1.過保護な騎士様
「ただいまー!」
今日も騎士団のみんなは汗だくになって帰って来た。そんな彼らをエラは笑顔で出迎えた。
「おかえりなさい」
そして一人ひとりにタオルを渡していく。
一時期に比べると日差しはだいぶ柔らかくなってきたが、それでもまだまだ日中は暑い。
彼らが汗だくになるのも無理はないだろう。
「レオン団長、どうぞ」
「ああ」
最後に帰って来たのはレオンだった。彼にタオルを渡すとエラはすぐに彼らのために冷たい飲み物の準備を始めた。
するとレオンは、エラの後ろにぴったりとくっついて来た。
「エラ、手伝うぞ」
「え!いいですよ。皆さん、疲れているでしょうし」
エラが慌てて断るが、レオンは全く聞く気がないらしい。エラの横に並んで、テキパキと飲み物の準備を始めた。
「レオン団長、大丈夫ですってば」
何とか止めようと、レオンの持つコップに手を伸ばすが、レオンがコップをひょい、と高く上げた。
これではエラには届かない。
それでもエラは精一杯背伸びをして、コップに手を伸ばした。
そんなエラをレオンは楽しそうに見つめている。
「レオン団長〜!」
全く届かなかったエラは、頬を膨らませた。しかしレオンは怒られる事さえ嬉しそうに笑っている。
「すまねえ、ついな」
「もう!」
ようやくコップを返してもらえたエラはまだむくれていた。
レオンは、そんなエラの頭を愛おしそうに撫でた。
「エラは強がりだからな。すぐ一人で無理しようとするだろ」
「そ、そんな事ありませんよ。それにこのくらいは無理のうちに入りません」
優しくされても騙されるものか、とエラはそっぽ向いた。
「それに騎士団の皆さんは優しいですから苦になりません」
「みんな?」
レオンの頭を撫でる手が止まった。今度はレオンの方が不服そうに口をへの字に曲げた。
「勿論、レオン団長が一番優しいですよ?」
「ならいい」
しかしエラの一言ですぐに機嫌は元通りになる。そんな素直なレオンが可愛くてエラはクスクスと笑った。
笑われた事が不満だったのか、レオンは甘えるようにエラに抱きついた。
「ひゃあ!」
あまりに突然のことで、エラは素っ頓狂な声をあげてしまった。その声にレオンはニヤニヤと笑う。
「やめてください!レオン団長!」
「やだ」
「もう!」
文句を言ってもレオンはニヤニヤと笑ってばかりで離れてくれない。それどころかエラの髪に頬擦りしてくる。
そんな二人の仲睦まじい様子を、騎士団員達は温かく見守っていた。
「あ。姉御と団ちょー、またやってるぅ」
「そっとしておくといい。レオン団長の邪魔したら後が怖いからね」
「ふふ。今日も仲が良いな」
「くっそぉ。レオン団長が羨ましいぜ」
「なら早く恋人を見つけるんだな」
「うるっせえ!婚約者持ちは黙ってろ!勝ち組め!」
みんな見守るだけで誰もレオンを止めてはくれない。
「あーあ。出来ればコップも持たせたくねえ」
「え?何でですか?仕事になりませんよ」
「コップ割ってエラが怪我したら大変だろ」
この人は何を言っているのだろう、とエラは顔を赤くした。まるで乳児を心配する親のようなことを言っている。
これでもエラは結婚適齢期の立派な令嬢だ。
そんな心配なんて、全くいらないのに。
それでも、それだけレオンがエラを大事に思ってくれているのかと思うと、ちょっぴりくすぐったくて、恥ずかしい。
「団長、それはいくらなんでも過保護ですっ!」
エラは照れ隠しで顔を背けた。けれど耳が赤くなっていて、レオンにはバレバレであった。
ーーもう。どうしてこうなったのかしら。
婚約破棄されて、出稼ぎでやってきたこの騎士団は、エラの想像以上に居心地の良い場所だった。
ほんの少し前、実家にいた頃には想像も出来ない状況だ。
ちょっと懐かしい気持ちで、エラはこうなった経緯を思い返してみた。
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