25話
次の日は天気予報通りの晴れ。カーテンを開けると燦々と太陽が照りつき、眩しくて目を細めた。
(マジで帽子いるかもな、まだ5月だっていうのに暑そうだ)
時刻は8時、普段より少しだけ早く起きた。休みの日は基本的に9時近くまで寝て、起きて飯を食ってパソコンをいじったりゲームしたりと、自堕落な生活を送っている悠希だが今日は違う。
複数人と出かけるという、隠キャからしたら緊張してしまいそうなイベントを控えている。そのうち2人は最近まで碌に話したことのない女子、そしてもう1人は自分が常にべったりとくっ付いている幼馴染にきっぱりと振られた、没交渉だった幼馴染。
気まずさしかない面子だ、本当にどうしてこうなったのだ。考えてみても分からない。なんなら少し寝不足である。
行きたくないのなら、適当な理由を付けて断って仕舞えばいい。悠希はただでさえ他の人より体調を崩しやすい。昨日の今日で、あからさまに怪しまれるかもしれないが使えない手ではない。
今までの悠希なら躊躇うことなく仮病を使って、逃げられるなら逃げていた。けれど、今は違う。
別に秋山と薫がどうなろうと悠希には関係ないし、興味もない。悠希は、少しでも違う自分になりたいのだ。フリとはいえ朱里の彼氏になったのだ、一々嫌なことから逃げていては駄目だと思っている。
この先あまり親しくない、気まずい相手との付き合いは避けられない。仲の良い友人とだけ付き合っていける、わけがない。
朱里はいつまでも自分の近くにいてくれない。そのうち好きな人とやらと成就するかもしれないし、遠方の大学に進学したり、海外に行くこともあるだろう。彼女に頼り切って、ぬるま湯に浸かり続けると悠希は堕落するだけだ。
もっと、積極的に周囲と関わらないといけないと思い始めていた。その第一歩だ。
下に降りて台所に向かうと山田さんから驚かれた。
「坊ちゃん、休みの日なのに早いですね」
早いといっても8時、祖母はとっくに朝食を済ませ部屋でゆったりと寛いでいるだろう。こんなことを言われるとは、普段の悠希の自堕落さが分かるというものだ。
「今日は出かけるからね、準備しないと」
「そうなのですか、今日は5月にしては気温が高いらしいので体調にはお気をつけください」
「分かってるよ」
隣の居間に移動し悠希が席につくと、山田さんがテキパキと朝食の準備をしてくれる。祖母も山田さんも悠希の予定について根掘り葉掘り聞いてこない。中学生までは門限も厳しかったし、誰と何処に出かけるのか伝える必要があった。高校生になって、干渉しすぎるのもどうかと色々と緩和されたのだ。
祖母からしたら家に篭ってゲームするより、外出してくれた方が健康的で安心するようだ。だから何も聞いてこない、好きにさせるスタンス。
その方が良い。心配してくれるのは分かるが正直息が詰まっていた。尚更必要以上に干渉しない朱里を逃げ場所にしていた節があったので、これを改めていく必要がある。
朝食を食べ、食器を洗うまでの間悠希はそんなことを考えていた。
部屋に戻った悠希は着ていく服を適当に決めていく。クローゼットを開け、箪笥の引き出しを開け目についた服を手に取っていく。
悠希は服にこだわりはなく、新しいものを買う頻度も低い。買うものもTシャツが殆どで色もモノトーンばかり。今日も着慣れたロゴ入りのTシャツとジーパンを着ていく予定だ。
ふと、頭に不安がよぎった。
(確実に秋山は気合いいれるだろうし、山崎も服には気を遣ってそうだ。薫もなんだかんだセンスが良いし…)
きっちりオシャレに決めてる男女の中に混じる、コンビニ帰りと思われる服装の男。悪目立ちすること間違いなし。想像しただけで背中に悪寒が走る。嘲笑の目を向けられるのは慣れているとはいえ、避けられるのなら避けたい。
悠希は買ったっきり(朱里と買い物に行った際似合うからと言われて買った)Tシャツと藍色のシャツ、デニムを取り出す。マネキン一式をそのまま買ったからセンスはいい、と思う。
そうこうしてるうちに9時を回ってしまった。東駅までは15分ほど電車に揺られてるうちに着くが、早めに行って買い物でもするか。悠希は愛用の黒いキャップと、財布やら必要なものを詰め込んだショルダーバックを肩にかけ、部屋を出た。




