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晴れ、師匠、店舗

 晴れの日はよい。

 風がよいとなおよい。

 こういう日、木陰の多い公園で、ぼんやりとするのはたまにある。

 本なんか読んでもいいのだが、何もしないのもありだ。

 前にはなさんと一緒にそういう休日を過ごしたときは、はなさんはぼくを日向ぼっこしてる猫みたい、などと言っていたが。

「いい天気」

 ぼくが住んでいるアパートから徒歩で二十分ほどのところに、その公園はある。 

 芝生が多くて、休日には親子が遊びに来ていたり、犬の散歩にくるご老人がいたりと、それなりににぎやかな公園だ。

 たまに入り口付近にワゴンの屋台があったりして、小腹が空いたときにはありがたい。

 ちょっと遠くに目をやると、大きめのデパートがあり、反対側の出口に向かうと、商店街の入り口がある。

 アパートの近所にも食料品や雑貨を売っているスーパーはあるが、ぼくはあえてこの辺りまで出てきて買い物をする方が好きだ。

 なんでもあるし、何でもあるから、見ていて楽しい。

 特に、何もない暇な天気のいい日。

 公園で日向ぼっこをした後に、商店街で買い食いをして帰るのが、密かにマイブームになっている。

 あるいは、デパートで冷やかしをしてもいい。

 そういう日、よくはなさんだったら、何を喜ぶかなあ、と考えてしまうあたり、ぼくもだいぶんはなさんと仲良くなったと思う。

 まだ、出会って一年経っていないというのに、昔からの大親友みたいだ。

「・・・・・・あ」

 ふと、以前、はなさんと、何もしない日、という話をしたのを思い出した。


+++


「何もしない日?」

「ええ。普段、いろいろやっているでしょう? 勉強だったり、家事だったり、趣味だったり」

 休日、と言っても、やることはたくさんある。

 特にぼくは一人暮らしだから、自分で用意しないとごはんは出てこない。

「わたしもそう変わりませんよ。大学生になってからは、母もわたしにごはん作らせるようになりましたし」

「そうなの?」

「ええ。一人暮らしの練習、とかで。・・・・・・今のところ、その予定ないんですけどねえ」

 はなさんは苦笑している。

 どうやら、はなさんのお母さんが、楽をするための言い訳、と思っているようだ。

「実家暮らしだと、ごはん勝手に出てくると思うけどなあ・・・・・・」

「基本的にはそうですよ? でも、その分家事の手伝いも多いですから」

「・・・・・・ぼくは、全部一人でやるけど?」

「・・・・・・今度、お手伝いしましょうか?」

「わ、ありがとう!」

 へへへ、と笑いかけると、はなさんはしかたないなあ、と微笑を浮かべる。

「まあ、とにかくですね。普通に暮らしていると、何もしないで一日を過ごす、なんてありえないわけです」

「そうだね?」

「で、わたしは何もしない日を作るんですよ」

「へえ?」

「まあ、半年に一回くらい、ですけどね?」

「どんな日なの?」

「何もしません」

「うん」

「具体的に言うと、目が覚めるまで寝て、おなかが空いたら食べて、眠くなったら寝ます」

「え?」

 どういうことだ、と思う。

 何もしないというか、

「えっと?」

「前日にね? すぐ食べられるものと、すぐ飲めるものを用意しておきます。で、寝ます」

「うん」

「目覚ましはセットしません。目が覚めても、起きたくないなあ、と思ったらそのまま二度寝します」

「・・・・・・うん」

「起きても、何もしません」

「え? 顔洗ったりとかは?」

「しません。気にならなくなります」

「ええ?」

「寝ぐせも直しません。寝巻も着替えません。カーテンも開けません。部屋も出ません。スマホは電源を切っておきます」

「う、うん」

「ただ、ひたすらにぼー、とします」

「お、おう?」

「それで、時間が過ぎていくと、あ、なんかしなきゃ、という気分になります」

「あー。それは分かる、かも?」

「で、寝ます」

「え?!」

「何かしなきゃ、と思うんだから、寝てしまおう、というわけです」

「何が、というわけなの?」

「まあまあ。聞いてください。そうすると、ほぼ一日中寝ているわけです」

「うん」

「動かないでいると、ほぼおなかは空きません。なので、食べない日も多いです」

「ああ、まあ、なるほど?」

「それでも空いたら食べます。と言っても、虫歯になると嫌なので、甘くないものが中心ですが」

「歯は磨かないの?」

「虫歯になるのは嫌なので、さすがにそれはします。ただ、水だけ飲んでれば、別に歯磨きもいらないと思いますが」

「徹底してるなあ・・・・・・」

「で、一日が過ぎると、眠る前に思うわけです」

「何を?」

「なんて無駄な一日の使い方なのか、と」

「えー・・・・・・」

 それはあんまりでは、と思うが、

「そうすると、翌日目覚めた後、昨日の無駄を取り返さなくては、といろいろテンションが上がってくるんです」

「テンションが」

「上がってきます。まあ、要はリセットですよ」

 わかるような、分からんような・・・・・・。


+++


 はなさんも変わったことしてるなあ、と思うのだが、なんでそんなことを思うのか、と言えば、実は今日、はなさんはまさしくその何もしない日を実践しているはずだからだ。

 昨日の夜に連絡が来て、明日は何もしない日なので、電話をかけても出られません。出られませんからね? と来ていた。

 実はフリなのでは、と思わなくもないが、連絡はしないでおこうと思う。

「さて、ぼくはどうしようかな・・・・・・」

 もう一時間くらいここにいたし、十分に晴れの日は堪能した。

 少し小腹も空いてきたし、どこかでおやつを食べて帰ろうかな、と思う。

 明日になれば、きっとはなさんから連絡来るし。

 そう考えながら、立ち上がる。

 商店街かな、と思い、そちらの出口を足を進めると、入り口に屋台がある。

 甘いものの日もあるが、今日はどうやらがっつりした肉串だ。

「・・・・・・むう」

 においはよい。

 でも、ちょっと違う。

 さらに進む。

 商店街の中には、よいパン屋さんがある。

 焼きたてパンはとてもおいしい。

 はなさんからすすめてもらったお店で、店舗の中に席も用意されていて、喫茶店のようでもある。

 定番のメロンパンから、日替わりの少し変わり種のパンまで、結構おいしくて好きだ。

 店に入る。

 トレーとトングを手に取って、店内をまわる。

「・・・・・・む」

 焼きたて、メロンパン。

「これしかないではないか」

 一つ取って、レジへ。

 コーヒーを入れてもらい、席に向かう。

「・・・・・・あむ」

 あまい。おいしい。

「・・・・・・ずず」

 にがい。おいしい。

「ふむ?」

 ふと思い立って、かじったメロンパンと飲みかけのコーヒーを並べて写真を取る。

「タイトルは・・・・・・」

 思いついたタイトルを入れてみる。

「何もしないより、したいことをすればいいじゃない」


 数分後、『師匠!』という言葉と、土下座するスタンプが送られてきた。

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