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第1話

【Stone Spirit Journey】


『来月発売されるリーフィリア社のVRMMORPGゲーム。これまで、育成ゲームやシュミレーションゲームを中心に手掛けてきたリーフィリア社であったが、遂にファン待望のMMORPGを制作。ついに___』


学校の帰り道。いつも通る交差点の大型スクリーンから話題のゲームのCMが流れていた。応募者が殺到して抽選になったとクラスメイトが嘆いていたからよく覚えてる。

(まぁ、あたしには関係ないか)

何せ生まれてから17年間コンピューターゲームという物には一切関わってこなかった。5つ上の兄は所謂廃ゲーマーというやっだったが、その実生活を削ってでもゲームをしている姿をみて幼心に怖く感じ、ゲームとは縁遠い生活を送ってきた。このゲームに関しても色々なところで名前を耳にするから覚えていただけであって、ゲームそのものには興味もない。精々応募したというクラスメイトに心の中からエールを送るくらいだ。

流れ続けるCMを横目に帰路を急ぐ。今日は久しぶりに家族が揃うのだ。早く帰って晩御飯の用意をしないと。


『なお、ベータテスターはゲーム本体に加え招待枠を1つプレゼント!ベータテスターから招待コードを貰うとゲーム開始時にスペシャルな特典も___』


今日は特別な日だ。特に何かの記念日という訳では無いが、滅多に揃うことの無い家族が全員揃う奇跡的な日である。

兄は普段遠方で一人暮らしをしており、休日はほとんどゲームに費やしている為中々帰ってくることがない。両親は仕事で海外を飛びまわっている為、現在地が不明な事は最早日常茶飯事。時々来る絵葉書等で通過した国がやっと分かるというくらい。(絵葉書が家に届く頃には大抵次の次くらいの国に着いている)そんな両親も今回、仕事が一段落したらしく帰って来ると連絡があった。

そんなこんなで家族が揃うのは3年ぶりくらい。久々の家族団欒を楽しみに今日は腕によりをかけてご飯を作ろうと思う。


「ただい「おかえりー!!!久しぶりだねぇ!元気だった?お兄ちゃんはゆづに会えなくてすっごく寂しかったけどめっちゃ元気だったよ!!それにしてもしばらく会わないうちに大きくなったねぇ!それにすごくお姉さんになってる!可愛い!!僕の妹はやっぱり世界一かわいい!サラサラの黒髪ロングがよく似合ってるよ!うん!最近学校はどんな感じなのかな?楽しい?友達はできた?優しい子かな?あ!まさか変な男と仲良くなってたりしないよね?まさかか、かかか彼氏とか………そんな訳ないよね!いや、ゆづが可愛いのは当たり前だからモテないはずもないんだけどだからと言って彼氏になれるなんて思い上がった男なんて居るはずないよねー!うんうん!やっぱりかわいいゆづにはかわいい女の子のお友達が1番だよ!あ、そうだ!今日の晩御飯は何作る予定なの?」……ま」

「?」

「ないしょ。あたしが作るからお兄ちゃんはソファで大人しくしてて。あと、おかえり」

「っ!!ただいまー!」

相変わらず1人で10人分賑やかな兄だ。

あたしが無口なのは兄のせいに違いない。



「おいしかったー!流石ゆづ!すっごくおいしかった!作ってくれてありがとー!!」

「うん」

兄はインドアだし痩せてるから少食だと思われがちだけど実はかなり食べる。両親もよく食べるからかなり多めに用意したけど、兄1人で3人前は食べてたから足りるか心配になったくらい。まぁ美味しく食べてくれたなら良かったけど。

両親からは大量のお土産を貰った。海外のよく分からない置物とか高そうなお皿とかいろいろ。また整理しておかないと。

「そういえばさー、俺もゆづにお土産持ってきたんだよ!」

部屋に置いてあるから!と言われ、片付けを母にお願いし、自室に向かった。

部屋の真ん中に置いてあるローテーブルの上に1冊の冊子と手紙が置いてあった。


『愛しのゆづヘ

しっかり者のゆづの事だからあまり心配はしてないけど、体壊さないように気をつけてね!

いっつも家の管理してくれてありがとう。

これはお兄ちゃんがベータテストの時の特典で貰ったものだから遠慮せず使ってね!特典コードは冊子の最初のページに書いてあるからね!

お兄ちゃんと一緒にゲームをしよう!!


PS.本体は大きいので隣の空き部屋に置いてます。

お兄ちゃんより』


手紙の隣には表紙に【Stone Spirit Journey】と書かれた冊子。

「これはあれか。クラスメイトが応募したとかいう例のゲーム。」

きっと、VRならゲームをしたことが無いあたしでも出来ると思ってくれたんだろう。今までゲームには全く興味がなかったけど、せっかく貰ったしやってみようか。

「その前にちゃんとお礼言っておかないとね」

その後、兄にお礼を言いに行くと設定まで手伝うと言ってくれた。あたしとしても機械には強くないから兄が手伝ってくれるのは正直助かる。

そんな訳で兄の指示の元、1時間程掛けて初期設定を行い後はサービス開始を待つのみとなった。

因みにVRゲームマシンというものを初めて見たが、あんなに大きいとは思わなかった。あんなもの自室に置かれたら生活できなくなるから空き部屋に置いてくれた兄には改めて感謝しておかないと。


ところで、兄はワンルームのマンションで一人暮らしをしているはずだが、兄はどうやって生活しているのだろうか。


そうして迎えたサービス開始日。大型連休の初日に合わせた開始となっていて、運営の本気が感じられる。サービスはお昼の12時からだからそれまでに洗濯や掃除を済まし、早めのお昼ご飯も済ませた。やるからには最初ぐらいは本気でやりたい主義なのだ。

5分前には諸々の準備を済ませてマシンを起動させる。だんだんと意識が沈んでいき、気づいたときにはマシン本体のホームに居た。初期設定を行ったときにも感じたが、仮想空間とは思えないほど現実の自分の体との違和感がないのが凄い。と言うか、肩こりや疲労感がない分むしろこちらの方が体が軽いくらいだ。私のホームは特に何もない真っ白な空間にゲームやその他の機能のポップアップが浮かんでいるシンプルなものだが、普通は自分なりにカスタムして個性を出していくらしい。ホームからゲームを選択し、流れ始めたゲームのオープニング映像を見ながら時間まで待機する。“見る”と言っても流石はVR。まるで映像の中に自分が入っているかのような臨場感でこれを見られただけでも兄に感謝したいくらいだ。

そしてついに視界の隅にあったタイマーが30秒前になったとき、映像が終わりカウントダウンが始まった。こういう演出を見るとワクワクしてしまうのは人間の性か。カウントが進むにつれてだんだんと大きくなっていく数字。


……3…2…1…パンッ!!


「心臓に悪い」

今まで刺激の無い平穏な毎日を過ごしてきた人間には、例え予想できたとしても一瞬固まってしまうほどには衝撃があるのだ。ここが仮想空間だからこの程度で済んでいるが、現実で同じようなことが起こったら気絶する自信がある。過去、パーティー用クラッカーで腰を抜かして逆に驚かしたことがある身としては決して冗談などではないのだ。

さて、メンタルも落ち着いてきたところでようやくゲームを始めようと思う。

目の前に出ているポップアップに手を伸ばすとボードが飛び出てきた。どうやらこのボードでキャラの設定を行うらしい。


「名前か……ユズでいっか」

ありふれた名前だし別に大丈夫でしょ。

次は、職業?」

職業って何だろ。あ、横にヘルプマークがある。


【職業】

この世界での貴方の職業です。主に戦闘職、生産職、ロール職の3種類に分かれており、それぞれ職業に合った補正が受けられます。自分がなりたい職業を選択してみましょう!

職業レベルを上げると進化する事もできます。他の職業をしたくなったら転職をしましょう。進化、転職については別途ヘルプをご参照ください。


「とりあえず気になるものを選んだらいいのかな」

一覧を表示させて流し見てみるが、数が多すぎてどれを選べばいいか全く分からない。そして、ふと目にとまったのは“ランダム”の文字。

「どうせ、どれ選んでも初めてに変わりないんだし運任せにしてみてもいいよね。無理そうなら転職もできるみたいだし」

という訳で“ランダム”を選ぶと、ボードが消えて代わりにガチャガチャが出てきた。見た目はゲーセンとかに置いてあるやつのかなり大きい版みたいな感じ。どうやらこのガチャガチャで職業を決めるらしい。ピコピコ光るハンドルを回すと白いカプセルが出てきて、フワリと浮かびパカッと割れた。割れたところから出てきた光の玉?が私の体に飛び込んできた所でガチャガチャが消えて再びボードが出てきた。

ボードにはあたしのステータスが書かれていた。


【ステータス】

ユズ Lv.1

職業:影法師 Lv.1

スピリット:

HP:50

MP:100

STR:1

VIT:1

INT:3

MID:8

AGI:9

DEX:10

LUK:8

SP:0

スキル:

称号:招かれ人


ゲーム初心者のあたしでも分かるくらいの極端なステータス。影法師のヘルプを開いても“影を扱える”としか書かれていないからやってみないと分からない。SPはステータスの数値を上げるのに使うみたいで、ベースレベルか職業レベルが1上がると5貰え、10の倍数で10貰えるらしい。

称号の招かれ人というやつはベータ特典の記念称号らしく、特に効果はないようだ。

最後に初期スキルを決めるらしく、スキル一覧を開くと職業スキルとノーマルスキルの2種類が表示された。初めは5つのスキルが取得出来るらしいので、じっくり見ながら決めたのがこの5つ。


影魔法

影魔法が使えるようになる。

Lv.1シャドウボール


影操作

影を操作できる。


影化

自分を影と同化させる。


影踏み

影を踏む事ができる。


身体操作

自分の身体を動かしやすくなる。


職業スキルはよく分からないものもあったけど、とりあえず全部とった。残るひとつで少し迷ったけど、とりあえず無駄になりにくそうなものを選んだつもり。

これで終わり、と思ったけどどうやらまだ決めないといけないことがあるみたい。

「スピリット?」

ヘルプを見る限り、自分のパートナーとなるスピリットを決めて一緒に成長しながら冒険をしていくらしい。5つの質問と職業に合わせてAIが選んでくれるみたい。


問1.あなたの好きな色は?

問2.あなたの性格は?

問3.あなたの一番好きな物は?

問4.あなたが一番大切にしていることは?

問5.あなたはこの世界で何をしたいですか?


「これでよし。どんな子が来てくれるのかな」

始める前は何とも思ってなかったのに、今になって楽しみになっている。どんな世界が、どんな冒険が待ってるのか。こんな高揚感を感じるのは久しぶりだな。


目の前が光に包まれて、次の瞬間にはファンタジーな異世界が広がっていた。


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