力皆無なジルゥじゃ…ソイツ等を倒すことも採血もできない…、だからただ10年間…息を潜めて生きてくしかなかったわけだ…。


「──よし分かった、私達に任せろ! 私達がその上位捕食者とやらをぶっ倒して、オマエを10年の呪縛から解き放ってやるよ!」


「えっ…本当…!? 本当かい…!?」


「おうともよ。私とニキの呪毒を消してくれたし、(みの)作りにも手を借りるわけだしな。植物採取ついでにぶっ倒してやんよ」


施しされっぱなしも性に合わないし、何よりこのまま一生冥淵(この森)で過ごさなきゃってのは…あまりにも気の毒だ…。


それに良い奴だしなコイツ。本当は自分だって今すぐ自由になりてェだろうに…上位捕食者を倒してほしいとは言ってこなかった。


それどころか一切の見返りも求めてもこなかったし…呆れるほどのお人好しだ。


「おい待て待て…勝手に物事決めんなよ…」


「じゃあ楽しい植物採取チームで多数決取ろうぜ? ジルゥを助けてもいいよって人は挙手してくださーい。ちなみに賛同してくれるメイド大好き」


「はい! はい! (わたくし)大賛成です! 何としてもジルゥ様を助けましょう! 頑張りましょう!!」


「別に俺も否定意見はねェけどよ…オマエそれちょっと卑怯じゃねェか…?」


「卑怯じゃないと思う人ー」

「はいはーい!」


多数決(不正なし)の結果、ジルゥを呪毒から解き放つことが決定した。上位捕食者との戦闘は大きな危険を伴うだろうが…まあ何とかなるだろ。


最悪血だけ採れればいいしな。遠くからアクアスに撃ってもらって、その後こっそり瓶に詰めればいいべ。


(みの)を手に入れ、ジルゥを助け、石版をいただく。それが終われば…──魔物との戦いも近付いてきたな…。


深紫(こきむらさき)の粉塵を撒き散らかす魔物…。前2体と違って事前に見ているのに…底知れない何かを感じる…。


せめて攻撃手段だけでも見れたら良かったんだけどな…、言ってたって仕方ねェけど…。とりあえず今はこっちに集中にしねェとな。


正直魔物よりヤバい(りゅう)の根城に潜入しなきゃならないわけだし…。ハァ…何でこんな先の未来に危険ばっか詰まってんだか…。


「まあいいや…それよりそろそろ飯にしようぜ? たくさん歩いて腹減っちまったよ…、ジルゥ食料貰うぜ?」


「うんいいよ、わ~楽しみだな~♪ まともな食事すら10年振りだよ~♪ 大体肉焼くだけだったり、木の実に齧りつくだけだったからさ」


ジルゥの口から飛び出す言葉の一つ一つが悲しい…。ウマいもん作ってやろう…メインの調理はアクアスに任すけど…。


ウマいもん食ってたっぷり体休めて、明日に備えねェとな。──最悪命を落とすほどの危険かぁ…、頑張らなきゃな…。







──(あさ) 【晴れ】


「よし! そしたら各班しっかり任務を全うするんだぞ! 美味しそうな食料をできるだけ集めてくれよな、傷だらけで帰った私達が満足するだけのもんをよ…」


「縁起でもないこと言うなニ…、無事に帰ってきてくれニ…」


食料調達チームと分かれ、私達危険いっぱいチーム…もとい植物採取チームも行動を開始。どこを目指すのかは知らないが…どうせろくでもないだろ…。


私もあっちにすれば良かったかな…? ってか今思ったけど絶対あっちの方が楽だな…失敗したぜちくしょう…。


「さァ頑張っていこう! 道のりはまだまだ遠いよ! ──あっ、道中の危険は頼んだよ? 僕大型犬にやられるぐらいには弱いからさ」


「よくそれで生きてこれたな10年も…」


「本当ですね…」



──第130話〝10年の呪縛〟〈終〉

いざ行かん、特殊な植物と10年の呪縛を解きに──。

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