はじめに/出会い
はなさんと出会ったのは、春の始まりだった。
大学の入学式の翌日だ。
初めての日だった。
小学校の入学式のとき。
おそれはなく、すぐに友達ができた。
中学校の入学式のとき。
小学校のころからの友達がいて、新しい友達もすぐに作っていけた。
高校の入学式のとき。
同じ中学から進学してきた友達がいて、寂しいことなんてなかった。
だけれど、大学は違った。
同じ高校からの進学者はいない。
地元からは離れているため、入学式に出席した親も、入学式が終わって昨日帰ってしまった。
そして、一人だった。
大学のゲート前に一人だった。
周囲はサークルへの勧誘の声が響き渡り、春のあたたかな空気に乗って、ざわついていた。
平静を保っているつもりでも、きっと周りからはきょろきょろと挙動不審に見えたろう。
そんな時だった。
「どうしたのですか?」
丁寧な口調ながら、ほんわりした声だった。
振り向いた先に、はなさんはいた。
「あ・・・・・・」
「・・・・・・?」
漏らした声に、はなさんは少し首を傾げ、続けて聞いてきた。
「新入生ですか?」
「・・・・・・うん」
かろうじての頷きに、にへ、と笑みは深くなった。
「だったらわたしと同じですね」
えへへ、と笑いながら、こちらに寄ってきた。
「わたしも、お友達がいなくて、寂しくて。・・・・・・一緒に行ってもいいですか?」
そう言って、はなさんは膝に手を当ててこちらを覗き込んできた。
見上げながら覗き込んできた目は、優しい色だった。
「・・・・・・え、と、いいよ?」
いいよ、じゃない。
こちらこそお願いします、だろ。
そんな内心の焦りなんか、気づかないのか、気づかないふりなのか。
「よかった」
身を起こしたその姿は、こちらより少しだけ、背が高い。
でも見下ろされている気はしない。
なんだか、ほっとして。
「よろしく」
自然と、手を差し出していた。
+++
そのあと、二人でいろいろ回って、サークルを決めた。
サークルの先輩がいろいろすごい人で圧倒されたり。
その先輩に負けないはなさんの圧にびびったり。
ただ、二人で受ける講義を相談しあったりしているうちに、ぼく達はとても仲良くなったと思う。
不思議だった。
今までのどんな友達より、短い時間で仲良くなったような気がする。
穏やかに丁寧語で話すかと思いきや、結構過激な性質のはなさんのこととか。
はなさんがぼくのことを、見た目に反して真面目系ですね、と評したり。
対になっているようで、結構いいコンビみたいよ、と先輩に言われたり。
それが、はなさんの人柄によるものか。
あるいは、ただぼくと波長が合っただけなのか。
とにかく、ぼくは思うのだ。
きっとはなさんとは、一生の付き合いになるって。
+++
「・・・・・・どうかしました?」
はなさんが首をかしげる。
「何でもないよ」
首を振る。
ただ、
「・・・・・・よかったなって」
「うん?」
「なんでもない」
はなさんと同じ年の入学で、よかった。
はなさんと友達になれて、よかった。
「今日は、どこ行こうか」
「そうですねえ・・・・・・」
そうやって考えるはなさんの目は、あの時と同じくらいに温かかった。
三題噺みたいだが、3つのお題を使うだけでオチがないので、三題噺とはとても呼べない。
拙い作品を書くと思いますが、読んでくださるとうれしいです。