序章、森の中に。
「はぁ、はぁ、はぁ、」
荒い息とバタバタという足音がうす暗い洞窟の中に響いていく。それの後に続いてくる音はドスドスというべきであろう、重い音であった。
「絶対に逃がさぁぁぁぁん!!」
重い音の持ち主である盗賊は、自らの財宝に手を出した愚かな少女から、宝物を取り返さんと必死に追いかける。
「うわ!やば!追い付かれちゃう!」
少女はこの鬼ごっこから逃れるべく、更に速度をあげるための言葉を口にする。
「ダテイン!」
一言それを発すると彼女の体が緑色の光に包まれ、その瞬間風のように洞窟をかけていき、眩しい光に目を細めた。
「まさか!あいつアマテとかいう魔女か!?」
盗賊の驚愕の声が聴こえてきたのは、もう遠くからであった。
「ふぅ、これでよし!」
「これであいつのお宝は私のものに…!」
喜びもつかの間少女は今、自分の立っている場所に気づき青ざめる。
「ここ魔の森じゃん…」
「魔の森」それはこの周辺においては、誰も立ち入らない鬱蒼としていて危険な森である。
急いで逃げようとするも、先程、術を使った反動から意識が遠退き、世界がぼやけていって…
「こんな所に若いお嬢さんがくるとは珍しい。ん?良く見ると傷だらけじゃないか。仕方ない。一旦連れて帰るか…」
男はそう呟きながら、森の中にある一軒の時計屋に連れていった。