表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/4

一話 絶望の始まり


※一話前半はこれからのための前振りです。後半の方から本編が始まります!


二話はすぐに投稿します。三、四話は今日(8/5)の夜、十時ごろを予定しております。


それは、ある国の話。


その国はある一体の鬼の存在によって脅かされていた。鬼とは人間の風貌とはほとんど変わらい。少し背丈大きいくらい。しかし、大きく違うのは、鬼は人を主食にしていることだ。他にも、額から二本の角が生えていることと、寿命が二百年近くあること、雄や雌といった性別は存在せず、一人でも子を作ることが出来る。圧倒的戦闘能力を有しており、人とでは足元にも届かないほど。更に、子供とは別に、体の一部を分裂させ鬼の遣いと呼ばれる手下を作ることが出来る。鬼の遣いは生殖能力はなく、食事もとらない、寿命も十年程度、常時、三十体近くいてこちらも戦闘能力が高い。


だから、人は一か月に一度、鬼に巣に向かって生贄を差し出す。鬼は食料が足りなくならないと人を襲わないからだ。自分の国を守るため。


ただ苦渋だけを飲まされていた国にある神託が下った。


『この国に双子が生まれ、その二人は鬼の脅威からこの国を救う』


ただちに、国王は国中にいる双子を宿している女性を捜索させ、その双子を発見した。それは、貧乏な家族だった。すぐさま、王は父母共に王宮で保護した。双子は希望の光だと崇められ、双子とその親は王と同等ほど裕福に、大切に育てられた。


そして、子は育ち、スキルが授けられる二十歳になろうとしていた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

コンコン、


ドアのノック音で俺は目を覚ました。


「アイン様、朝食の用意が出来ました」


従者がドアの外から声を掛けてくる。


「あぁ、分かった。すぐ行くよ」


俺は体を起こしてそう答えた。


「朝食後はスキル鑑定の儀式について王から説明があるそうです」


従者はそう俺に伝えると次の仕事に向かったようだ。


ついにこの日が来たのか……。いざ、他人に言われると実感が湧いてきて、胸が高鳴りだした。今日の昼には町の中心でスキル鑑定の儀式を執り行うのだ。そこで、鬼を倒すスキルノ詳細が明かされる。


俺は今日、歴史を大きく変革させることになる。


窓は締め切っているのに賑やかに騒いでいる声が聞こえる。皆この日をもう二十年、待ち焦がれていたのだ。まるで、今日が祭りのように盛り上がっている。


一体どれだけ凄いスキルが授けられるのかと楽しみで仕方なかった。なにせ、今まで、どんなスキルを授けられたものでさえ、鬼には太刀打ちできなかった。それほどまでに鬼は圧倒的に強い。その鬼を打ち倒すのなど、俺が想像出来ないようなスキルなのだろう。


気づくと、頭の中には黄色い歓声を受ける俺と、国中が俺の名を叫ぶ映像が流れていて、笑いが零れてしまう。


その後、身支度を整え、城の廊下を食堂の方へ歩いていく。すると、自然に胸を張って、一歩一歩、大きく踏み出していた。


ギッ

丁度、俺が目の前を通ったタイミングで双子の妹、サリーの部屋のドアが開く。


「あっ、兄様。おはようございます」


双子だが先に生まれた俺が兄ということになっている。サリーがペコリと頭を下げる。少しして、後ろからサリーの未来の夫カルビンが顔を覗かせ、慌てて頭を下げた。


「あぁ、アイン様。おはようございます」


サリーとカルビンはこの鬼の脅威に終止符を打つと結婚するという話になっているらしい。しかし、最近ではいつも一緒にいて、こっちにしてみればもう結婚しているという認識だ。


「おはよう」


「ついにこの日が来ましたね」


カルビンが興奮した面持ちで言う。


「あぁ、期待してくれ」


俺はカルビンの肩にポンと手を置く。すると、サリーは驚いたように目を大きく開けて、


「兄様はすごいですね。私なんて緊張して昨日寝れなかったのに」


確かに、サリーの目の下にはくっきりと隈があって、表情もどこか心もとなさげだ。


「何を怖がるんだ? 今日は歴史が変わる日だぞ。素晴らしい日じゃないか」


そうおどけた様子で言うと、サリーの表情にも幾分か元気が戻ったようで、強張りが少し取れた。


サリーに元気が戻ったところで、三人で食堂に向かう。


「やぁ、おはよう」


食堂に着くと父と母はもう席に座っていて、サリー同様、どこか落ち着きのなさのようなものが表情に漂っていた。


「……ついにこの日が来ましたね」


そう緊張した口ぶりの母。


「大丈夫ですよ。任せてください。絶対に鬼を打ち倒して見せます」


そう自信ありげに返答すると、母は余りにも分かりやすく感動したような瞳を俺に向ける。


「こんな頼りがいのある子に育つなんて、私は心から誇らしい」


「こんなに素晴らしい子に育ったのも本当に王、国民の方々のおかげだな……」


と、父がしみじみと呟く。


あぁ、またこの話か……。


そう思うとすぐに、いつも通り母と父は、王と国民にどれだけ助けてもらったかなど、事細かに話始める。今日食べるご飯ですらままならないほど貧困だった父と母は、もう感謝しきれないほど優遇してもらった、命を助けてもらったと毎日話すのだ。だから、是非この国を救ってほしいと……。


俺はこの話はとっくの昔に飽きていた。子供のころから殆ど毎日聞かされるのだ。それに、この国をいずれ救うのだ。優遇される、命を懸けて守るのは当たり前じゃないか……。最近ではそんなことも思っている。


俺とサリー神に選ばれたのだ。しかし、俺とは対照的にサリーは毎度、感動したように聞き入っている。本当にサリーは真面目だな。


そのまま話は半分程度に聞いておいて、朝食をさっさと食べ終えると、サリーと俺はスキル鑑定の儀式の段取りを確認するため、王の間に向かった。


「おお、アイン、サリー、よく来てくれた。入れ入れ」


王の間の扉をノックすると、すぐに王は答えてくれた。俺とサリーはすぐさま入り跪いて、頭を下げる。


「よいよい。頭を上げよ」


頭を上げると、王は俺とサリーの顔を交互に見ると、


「この日をどれほど待ち焦がれたことか……」


そうしみじみと呟く。


「必ず期待に応えて見せます」


俺がそう返すと、王は「ホホッ、心強い限りじゃ」そう孫に向けるような笑顔を浮かべる。


その後は、儀式の段取りを王の従者に説明された。とは言っても確認程度で、説明を終えても儀式までの時間はまだあった。ということで一旦解散になる。


「はぁ~。また緊張してきました」


王の間を後にすると、また緊張し始めたサリーはそそくさと自分の部屋に戻っていく。


どうやって時間を潰そうか……? 広場に行っていつものように国民の黄色い歓声を受けるもいいが……。自然と俺の足は城の一階に向かう。そこには従者達の部屋がまとめられている寮のような場所がある。デルマは休憩時間のはずだ。


目的の部屋についた俺はドアをノックする。


「はい!」


耳障りよく体に溶け込んでくるような優しい声がドアの向こう側から聞こえてくる。


「僕だ。アインだ」


そう答えると慌てたようにバタバタと音を立て、ドアを開ける。


「あぁ、アイン様。用事があれば私から出向きますのに」


普段でも大きくぱっちりとした瞳をしているのに、その瞳をさらに大きく開けたデルマが顔を覗かせる。


「いや、いいよ。すぐに終わる」


わざとここでタメを作って、「あの約束は覚えているよね」と尋ねた。すぐにデルマの頬は紅潮し、目を逸らす。少ししてゆっくりとコクンと頷いた。


「うん。それだけ確認したかっただけだから」


安堵して早くなった口調で別れを告げ、自分の部屋に戻る。ドアを閉じると俺はガッツポーズをした。


よしっ、ようやくこの時が来た。


デルマには数年前から交際を申し込んでいるのだが、デルマは小心者で自分なんかがいずれ国を救う人となんていいのか、となかなか首を縦に振ってくれなかった。


何度もアタックするうちに、向こうも折れて鬼を打ち倒した暁には付き合ってくれと約束を取り付けたのだ。


全てが上手くいっている。


町に出れば、通る人全員から羨望の目で見られ、何一つ不満はない。


本当に俺は神に愛され過ぎている。この時までこの言葉を疑うことすらしたことがなかった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「ついにこの日が来た。もう私達は鬼に怯える必要は無くなる。大切な人が鬼に奪われることもなくなる。皆、今までよく耐えてくれた」


王は国民に語りかけるように言った。それに歓声を上げる者や、大切な人を思い出しすすり泣く者など。


ここは、町の中心にある広い円形の広場だ。下は石畳で、その端に一段高い木製のステージがある、今、そこに数十メートルもの大きな水晶が浮いていて、その前で王が話している。それを周りに円になって国民が並んでいるという状況だ。


この水晶は携帯型の小さな水晶に話しかければ拡声器にも使え、更に、水晶周りの景色を映して相手の水晶に映しあうこともできる。


「では、その歴史の変革者となる双子。アイン、サリー前へ」


前に出ると、国民は「アイーン!」「サリー!」と口々に俺達の名前を叫ぶ。それに慣れた調子で大きく手を振る俺と、少し硬い様子で手を小さく振るサリー。


「いつも通り、盛り上げてもらってもいいかの?」


王は俺に耳打ちをしてきて、携帯型水晶を俺の目の前に持ってくる。言われなくてもそのつもりだ。俺は大きく息を吸い叫んだ。


「俺とサリーが必ずこの国から鬼の脅威を取り除いてみせる!」


一気にボルテージが上がる広場。うねりを上げるような歓声が起こり、思わず耳を抑えたくなる。それに向かって俺は腕を高く上げ答える。最高の気分だ。


王は横に寄ると同時に目配せし、当初の予定通り俺とサリーが振り返るように指示してくる。緊張で固くなり、すっかり予定を忘れているサリーの背を押し、振り返る。同時にゆっくりと王が腕を上げた。一気に声が鎮まる。


「では、鑑定を始めてくれ」


俺とサリーの目の前に来た鑑定士は、手のひらを俺とサリーに向け、何やら呟いている。時間にして一分程度のことだった。鑑定士は手を下した。


ここで鑑定士が俺とサリーのスキルを発表する予定だった。もう俺とサリーのスキルは分かってるはずだった。しかし、鑑定士は目を大きく開けるだけで、何も言わない。それどころか目を右往左往させ、何か戸惑っている様子。


「何をしている? 鑑定結果は出なかったのか?」


王は尋ねる。


「いえ、出たことは出たのですが……」


なぜかあたふたとしている鑑定士。王は耐えかねた様子で少し不機嫌になって、


「ではすぐに申せ」


「は、はい……」


鑑定士は狼狽した様子を隠さずに、俺とサリーのスキルを言った。


「兄アイン、自分を年老いらせることが出来る。そして、自分が老いた同じ年数分、対象者を老いさせることが出来る」


「妹サリー、自らの死をもって残りの寿命を他人に委託することが出来る。同時にその授与者は寿命を遂げるまでいかなる攻撃も受け付けない結界を張る」


………………えっ? はっ……?


俺だけじゃない。そこにいる誰もがそのスキルを理解するのに時間を要した。余りにもスキルが予想していた物のどれともかけ離れていた。誰しもがそう思ったはずだ。その証拠に今日一番の熱狂を見せるはずだった場は凍ったように静まり返っている。


どういうことだ? 自ら寿命を老いらせる? 寿命を委託? 俺が思っていたのはもっとかっこいい攻撃的なスキルで……。こんなのでどうやって倒せる? はっ?


そんな混乱していた頭だが、ほどなくしてその意味を理解する。


鬼は一生に一度だけ子供を産む。しかし、例外があり鬼は120歳以上になると子供を産めなくなる。つい数年前鬼は子供を産んだ。つまり、サリーが死に、俺が受けとった分の寿命を含めて、子供の鬼を対象者にして全ての寿命を使い切ると……つまり死ぬと、子供の鬼は子供を産めなくなる。親の鬼ももう子供は産めない。いずれ鬼の脅威はなくなるということか……。


そこまで理解したのに、俺は理解が追い付かなかった。


はっえっ? 待ってくれ……俺は死なないといけ……ない? 何か間違いじゃないか?


でも、どれだけ考えてもこれしか思いつかなくて……。


なんだよそれ……。そんなの……。


鬼の脅威をただ間接的に取り除く。そのために俺とサリーは死なないといけない……。


何かのつまらない嘘じゃないのか? あり得ない。神に愛されてるのに……。こんな中途半端な死に方って……。せめて鬼を打ち倒して俺も死ぬならまだしも……。こんな意味が分からなくて、地味な終わらせ方って……。


流石に何かの間違いだ。あり得ない。そうに違いない。それか悪い夢じゃないか……。


そう自分を納得させようとするも、隣を見るとサリーは悲壮な顔でこちらを見ていて、その表情は嫌というほどこれが間違いでも夢でもないという実感を強めてくる……。


「はぁ、はぁ、はぁ」


実感が強くなると共に、体中の生気が地面に吸われたように、力が落ちていく感覚。さらに、肺が空気以外のもので満たされて、息をどれだけ吸っても息苦しく、脂汗が止まらない。体が石膏のように固まって、俺は、ぎこちなく辺りを見渡す。


それは救いを求めてのものだった。皆、俺とサリーのように動揺していて、どうすればいいかわからないようになってると思っていたのだ。誰かと意見を交わしたい。それで安心感を得ようと思って。


だが、真逆だった。


誰も声は発していない。動揺した様子の人はいない。かと言ってこのスキルとその先にある意味を理解していない様子ではない。なのに、誰とも目が合わなかった。子供だけが意味が分からないように辺りを伺っているだけで。大人は誰一人として目が合わない。でも、瞳の奥ではギラリと鈍く光るものを宿しているのが分かる。


俺の死の期待。それを自分が伝えたくないから視線を逸らしている。


背筋に冷たいものが走った。


ここに居る1万人近くの国民全員から死んで欲しいと思われていて、それを空気感で押し付けられている。心臓がゆっくりと掴まれている感覚、目の前の景色がおぼつかなくなってくる。


縋るように母親と父親の方を見た。父と母は笑い損ねたような表情をしていた。駄目だ。まだ現状を把握しきれていないようだ。何やってんだよ。


そのまま、俺は王を見た。望みを持って……。ずっと王は自分の息子のように接してくれた。だから、死んで欲しくないと思ってくれているはずだと……。


しかし、王と視線が合って、王の中ではすでに結論は出ていて、しかもそれが一番して欲しくない決断だということが伝わってきた。王は息をハァっと吐き、踵を返し元居た場所に戻り始める。


「ま、ま、ま、ま、まっ」


次に王が何かを言えば、それで俺の死が決定されるように感じて、固まりきった腕を王の背中へ伸ばす。必死に呼び止めようと思ったが、舌が絡まって言葉が出てこない。視界に入った腕は自分の腕かと思うほど震えていて……。


ドサッ、


後ろから鈍い音が聞こえる。見ると顔が真っ青になったサリーが倒れていた。それを見た瞬間、自分の中で張りつめていたものがパチンと切れた気がした。


目の前がいろんな色に変わって、最後は一面、真っ白になって………………………………。


最後まで読んでいただき、ありがとうございましたm(__)m


(説明)話に出た水晶というのは現代で言うところの携帯電話のような使い方をしています。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ