15 カーチェイス:Car Chase
マキシが電磁加速ハンドガンで、戦闘ドローンを撃ち落とすのを横目に、朝比奈は携帯タブレット端末を窓から出して、後方の車を撮影する。
「企業工作員には見えンな」
一般車両を挟んで後方に三台、箱乗りしてサブマシンガンを担ぎだしている。
乗っている車両も企業の使うような継ぎ目のない綺麗な装甲面ではなく、リベットで後付けした現地改修の風情をしている。
どうやら同業のようだ。
『首都高を根城にしているチーム・ラグーンって組ね』
朝比奈の送った画像から、解析をした弁天の幽霊が答える。
「俺と同じクライアントから依頼を受けた口か」
『そのクライアント、ずっとマキシちゃんの位置を追跡していることになるわね。さっき粒子制御デバイスと接続した時は、特に怪しいチップやアプリは見当たらなかったけど……』
「サイボーグの嬢ちゃん!」
「え、何? ボク? 戦闘中は名前で呼んで、紛らわしい」
丁度、二機目の戦闘ドローンを撃ち落とすところだった。
再び、ドローンが爆発し、炎と煙の華が咲く。爆発に煽られた一般車両がハンドルを切り損ねて、防音壁に激突していた。
「わかったよ。それでマキシの嬢ちゃん、お前さん、ずっと追跡されてる臭いが、なンか心当たりはあるか?」
「スピンドルへの位置情報送信は切ってあるし、追跡アプリを仕掛けられた痕跡もないかな? ――おっと!」
ドローンが悉く撃ち落とされたのに痺れを切らして、箱乗りした連中が撃ち始めたらしい。
逃げる涼風のマキノ・ロードビーストは約五十メートルの車間を維持していて、そうそう当たる距離でもないが、運のいい至近弾が装甲で跳弾してマキシの鼻先を掠めた。
「追跡はされてない……か」
『それは間違いないわよ。私も調べたもの』
そう聞いて、朝比奈はおもむろに【探針】を対物レイヤー・モードにし、マキシに照射する。
「なるほどな」
一人納得して、朝比奈は掌に【防壁破り】を展開すると、マキシの尻を撫でた。
「きゃッ! ちょっと朝比奈、キミね!」
「こんな切羽詰まってる時に、サイテーっスね朝比奈サン」
『何やってるのよ薫』
三者三様に攻め立てられる。黙っているとまた多関節ブレードを振り回されかねないので、さっさと“追跡者”の正体を見せた。
「まてまてまて、落ち着けお前ら。こいつだよ、追跡の正体は。マキシの嬢ちゃんがやったンと同じ手だ。光学迷彩して、嬢ちゃんの尻に張り付いてやがったンだよ」
朝比奈の赤い文字列の纏う手には、黄金の骨格と氷の外皮を持つ蜘蛛が握られていた。ガシャガシャともがくたびに、握られた手の【防壁破り】で、表面の氷が融解している。
「一体どこで付けられた?」
マキシが一瞬呆けた隙に、三機目の戦闘ドローンが、チェーンガンの射程にこちらの車を捉えた。
アスファルトを散らしながら掃射された銃弾が迫る。
銃撃の車線上に居た一般車が、巻き込まれて蜂の巣にされるのが見えた。
「マキシさん!」
狙いを絞らせないために、ハンドルを切ってロードビーストを蛇行させながら涼風が叫んだ。
――キィンッ!
揺れる車上でも、マキシの銃は正確にドローンを撃ち抜く。だが蛇行した減速に合わせて、今度はチーム・ラグーンの三台が一気に寄せてきた。
サブマシンガンの射程に入ったのか、乱射された銃弾がマキノ・ロードビーストの装甲を跳弾。火花が散る。
「こんな連中に時間食ってる暇もねえ。涼風、車を寄せな」
――バキンッ! と金属質な音を立てて、蜘蛛のデーモンAIを握り潰しながら、朝比奈はそう指示を出した。
『ちょっと本気なの薫。私のガジェットを使ったら?』
「弁天姐さんのアレは奥の手だかンな。こんな雑魚には要らねえよ」
金髪をかき上げ、サングラスを掛けなおす。
察した涼風は、それを合図に減速、ハンドルを切ってチーム・ラグーンの先頭車に一気に寄せた。
「今っス」
「いい腕だ」
扉を開け放ち、トレンチコートを舞わせながら朝比奈が飛ぶ。
長光剣をボンネットに突き刺し、制動。そのまま膝立ちで着地した。
「てめえ、長光剣の朝比奈ァッ!」
サブマシンガンを振り回して、助手席の男が叫ぶ。
そいつが銃口をこちらに向けるよりも早く、光刃が横一線に走り、運転手もろともに撫で斬り。
「人のこと、ダッセエあだ名で呼ぶンじゃないよ」
横に裂かれたフロントガラスが、男二人分の胸から噴き出した血飛沫で染まる。
朝比奈はそれに目もくれず、一歩踏み出して、走る車の天井に器用に立って、後部座席を一突き。
ドローンを操作していたと思しき、情報屋の頭を串刺しにした。
「嬢ちゃんの言う通り、光剣に【防壁破り】を仕掛けたら、随分と切れ味が良くなったな」
『粒子制御デバイスの領域配分はその分難しいわよ』
「まあ、慣れりゃ、なんとかなンよ」
運転手を失った車が、よたよたとガードレールに高速道路の壁に突っ込むよりも早く、朝比奈は脚に【身体強化】を仕掛けて、後方の二台目に飛ぶ。
「あれは、朝比奈さん、あのまま巧いことトンズラするつもりっスね」
「なんですって?」
涼風がそんなことを言っている。
正解だ。
「てめえ、朝比奈、コノヤロウッ!」
天井を開けて身を乗り出し、着地を狙って構えられたサブマシンガンを構えた男。それを着地前に腕ごと斬り飛ばした。
そのまま、車の天井もろとも、運転手を十文字にブツ斬り。
今日の長光剣は、振ったところが線を引いたように斬れる。良いコツの話を聞いたと、朝比奈は感心しきりだ。
「このまま三台目を始末したら、後は涼風に任せて、今日の仕事は終いにしよう。一通り戦闘屋として、ヤるこたヤったんだからバチはあたらンだろ」
『そう巧く行くかしらね』
「そうは言っても弁天姐さんよ……マキシの嬢ちゃんな、ありゃ、付き合ってたら命がいくらあっても足りねえタイプなンよ」
そう言って再び、強化した脚で三台目に飛び移ろうとした瞬間――キィンッ! という例の音と、光線のような弾道が奔る。
そいつがエンジンブロックを貫通すると、チーム・ラグーンの三台目はフロントバンパーを巨人に蹴り上げられたように吹き飛び、後続の一般車でバウンド、そこから更に道で跳ねた後、高速道路の下へと消えていった。
「おいおい……無茶しやがって」
朝比奈が足場にしている車は、とうに運転手を斬り倒しているから、すぐにでも壁に激突しそうだ。
ぶつかったところで、大昔のガソリン車のように爆発炎上はしないが、巧いこと飛び降りないと【身体強化】していても大怪我は免れない。
そんなことを考えていると、今度は――シャアッ! とワイヤーの擦れる音がして、首根っこを引っ掴まれた。
朝比奈の身体が宙を舞い、あっという間にマキノ・ロードビーストの車上に引き戻される。
「逃がさないよ、朝比奈さん」
「嬢ちゃんに比べれば、俺なんざ頭数にも入らンだろう……」
「デーモンAIを使う魔術師が居るのは間違いないんだから、戦力は大いに越したことはないの。それに……アナタ、強いでしょう」
「滅相もねえンよ」
結局、首根っこを引っ掴まれ、力なく車内に引きずりこまれた。
逃げるのを諦めて、髪を整えるのにサングラスを外した朝比奈の目の端に、山の方へ飛ぶエア・ビークルが映る。
「戦闘屋の癖に逃げ足が速いって、ホントだったのね」
「弁天の姐さんに聞いたか? そんな事より嬢ちゃん、アレじゃねえンか?」
サングラスを掛けなおし、HUD越しにエア・ビークルを見る朝比奈は、ソレを指さしながら言った。
映像と位置情報はすでに弁天に送信済だ。
「弁天さんはなんて?」
『当りよ。アルテミス・ワークス社のエア・ビークル』
「当たりだそうだ」
「涼風さん、あのエア・ビークルを追って」
「了解っスよ」
巻き添えの車両の残骸と死体があちこちに散らばる大惨事のカーチェイス会場を置き去りに、涼風のマキノ・ロードビーストは唸りを上げて加速した。




