第2話
目を開けるとそこは異世界だった。
石畳の地面、レンガ造りの町並み、賑やかな人の声。
現代の日本とはまるで違う世界がそこには広がっていた。
目に見える景色も、耳から聞こえる音も、感じる空気も、すべてがあまりにリアルでこれがゲームだということを忘れてしまいそうになる。
ピコン!
唐突な機械音と共に目の前にボードが現れた。
【Stone Spirit Journey へようこそ!
これからチュートリアルを始めます。
チュートリアル終了までは個別サーバーになります。
自分のペースでこの世界を楽しんでください。】
どうやらチュートリアルが終わるまでは一人でゆっくりとできるらしい。
確かにサービスが始まった直後は混雑するだろうし初心者にはありがたいね。
とりあえずいつまでも道の真ん中に立っていては通行の邪魔になるから近くにあったベンチに腰掛けてみた。
【チュートリアル 1 ステータスを確認しよう!
脳内で“ステータス”と唱えるか、口に出して“ステータス”と言ってください。】
(ステータス)
指示通りに脳内で唱えてみるとチュートリアルボードの横にもう一つボードが浮かび上がった。
【ステータス】
ユズ Lv.1
職業:影法師 Lv.1
スピリット:ブラックジェイド(闇)
HP:50
MP:100
STR:1
VIT:1
INT:3
MID:8
AGI:9
DEX:10
LUK:8
SP:0
スキル:影魔法(Lv.1) 影操作(Lv.1) 影化(Lv.1) 影踏み(Lv.1) 身体操作(Lv.1)
称号:招かれ人
ステータスボードにはさっき決めた職業、スキルが表示されていた。さらにさっきは無かったスピリットも追加されている。
どうやら画面をタップすることでヘルプを見ることができるみたいだから確認していこう。
【スピリット】
無二の相棒としてプレーヤーとともに歩む存在。スピリットには個体差がありそれぞれ得意な分野に特化していることが特徴。属性は7種類存在し、属性によって同じ種でも性格や性能に差がある。
【ブラックジェイド(闇)】
闇属性のブラックジェイド。相棒のプレーヤーのことを唯一の存在として愛する。幸運と魔除けの力を持つ。
相変わらずヘルプを見てもよくわからないけど、どうやらあたしのスピリットは結構愛情深いみたいだ。
【チュートリアル 2 スピリットを召還しよう!
脳内か口頭でスピリットに呼びかけてください。】
呼びかける?どうやったら良いのかわからないけれど、スピリットの名前を思い浮かべながら呼んでみることにした。
「…おいで」
すると、目の前が一瞬黒く光り次の瞬間にはあたしのスピリットと対面していた。
その子は15㎝くらいの大きさで全身を黒いフード付きのコートで覆い隠していた。背中には2枚の黒く透けた羽がついており、目深に被ったフードからは紫がかった黒い瞳が覗いている。
「はじめまして、ボクの愛しい人。君の名前はなんて言うのかな?」
「はじめまして。あたしはユズ。あなたは?」
「ボクはブラックジェイドのスピリット。名前はまだ無いんだ。君が決めてくれると嬉しい。」
名前、か。これから先ずっと一緒に過ごす相棒だと思うと適当には決められない。
闇属性みたいだし全身真っ黒な子だから黒にちなんだ名前が良いな。
闇、、、黒、、、夜、、、
「ノア」
うん、シンプルだけど結構しっくりくる。
「ありがとう、ユズ。とっても素敵な名前だ。」
嬉しそうに笑ったノアはちょこんとあたしの膝の上に座りすっと虚空に手を伸ばした。
すると、目の前に浮かぶ2つのボードの手前にもう1つボードが出てきた。
【ブラックジェイド(闇)】
ネーム:ノアLv.1
HP:30
スキル:幸運
プレーヤーのステータスに比べるとずいぶんとシンプルなステータスだ。
ヘルプを見てみるとスピリットのレベルはそのスピリットが得意とすることを経験値として換算して上昇していくらしい。スピリットのHPが無くなると強制送還され、ゲーム時間で6時間召喚できなくなる。スキルは始めに1つ覚えており、レベルが10上昇するごとに1つずつ増えていくみたいだ。スピリットのスキルはレベルの概念は無い分強力な物になっている、と。
「つまりノアはとっても運が良い子ってことか。」
「ふふ…うん、そうだよ。だからユズのスピリットになれたんだ。」
「じゃあノアに出会えたあたしも運が良いってことなのかな。」
「…!?」
照れてるところもかわいい。
その後はノアと一緒にチュートリアルをこなした。と言っても町の中を軽く歩いて動作の確認をしたり、ギルドの訓練場に行って魔法の発動方法を確認したりしただけだけどね。
全てのチュートリアルをこなすと報酬として10000コルと初心者ポーションを5個もらった。コルはこの世界の通貨で1コル=1円らしい。ちなみに招待特典は5000コルと武器のガチャチケット1枚、防具のガチャチケット1枚だった。武器や防具はいくつかの種類があり、自分がほしい種類のガチャを引くことができるらしい。とりあえず今は一端保留で良いかな。尚、ガチャから排出される武器防具のレアリティはSSS~Eの8段階の内、E~Aまでがランダムで出てくるそうだ。
チュートリアルの最後に宿屋に入ったため、この宿から出るときにはついにオープンワールドになる。これからの冒険を心待ちにしている自分に気づいて笑みがこぼれた。
「どうしたの、ユズ?」
「ううん。何でも無いの。
楽しみだね、ノア。」
「うん。そうだね、ユズ。」