自販機の地縛霊
ある事件をきっかけに自分以外何も信じなくなった平凡な少年小豆沢こうたろーは、ある日美少女の幽霊しげよと出会う!非日常的ラブコメ生活にシンタローはついていけるのか?そして彼女を無事成仏できるのか?
ちょっぴり感動、ちょっぴりミステリアスなラブコメです
時計を確認しようとしたんだ、そしたら幽霊がいた。袴を着て、亡霊のような姿の。でもその幽霊はとても綺麗だったんだ。
―― ―― ―― ―― ―― ―― ―― ―― ――
それはいつもの帰り道、いつもの時間帯、いつもの暑苦しい制服を着ていて駅の改札口を通ろうとしていたときであった。それは突然現れた……いや、現れたのではない。改札口付近のなんだかんだ役に立つ自販機の前にポツンと立っていたのだ。まぁ宙に浮いているのだが。
そしてなんと言っても彼女はとても美人だった。男なら、いや性別の垣根を超えて魅力的な美貌を纏っており、今彼女を俺しか見ていないのは明らかに異質だった。そう、今彼女は誰からも注目されていない。誰も目を奪われておらずただ当たり前の日常を繰り返しているように見えた。チラチラと彼女に向かって顔を向かわせた人は恐らくただ彼女の近くの自販機や、彼女の上に貼り付けられたアナログ式の時計を見ていただけだった。
だが、そんな中俺は歩みを止めずいつもの日常に戻ろうとしていた。今彼女が幽霊の姿をしているのはコスプレで、誰も見ないのは日本人特有のスルースキルから来るものだ。そう自分の中で結論づけて俺は歩みを再開した。
「あ、あの~?」
ふと、ふわふわしたような優しい声が聞こえた。
声の主は誰か分からないが、かわいい声だなと思いつつ、スタスタと改札口に入ろうとするーーー
「ちょっと~そこのお兄さん~?無視しないで下さい~?」
相変わらずのかわいい声で彼女はある人を呼んでいる。いったい誰だ?こんなに声をかけられているのにシカトをこくような人がいるものか
「そこのひょろひょろの体型してる制服姿のあなたにいってるんですよ!!聞こえてますよね!!シカトしないで下さい!!」
あ、俺でした
ちらりと声の方向を向くと――――
「――――ギャァァァ!!すいません!すいません!」
そこには、先ほどの美少女の幽霊が自分の目の前にきていた。
「そんなに騒がないで下さい!きもちわ……周りからすごい目線をあびてますよ。」
「今なんて?」
「何でもありませんよ!!」
少し焦っているのか汗がだらだらながれているが……まぁ確かに周りの目線が痛いしつらい。
「まぁここじゃなんですし少し場所を移しましょうか!!」
パンと手を叩き半ば強引に目の前の幽霊は提案をする。
まぁ確かにこんなに視線が集まる場所から移動するのは賛成なのだが……
「幽霊だよな?」
「え?そうですけど」
そんな当たり前みたいな顔すんなよ。もういいや。考えるだけ無駄そうだ。俺はどうなるのだろうかこのままどこかに連れていかれて呪われるのだろうか、今この幽霊の提案にのって果たして俺は大丈夫なのだろうか。まあ俺の人生は何も面白くなければ良いこともない。どうせなら目の前の幽霊に殺されたほうがこの特に面白みのない人生の良い幕引きになるだろう。
「いいぜ!!どこにでも連れていけよ!!どうせ呪ったり色々やましいことするんだろ!!」
「しませんよ!何変なこといってんですか!そんなことする人に見えますか!?」
「ーーーまあ、、、、そうだな」
…………確かにそういう外見ではない。少し冷静になって彼女をみると、髪は貞子を彷彿とさせるような長いサラサラした黒髪そして頭には白いナフキンのようなもの、服は白い袴で視覚的に恐怖を与える要素は揃ってはいるが、貞子と違い顔ははっきりみえているし、のほほんとした顔だちなので恐怖という感情は一切湧いてこない、むしろ好印象だ。もしかしたら無害なのか?
「まぁ近場の公園にでも行きますか!」
彼女はにっこりしながらそういった。俺はただただ流れるままに従った。
今の時刻は午後17時30分ぐらい。良い子はおうちに帰る時間帯だ。そんな中人気のないベンチにポツンと2人の影がうつる。場所は駅から歩いて5分ぐらいの小さな公園。昼間は子供がちらほらと遊んでいるがこの時間帯はすっからかんだ。
俺と彼女はそこのベンチで座っていた。前には誰も乗ってない小規模な遊具。後ろには防犯用の緑色の鉄柵が張られており、その周りに木々が細々と立ち並んでいる。そして水色のベンチの横にはまたまた何気にありがたい自販機が置いてある。夕方、自分たち以外誰もいない公園、そして隣には女の子。告白にはうってつけだろう。まぁ、するつもりもなければ、会ってまもないし何より彼女は生きていないが
「さて、なにから話しましょうか……」
うでをくみウ~ンと思案している彼女はホントに幽霊かと疑いたくなるような人間臭さだった。思案の末に彼女はポツリとニッコリ笑って俺に頼み事をする。
「私を成仏してくれませんか?」
――――――――は?
そして俺と彼女との短くて、もっとも色濃い夏が始まるのであった。