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6.レオン


「エラ、君の部屋に案内するよ」


リアムの言葉に、エラは大きく頷いた。


「お願いします!」

「じゃあ俺もついてくー」

「私も一緒に行こうかな」


ギルもノエルもエラに興味津々なようで、さらりと付いて来ようとしている。リアムは注意しようとしたが、ため息をついて言葉を飲み込んだ。


 その時、四人の前方からまたもやイケメンが近付いて来ていた。


「おい、お前たち何してる」

「げ。団ちょー」

「おやおや。見つかりましたか」


切長の黒曜石のような瞳が印象的なイケメンだった。少しとっつきにくい印象で、エラも鯱張ってしまった。


ーー団長?という事は、私の雇い主じゃない!


自分の上司だと気付いたエラは、慌てて頭を下げた。


「初めまして!エラ=エバンスと言います。今日からここで家政婦として働きます。よろしくお願いします!」

「エラ……エバンス?」


団長は眉を寄せて小首を傾げた。不思議そうな団長の様子に、リアムが説明を挟んだ。


「団長、以前募集してた家政婦だよ。今日から住み込みで働くことになっている。話しただろう?」

「あ?ああ。そうだったな」


怪訝そうな団長の表情に、エラは戸惑った。自分は何かやらかしてしまったのではないだろうか、と思考を巡らせる。


「君は、ダニエルの婚約者だろう?何故こんな所にいるんだ?」


しかしエラの心配は無用だったようだ。どうやらダニエルと知り合いらしい団長は、彼の婚約者であるエラが何故こんな所にいるのか不思議がっていたのだ。


「あれぇ?団ちょー知ってるんだぁ」

「ダニエルが勝手に絡んできて色々喋っていたからな。会うたびに自慢されれば覚える」


まさかダニエルがエラのことを自慢していたなんて。エラにはとても信じられなかった。なんせ婚約してからはエラなんて空気のように扱っていたのだ。エバンス家を訪れてはアリアとばかり喋っていたのに。

 まあそれも、もはや過去の事。

 今となっては、もうどうでも良い事である。

 ただ説明を求められると、いささか戸惑ってしまう。


「あ、その……婚約破棄されましたので」


エラは少し困った笑顔を浮かべて答えた。すると、団長は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。


「は!?婚約破棄!?」

「は、はい」


団長は信じられないという顔をしていた。

 それはそうだ。

 婚約者の自慢話を聞かされていたのなら、良好な関係を築いているのだと思っていたのだろう。

 それが婚約破棄ときたのだから驚くのも無理はない。


「それで何故家政婦なんだ?」

「その……ダニエル様は私の妹と真実の愛を見つけたので、婚約破棄したいと申し出られたのです。それで、妹がダニエル様の婚約者になったのですが、事情がありまして、私は妹の持参金のために仕事することになったんです」


ダニエルはエラと婚約破棄してエラの妹と婚約を結んだ、という事を告げると、団長をはじめ騎士達はみな開いた口が塞がらなかった。


「うっわぁ」


ギルは頬をひきつらせていた。若干引いている。


「ダニエルもなかなかやりますねぇ」


ノエルは表情こそ変えていないが、一周回って感心さえしていた。


「騎士の風上にもおけないね」


リアムも呆れ果てていた。首を横に振ってため息をついている。


 騎士達の反応に、エラも苦笑するしかなかった。


 すると団長は、エラの頭を優しくポンポンと撫でてくれた。


「悪い。嫌なこと言わせちまったな」


申し訳なさそうな表情で、優しくエラを慰めてくれる。温かくて優しい手に、エラは頬が熱くなっていく。


「何か嫌なことがあったらすぐ俺に言え」

「ありがとうございます」


団長を見上げれば、優しく見守られていた。怖くて厳しい人かと思っていたが、団長はとても優しい人のようだ。


「まだ名乗っていなかったな。オレはレオン=サンフェイス。第一騎士団の団長をしている。よろしく」


ぶっきらぼうな物言いだが、レオンはしっかりとエラと目を合わせてくれている。嬉しいのに、なんとなくくすぐったくて、エラはつい笑みが溢れてしまった。


「はい!よろしくお願いします!」


エラの元気な様子にレオンは微笑んだ。


「エラは今から部屋に行くのか?」

「はい。リアムさんに案内してもらうところなんです」

「そっか」


そうしてエラが持っていた荷物に視線を向けた。エラは小さな鞄を持っていた。使い古された、くたくたの薄汚れた鞄だ。


「荷物、オレが持つ。これだけか?」

「い、いえ!大丈夫です、元々あんまり物も持っていませんから、荷物も軽いんです」


しかしレオンは、エラが持っていた小さな鞄をひょいと取り上げた。本当に大した事ない量の荷物なので何だか悪い気もする。だが、レオンは荷物を手放すつもりなんてこれっぽっちもなかった。


「ありがとうございます」


エラはお礼を言うしかなかった。するとレオンは満足そうに不敵な笑みを見せた。

 しかし、リアムが黙っていなかった。


「何を言っているんだい、団長!仕事はいいのかい?」


しかしリアムの慌てた様子なんて、レオンは全く気にしていなかった。


「急ぎじゃねえから大丈夫だ」

「じゃあオレも着いてくねー」

「私もご一緒させてもらうよ」


リアムは肩を落としてため息をついた。そんな四人の様子に、エラは思わず声に出して笑ってしまった。


「ふふっ。皆さん、とても仲良しですね」


 心から笑うのなんて、何年振りだろうか。

 聞いていた噂とは全く違う環境で、安心したのかもしれない。

 エラは自然と張り詰めていた気持ちがほぐれていった。


 そんな他愛のないおしゃべりをしていたら、いつの間にかエラの部屋に着いたらしい。


「ああ。ここがエラの部屋だよ」


そう言って、リアムが部屋の扉を開けてくれた。


「ありがとうございます」


部屋の中は質素ながらも必要な家具は揃っていた。

 エバンス家で使っていた壊れかけの家具なんかではなく、しっかりと新品の家具だ。ベッドだって使い古されたペシャンコの物ではなく、新品のふかふかな物だ。日当たりも良く、部屋の中がとても明るい。

 正直、とても貴族の令嬢が満足するような部屋ではない。

 アリアならば顔をしかめて逃げ出すだろう。けれど、エラにとっては今まで過ごした部屋よりもうんと恵まれた環境だった。

 エラはキラキラと瞳を輝かせて、部屋を見渡した。


「じゃあ僕たちは玄関で待っているから、片付けを終えたらおいで。基地内を案内しよう。」

「はい!すぐ行きます!」


 なんて素晴らしい所に来たのだろう!とエラは心から喜んだ。

 ここがエラの新しい生活場所。

 そう考えると、エラは嬉しくてしょうがなかった。


 エラは、心を踊らせながら小さな鞄を片付け始めたのだった。




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