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草地、切る、物差し

 草地に物差しを当てる。

「何をやっているんです?」

「いや、草地の広さを知りたくて」

「マス目を数えたほうが早いのでは?」

「いや、この草地斜めなんだもん」

 何をやっているか、といえば、ボードゲームだ。

 それも、サークルの先輩の手作りである。

 ちなみに、ぼくとはなさんも手伝っている。

 今は、テストプレイの真っ最中、というところ。

 ルールは単純。

 お金を払って土地を買い、建物を建てる。

 たくさん建物を建てた人が勝ち。

 お金はルーレットとサイコロで発生するイベントによって稼ぐ。

 買った土地や建物を他のプレイヤーに売って、お金にすることもできる。

 土地のシートの上には、始める前にそれぞれのプレイヤーが書いた好き勝手な地形がある。

 土地のシートは一応マス目はあるものの、適当に書いたから、その線は歪んでいる。

 ただ、土地ごとに、価格が違う。

 そして、広さに応じて、お金はかかる。

 だから、正確な広さを測る、というのは、大事だ。

「・・・・・・誰だよう。こんな曲がりくねった土地書いたの・・・・・・」

「そこ、サンが書いたところですが?」

「む・・・・・・」

 なんだかんだと楽しいのは、これが結局自作のボードゲームだからかもしれない。

 ぶっちゃけ、土地が足りなくなったら継ぎ足してもいい。

 その際に、何かしらのルールを追加するのも自由。

「あ。百万円ゲット」

「いいですね」

「およ? ケガをした。治療費として三百万円もらう・・・・・・? 何があったの?」

「当たり屋、ですかね・・・・・・」

「いやいや、そんな非合法はないはずだよ? このゲーム」

「わたし、そこの土地買って、建物を建てます」

「・・・・・・あ、彼女に権利書を持ち逃げされた。建物を一つ失う・・・・・・」

「サン! 彼女いたんですか・・・・・・?」

「いや、これバグでしょ。これまでのイベントに彼女作るとかそんなのなかったよ・・・・・・」

「あー」

「彼女に貢いだ。サイコロを振り、出た目、かける、百万円を失う。・・・・・・さっき逃げられてなかった?」

「何人、彼女いるんでしょうねえ?」

「というか、財産持ち逃げされて貢ぐって、懲りろよ。プレイヤー」

「どれだけ女好きなんでしょう」

「恋人なんて、大事な人が一人いればいいでしょ。ねえ、はなさん」

「わたしもそう思います。大事な人が一人だけいれば、他はいりません」

「・・・・・・そこはかとなくニュアンスが怖いけど、それはさておき」

 二人で会話しながら、土地のシートに線を引いて、建物を建てていく。

「・・・・・・なんていうか、こういう自作のボードゲームってやったことなかったけど、楽しいね」

「そうですね。意外と考えますし」

「テレビゲームだとさ、なんだかんだルールが確定しているから」

「なるほど。自由な楽しさはありますね」

 はなさんと二人、シートに土地を書いては、売り買いして建物を建てていく。

 ちなみに、建物については、なんでもいいルールになっている。

 さっきは、紙コップに『タワー』と書いて置いておいた。

 でもはなさん、その上に『はな』と書いた旗を立てるのはなしだよ。そこ、ぼくのタワーなのに。

「ではこうしましょう」

 はなさんは、紙コップの口を合わせてテープで止めると、『先進的なデザインのビル』と書いて置き、その上に『サン』と書いた旗を立てた。

「ほうら。サン、プレゼントですよー?」

「わあ、すごーい・・・・・・」

 正直、何やってんだか、とは思うものの、それからは二人して互いの名前のついた建物を作ったり、好きな範囲を区切って領地を占有したりと好き放題だ。

 やがて、机の上のシートいっぱいに建物が乱立して、

「・・・・・・はなさん。どの建物にも『サン』か『はな』って書いた旗が立ってる・・・・・・」

「わたしたちの街ですねえ・・・・・・」

 そこはかとなく、はなさんが満足気だ。

「・・・・・・これで、実はそれぞれ、自分の建物には自分の名前の旗が立ってないとか、意味が分からなさすぎる」

「なんか、不思議な感じになりましたね」

 くすくすと笑い合う。

「自分で作った街をプレゼント、なんちゃって」

「なんちゃって、じゃないよ。はなさん」

 机の上を占領するゲームシートは、それぞれのプレイヤーの色で塗分けられて、二色の色があちこちに散らばっている。

「混沌としてるなあ。もうちょっと整理すればよかった」

「そうですねえ。というか、二人だったから、二色で、ちょっと色が寂しいですね」

「あれだね。離れた土地も買えるシステムだからだね。・・・・・・自分の土地に隣接してないと買えない、とかにしないとばらばらになっちゃう」

「確かに。・・・・・・適当に作ったルールとはいえ、結構穴もありますね」

「イベントの種類がやたらと女に貢いで逃げられまくるのは、先輩の趣味だろうか」

「あの先輩、何かあったんでしょうか・・・・・・」

 感想を言い合いながらも、片づけていく。

 互いの建物を集めて、数を数える。

「・・・・・・僕の方が、少し多い、かな?」

「そうですね。三つほど、サンの方が多いですから。今回はサンの勝ちでしょうか」

「このゲームの勝利にいかほどの価値があるかはともかく」

 一通り片づけて、はなさんとお茶をする。

「・・・・・・こういう遊びも、たまにはいいねえ」

「このゲーム、極論するとサイコロだけあればできるから、それはそれでいいですよね」

「地味だけどね」

「淡々としてますよね」

 RTSみたいな、じっくりと取り組むゲームが好きなら、あるいは、といったレベルだが、

「素人くさいから、あんまり売れなさそう」

「まあ、売り物にすることは考えてなさそうですが」

 はなさんが、部室の棚から小さな箱を持ってきた。

「ゲームというなら、こっちの方が手軽な気もします」

「トランプ?」

「ババ抜きしますか?」

「二人で? ポーカーにしようよ」

「いいですよ?」

 はなさんが、にこりと笑った。


 一回も勝てなかった。

 唯一、カードの切り方がうまいですね、と褒められたことだけ覚えておこう。

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