9話 みんなの役職
「ダフネはね、今息子とお産のために実家に帰ってるんだ!簡単な怪我くらいならどうにかなるけど、お産ともなるとね。領内には治療院なんてないから、王都に近いところで出産に備えてるのさ!」
「…なんであんな言い方をしたんですか…」
「はっはっは!君の驚く顔が見たくてね!」
やっぱりニクラスさんの性格は悪いと思う。俺の心配と不安を返してほしいぜ。まぁ元気ならいいけど。
「それにしてもなんで司祭も黙ってたんですか。本当になんかあったのかと思いましたよ。」
「ほっほっほ。そこの男爵様が目配せしてきての。儂ごときにはお貴族様のお願いを無下にするのは無理じゃて」
以心伝心と言うべきか。この二人がテレパシーを使えても驚かないような妙技を使った意地の悪さである。
「子供が二人に増えるから僕も何とかしようとおもってるんだけど、如何せん領主になるなんて考えてもなかったからね。何から手を付けていいか。探り探りさ。」
「閣下、お話が漏れれば外野から何を言われるかわかりませんぞ。」
シュローターベック男爵に苦言を呈するのは今まで全く言葉を口にしなかった団長である。戦争で貴族となったシュローターベック家には、妬みから足を引っ張ろうとする敵対貴族が後を絶たない。先ほどニクラスが妻の帰省を言いよどんだのは、王都にそういった貴族が多く、心配だった面もあり、司祭もそれを察して助け舟を出した形になったのだ。
「ははは。大丈夫さドミニク。なんたってオリバー君は神様のお墨付きだよ?何にも心配することじゃないさ。」
「そうではありますが、」
団長さんはドミニクさんというのか。今まで名前がわからずにモヤモヤしてたからちょっとスッキリしたな。そういえば団長さんたちって本当に兵士か?よく考えたら貴族が持ってる自前の戦力って騎士だったりしないか?
「団長さんたちって、もしかして騎士ですか?」
「む。そういえばディーキチは我々をずっと兵士と呼んでいたか。そうだ。我々はシュローターベック家につかえる騎士だ。」
「説明してなかったね。彼らは我が家につかえてくれてる騎士さ。ドミニクをはじめとして現在7名の騎士がいるよ。」
…いろいろ情報が多いな。一回寝る前に整理す、る、
「あっ」
「どうしたんだい?」
「すみません、今日、泊めてもらえませんか?」