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27 偽造人格:Forgery Personality

 高い音と鈍い音が重なった様な撃音が響き、朝比奈アサヒナの手にした光剣が、音速の弾丸を斬り払った。


 その隙に、【八臂守護戦神サラスバティ】の一基が短い光剣を発して海里カイリ目掛けて飛ぶ。

 更にそれを目くらましにして、一基を咲耶サクヤの陰に、もう一基を【位置情報迷彩カクレミノ】を使って、倒れているマキシに向かわせた。


――ギィィィンッ!


 案の定、海里カイリに目掛けて飛んだドローンは“何か”に真っ二つに裂かれて墜ちた。

 一方、背後の咲耶サクヤに取り付いたドローンと、【位置情報迷彩カクレミノ】を使ったドローンは何事もなく、大回りに飛んでマキシまで辿り着いた。


「さっきの蜘蛛男も飛び掛かったらバラバラだったンだっけかな。さぁて……どういうカラクリを使ってンだ?」

『光学でも【探針ソナー】でも補足できないから、【上泉カミイズミ】じゃ防げないわよ』

「得物の正体すら分からンしな」

『破壊状況からは何か刃物の類……反応速度から考えて、管制には【上泉カミイズミ】みたいなスマートガン・システムを流用していると思う』

「企業の重役は妙なガジェット使ってンな。カドクラの新製品か?」


 そう口走った朝比奈アサヒナに、海里カイリが返事をする。


「それは私のセリフよ……貴方の使っているそれは、ウチが開発中の自動迎撃管制(スマートドーム)システムよりも出来が良さそう。作ったのはアナタのバックアップをやっている情報屋トランジスタ? ぜひスカウトしたいところね」

「すまねえが、トバ組(ウチ)の組長なんでな、フリーエージェントのトレード見たくはいかンのよ」


 海里と軽口の応酬をしながら、朝比奈アサヒナ弁天ベンテンの解析を待っていた。

 とりあえず門倉カドクラ海里カイリに用はない。咲耶サクヤとマキシを叩き起こしてさっさと逃げる。

 それが朝比奈アサヒナの関心事だった。


「――弁天ベンテン姐さん、どうにか陣笠の旦那を起こせないか?」

咲耶サクヤくんも、マキシちゃんも今やってる、なんとか時間を稼いでカオル

「それは残念ね。ところで……」


 ドローンが咲耶サクヤとマキシに取り付き、解析している間、朝比奈アサヒナは口八丁で時間を稼ぐ。

 バレバレな手ではあったが、その前に海里カイリはそれに乗ってきた。

 解せないが、朝比奈アサヒナには他に手もない。


「ところで……なンだい?」

「その光剣ドス……本当にただの光剣ドス?」


 海里カイリがクスクスと笑う。


「どした。何が可笑しい?」

「いえ……思っていた以上に【此花咲耶フラワードリフト】の浸食の速度が速いみたいで、安心していたところよ。さすがは咲耶サクヤだわ。優秀な子……」

「それはどういう……」


 そう言いかけると、あのカタカタという、古いコンソールを叩く音が、チキチキという小さな金属パーツが組み上がる音が、朝比奈アサヒナの耳に聞こえてきた。


「おいおいおい……」


 見れば朝比奈アサヒナの手から、背骨のような黄金の骨の触手が何本も生えて、長光剣(ナガ・ドス)の柄に絡みついていた。


 光剣ドスは剣とはいうものの、正式名称は殺傷光線剣ダメージング・オプティカル・セイバーで、理屈としては粒子端末グリッターダストをプラズマ化して放出するバーナーだ。

 自動防御アプリである【上泉カミイズミ】の仕様上、鉛玉を弾くのに刀身に防壁《ICE》を流し、またマキシの薦めで、斬撃時は防壁破り(パルバライザー)を流したりして特性を変えてはいるが、基本的に実体剣ではない。


 だが、朝比奈アサヒナの手から生える黄金の骨に絡みつかれた長光剣(ナガ・ドス)の光刃は、プラズマの密度を増し、センサ・ネットの蒼いバーナーから、白く空間を塗りつぶしたような、白色に蒼い電離層を纏う具現化した刃と化していた。

 流し込まれた防壁《ICE》のデータが、白刃の中でダマスク模様のような複雑な文様を描いてうねっている。


「……なンだこれは。弁天ベンテン姐さんか?」

『そんなわけないでしょ……これは……』

「バックアップの情報屋トランジスタ。聞こえているなら粒子制御デーモンデバイスから、その男のパーソナル・データと記憶痕跡エングラムを自己診断に掛けてみるといい」


 海里カイリが再び、電磁加速レールハンドガンを下ろして促してみせる。

 一方、朝比奈アサヒナは白く、高出力なプラズマを纏ったまま具現化現象マクスウェル・エフェクトを起こしている長光剣ナガ・ドスを構えなおす。


「やってくれ」

『次から次へと、忙しいわね』


 一基のドローンが朝比奈アサヒナ粒子制御デーモンデバイスに接続し、自己診断ソフトによる解析を開始する。


 沈黙の時間が流れた。


 その間にも【此花咲耶フラワードリフト】の枝葉がチキチキと伸び、放電のように広がっていく。そして触れたものすべてを凍結し、周囲の気温は氷点下を下回っていた。


『パーソナル、記憶痕跡エングラム、ストレージやメモリにも異常はないわ』

「問題ないらしいぞ」

「過去の自己診断レポートと照らし合わせてみなさい、面白いものが見つかるわ」

『データ照合、比較――これは……?』

「なンだ? どした?」

『……過去のカオルのパーソナルと比較すると、何か……増えている?』

「……社長さんよ、なンか俺のデータが増えてるらしいぞ。どういうこった?」


 構えた自分の手から、光剣ドスの柄に伸びる黄金の骨格を一瞥して聞く。

 得体がしれないものが、自分の中に増えていると聞かされて、さすがの朝比奈アサヒナも肝が冷えた。


「その増えた分が一つ目の黄金の骨(ヴァーテックス)……デーモンの卵よ。パーソナル・データと記憶痕跡エングラムを苗床にして成長する。何が生まれるかは誰にも分からない……だが、それが完全に成長すると自由意思を持つ。そこの――」


 海里カイリは左手を上げて、【此花咲耶フラワードリフト】に半ば飲み込まれつつある咲耶サクヤを指さした。


「――咲耶サクヤのようにね」


 朝比奈アサヒナはギョッとして、咲耶サクヤを振り返った。


「……陣笠の旦那が、デーモンだとでも?」


 朝比奈アサヒナが軽口を叩くと、海里カイリは愉しそうに笑う。

 だが、その表情は笑っていたが、どこか悲しそうな気配を隠していた。


「ああ……咲耶サクヤは私のパーソナルと記憶痕跡エングラムをコピーした戦闘義体ウォーフレームに、神耶カミヤケイの脳標本から生み出されるデーモンの卵を埋め込んだことで発生した偽造人格だ――」


 そこまで言って、海里カイリすこし躊躇ってから、言葉を続けた。


「――鹿賀カガ咲耶サクヤは、人間ではない」


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