第八話;目を開けると
それは突然にやってきた。
「なあっ、あれって、なんだ‥?」
「向こうの空が黒く染まってる?雨雲?かな?」
「ヴ〜!!アンッ!!アンッ!!ヴ〜!!!」
「ど、どうした?チャム?」
今までに見たこともないような唸り声をあげて威嚇するチャム。
青い快晴を染め上げる黒。それは徐々にこちらに向かって来ていた。この村は周りを木々で囲まれ、遠くを見れば山だ。突然の雨も珍しくない。だけど何故か緊張して不安な気持ちになるのは、色があまりにも真っ黒だからだろうか。
気づくとその黒は、村全体を覆い隠すほどに広がり、一瞬漆黒に染まったかと思うとすぐに消え去った。急激に明るくなった為、思わず目を閉じる。そして、目を開けると、そこは地獄だった。
そこは魔物達の大群で溢れかえっていたのだ。
あの黒は勿論雨雲などではなかった。とても大きなゲートだったのだと気づいた。
ギャー!!クェー!!キャーーー!!!
魔物の鳴き声にハッとする。
「!!おいっ!逃げるぞ!」
魔物の鳴き声や様々な悲鳴が聞こえる中、一真が声を掛ける。しかし、恐怖ですくんだ翼と優の足は動かない。
ドスン。ドスン。――ベチャ。ボリボリ。
するとそこに大きな足跡と不快な音がやけに耳に響いた。
「っ!‥ひっ。」
ゆっくりと振り返った一真の目に大きなクマのようなバケモノがうつり込んだ。
そして、視界に入る赤。誰かが既に食べられていたのだ。
そのバケモノの口は誰かの血で汚れており、ボトリと腕であった様な物が地面に落ちた。その腕には、いつも教室で見ていたあの子の貝殻で作った腕輪に似ていた。
「「「うわぁ〜!!!!」」」
それを合図に走り出す。しかし、リーチの長さが違う。すぐ真後ろで不快な息遣いが聞こえた。
――死ぬ。
そう実感した時には体が勝手に動いていた。一真は勢いよく回転する。魔獣のクマは思ったより近くて、振り返った一真へ爪が伸びていた。
【魔獣;ハントベア 討伐ランク;Cランク
攻撃手段は鋭い爪。ハントベアは狩りに特化した魔物で攻撃する際、爪と腕を硬度強化し攻撃する。“ベアベア”と呼ばれる熊型の魔物が進化した。 】
「っ!くそっ!」
魔法を巨体に目掛けてはなったつもりだった。
しかし、焦りもあり放った魔法は右肩を擦り上空へと消えていった。その攻撃に怒った魔獣は手を一度引っ込めると、唸り声をあげ空中へ手を伸ばし思いっきり振りかざした。
「アンッ!」
その瞬間、一真の手を誰かが引く。そして、バランスの崩れた一真の体を踏み台にするかの様に、オレンジ色の塊が魔獣目掛けて飛びかかった。
トンッ!と軽やかに飛んだチャムは、小さい体に見合わない程の巨大な金色の魔方陣を生み出す。そして、口にエネルギーを貯めると、強大な業火を吐き出した。
ありがとうございました。では明日も18時に。