28.傲慢のアリア
アリアがその魔力に目覚めたのは、王家主催のお茶会の後だった。
可愛い可愛いと持て囃されて育ったアリアは、自分の容姿に絶対の自信を持っていた。姉のエラのように勉強は出来ないし、裁縫も全く出来ないのだけど、可愛い自分は可愛くしていればそれでいいと思っていた。
しかし、それは可愛くなかったら自分に価値はないのだという気持ちの裏返しでもあった。
可愛いから出来なくても良い。
可愛いから男性から選ばれる。
だから、自分より可愛くない姉のエラが婚約したと聞き、目を丸くした。
「え?お姉様、婚約されたの?」
「ええ」
そう言って頬をほんのり赤く染めるエラは正直可愛かった。
殿下の婚約者を決めるお茶会で、アリアは殿下に全く相手にされなかった。
かっこよくて地位もある素敵な王子様。
可愛い自分にピッタリの存在だと思った。
それなのに相手にされなくて、アリアのプライドはズタボロだった。
そこにトドメをさすように姉の婚約。
しかも相手は公爵子息様。
「おかしいわ。私の方が可愛いのに。なんで私より可愛くないお姉様が選ばれちゃうの?そういう運命的な恋愛って、私の方が相応しいと思うの。きっとダニエル様は間違っちゃったんだわ」
「アリア、何を言ってるの?」
不満を口にすると、変な顔をされた。本当のことを言っているつもりのアリアは、そんな顔をされるのは不本意だった。
ーーおかしい。おかしいでしょ。私は可愛いのよ。
だから自分が選ばれなければならない。
アリアには、見た目しかないのだ。
だからアリアは可愛い自分が選ばれなかったことに焦った。
それなのにちょっとずつ、お勉強の時間が増えていった。あんなにたくさん買ってもらえていたドレスも買ってもらえなくなった。
ーー可愛い私から、可愛いがなくなったら、何が残るの?
アリアは不満が募っていった。勉強は嫌いだ。可愛いが通用しない。可愛いだけでは解けない。
だからアリアは自分の未熟さを思い知る勉強が嫌いだった。
しかも可愛くなるためのドレスまで買ってもらえない。それでは自分の価値がなくなってしまうというのに。
ーー私は可愛くなきゃダメなのよ。どうしてそれをわかってくれないの?
いつの間にかその感情に囚われて、アリアもよく分からなくなっていた。
可愛くなきゃいけない、ということだけが頭を埋め尽くしていく。
「お母様!どうしてお勉強ばかりしなくてはいけないの!?」
「貴方に必要な事なのよ」
「じゃあなんでドレスを買ってくださらないの!?」
「沢山持っているでしょう?それにお勉強がきちんと出来たら買ってあげると言ったじゃない」
勉強は嫌い。でも勉強しなければドレスを買ってもらえない。
自分から自分の価値を奪っていく母親が、憎くて仕方なかった。
ーー私から可愛いを奪わないで!
「アリア!」
黒い感情が爆発して、感情が抑えきれなくなった。自分から何かが溢れ出て、母親は守るようにアリアを抱きしめた。
「お、母様……」
何で?どうして?私から可愛いを奪ったの?
何で?どうして?私はこの傲慢な感情から逃れられないの?
「助けて……お母様……」
けれど、母親はアリアを助けてくれなかった。
いや、助けられなかった。
アリアの傲慢な感情が大きすぎて、魔法が強大化してしまい、母親には防ぐ事が出来なかった。
そうして、アリアはどす黒い傲慢な感情に飲まれてしまった。
それからアリアの天下が始まった。
アリアは感情のまま、傲慢に振る舞うようになった。それを制止する母親も姿を消してしまった。何故か母親の記憶は家にいた全ての者達から消えていた。
アリアはダニエルを洗脳し、エラとの婚約を破棄するように仕向けていった。ダニエルは簡単に洗脳された。もともとエラの事を好きだから婚約したわけではなかったので、洗脳にかかりやすかったのだろう。
レオンへの意趣返しのつもりで結んだ婚約が、まさか己の身を滅ぼす事になるとは、この時のダニエルも思っていなかった。
だが何故かエラは洗脳にかかりにくかった。
父親はあんなに簡単に洗脳にかかったというのに、エラはどんなに強い洗脳をかけても、充分にはかからない。そんなエラが怖くて、アリアはエラをすみへと追いやった。
たまに顔を出しては洗脳をしていく。
けれど結局洗脳しきれなかった。
それでもまあ、アリアにとっては満足いく状況だったので、良しとしていた。
その姉が、今更になってアリアの邪魔になっている。
それは傲慢なアリアにとって許される事ではなかった。
「アリア?」
「お姉様、お母様みたいな事を言うのね」
「お母様……」
「私は可愛いの。だから殿下も何もかも私の思い通りにならなきゃいけないのに。私の邪魔をしないで!」
アリアの悲鳴にも似た叫び声は、会場中に響き渡り、黒い感情が再び爆発した。




