9話 「東の王国へ」
村に連れ帰ったルべリアオオカミはその後、怪我の手当てをして、順調に回復していった。
たった数日で走り回れるようになり、今では村人やアビゴル達と連携をして、狩りを行える程にまで回復した。
ルべリアオオカミが獲物を目標の位置まで誘導をして、そこで待機していたアビゴル達が仕留める。
うん、実に効率的だ。
ちなみに犬を使った狩りは、今から三万年も前から行われていたらしい。日本でも縄文時代の頃には既にあったって噂だ。……諸説ありだけど。
魔物でもあるルべリアオオカミは、視覚や聴覚にも優れている上に戦闘能力も高い。
正に、ハウンドと猟犬の良さを兼ね備えたハイブリットと言える。
因みに、名前は「胡麻」
名前の由来? それは……俺が無類の柴犬好きだからさ!
柴犬には「赤柴」、「黒柴」、「白柴」、「胡麻柴」の四種類がいる。
そして、このルべリアオオカミの毛色は「胡麻柴」のそれなのだ!
っと、いけない。好きな事となるとつい、語り癖が出てしまうんだ。
話を戻そう。
『こらっ、おもち!! 畑の人参食べちゃダメでしょ!!』
『ぷぅ??』
この悪びれもしない表情をしながら、畑を荒らしてタマナに怒られているのは、ライオンラビットの「おもち」だ。
村に連れ帰って食材にしてやろうと考えていたのだが、「可哀そう!」とタマナに猛反対されてしまった。
なので、ペットとして飼う事にしたのだ。
「おもち」って名前は、俺がこの見た目から付けた名だ。ほら、白くて丸い、お餅っぽいだろう?
……だが、おもちよ。
通常ウサギは、その糖分の高さから自然界では人参を食べないらしいのだが……。
そうか。お前も絵本のウサギか、ペット寄りのウサギ体質をしているのだな。
俺は暫く、この村に滞在している。
村が心配で、もう少し見守りたいっていうのと、「是非この村で暮らさないか」と言う、村の人達の好意があったからだ。
「このまま田舎暮らしでのんびり」ってのも悪くない話だが、俺はユミを探さなくてはならない。
俺の考えている予定では、人がより集まる「東の王国」に行って、そこで店を構える。
俺が出来る事と、より集客を集める必要がある事。
って考えると、やっぱ「飲食店」が現実的だろう。
人が集まれば、ユミが店を訪れる可能性は高くなる。
加えて、現代食を提供すれば、俺が異世界から来た人間だってアピールも出来るだろう。
その為には先ず、東の王国に行く必要があるのだ。
幸い、村にはアビゴル達がいる。それに、胡麻とおもちも。
今の村に「攻め込もう」なんて考える輩はいないだろう。……いや、おもちは役に立たないか。
と言う事で、俺は「東の王国に行きたい」と、アビゴルに相談をする事にした。
『事情は解ったが、東の王国ねぇ……』
「俺が異世界からやって来た」と言う部分は伏せて、人を探している事と、その為に王国で店を開きたいという事をアビゴル説明したのだが、どうも浮かない顔をしている。
「何か問題があるのか?」と言う俺の問いに、アビゴルはこう答えた。
『王国の近くまでは一緒に行ってやれるんだがよう、街には結界が張ってあって、俺ら悪魔族は中に入る事が出来ねぇんだ』
そう言えば忘れていた。この人達、悪魔なんだったわ。
王国の周辺には、対魔物用の結界が張られていて、並みの魔物でも突破はできないそうだ。
魔王との戦いで人間達が長きにわたり、戦い続ける事が出来た要因の1つが、この結界である。
あれ? 俺、アビゴルから押し付けられた、魔人エリゴスの能力持ってるんだけど、それで街の結界に引っかかるとか……ないよな?
俺の疑問に『それはないだろう』と答えるアビゴル。だが、言葉の最後に小声で「多分……」と言った事を俺は聞き逃さなかった。
もし、街に入れなかったら、こいつを捻る。
「じゃあ、街の近くまでで良いから、一緒に来てくれないかな?」
『おう、それなら大丈夫だ!』
と、話が纏まった時だった。
『わたしも一緒に行く!!!』
バンッと扉が開き、タマナがこちらに駆け寄ってきた。
どうやら家の外で俺とアビゴルの話を聞いていたらしい。
彼女は、意思を固めたような眼差しで、俺の目を見てハッキリと言った。
『お姉ちゃんが行くなら、わたしも行く!絶対に、行く!!』
これは困った。大変困った。
普通なら「危ないから」とか、「カンランが心配するから」などと言って、彼女を諭して諦めさせるべきなのだろう。
だが、俺は知っている。
ここでタマナをどう諭しても、彼女は俺に付いて来る。
馬車の積み荷の中に隠れたり、アビゴルの背中にしがみ付いて隠れたり、村の外で待ち伏せしたり。
俺がここでどう対処をしたら、どういう結果になるか。
その全てを俺のスキル、「予見」が教えてくれた。
「予見」でどうシュミレーションをしても、「タマナが俺に付いて来る」という結果になってしまうのだ。
確定された未来を予知できるスキルではないのだが、意地でもそうさせてしまう。
そんなタマナのガッツを、スキルにより、俺は一瞬で理解出来てしまった。
「うん……。もし、カンランが「良い」って言ってくれたら、一緒に街に行こう」
『えっ? 大丈夫なのかい、嬢ちゃん?!』
俺の二つ返事に、流石のアビゴルも驚いた様子を見せた。
大丈夫な訳がない。だが、俺に一瞬で諦めさせたのは、お前が俺に押し付けたスキルのお陰だ、バカやろう。もう一回漢字で言ってやる。馬鹿野郎。
俺の返事を聞いたタマナは、嬉しそうにカンランの元へと向かって行った。
カンランさんの返事はと言うと、「お嬢さんやアビゴル殿が一緒なら、安心して任せられる。是非タマナに街を見せてやってほしい」との事。
いやぁ、抗い様のない神のお導きってのは、あるもんすねぇ……。
これで、俺はこの村に帰って来なくてはならない「用事」が出来た訳だ。
あれ、もしかして、俺が村から出て行かないようにする為か……?いや、まさかな。
フフッ、もしそういう流れを計算して言ったのなら、俺はタマナに「策士」の称号を与えよう。
カンランの許可が出て、影ながらグッ! とガッツポーズをするタマナ。
……策士なのかもしれない。
東の王国まで、徒歩なら四日。馬車なら二日かかる距離だ。
途中、馬を休ませる事を踏まえると三日はかかるだろう。
旅のメンツは俺とタマナ、それと護衛のアビゴルに、トゥゾックダンの三人も一緒だ。
今回、俺達の楽しい旅の様子は、タマナの日記を通して皆に伝えよう。
ータマナの日記ー
一日目。
わたしの名前はタマナ、六歳です。
お姉ちゃんやアビおじさん達と一緒に、東の王国に遊びに行くことになりました。
わたし、王国に行くのは初めてだから、すっごく楽しみなの!
でも、胡麻とおもちはお留守番。街には一緒に行けないんだって。
だけど寂しくないよ。だって、大好きなお姉ちゃんと一緒だもん!
楽しみだなぁ。早く王国に着かないかなぁ。
その日のお昼過ぎ。
突然、お姉ちゃんが大きな声で「バンテンだ!」と叫びました。
すると、茂みの奥から大きな牛さんが出て来たの。
でも大丈夫! アビおじさん達すっごく強いから、大きな牛さんにも負けないの!
わたしと一緒に、アビおじさん達を見守っていたお姉ちゃんが「今夜はヤキニクだ」って喜んでいました。ヤキニクって何だろう……??
それに、お姉ちゃんはどうして、バンテンって牛さんが来るのが分かったんだろう??
晩御飯の時間だー!
今日の晩御飯はヤキニクなんだよ! お姉ちゃんが「すごく美味しいから楽しみにしてて」だって!
どんな料理なんだろう。わくわくっ!
お昼にとった牛さんを、アビおじさん達が下処理?っていうのをしてくれてる間に、わたしはお姉ちゃんのお手伝い。
「竹」っていう木を細く割って、それを網にしていくの。
今日はこれでお肉を焼くんだって。
でも、大丈夫かな? お肉と一緒に、竹も燃えちゃわないかな?
そう聞くと、お姉ちゃんはこう言ってた、
「青竹の中にある水分が、竹自身を守ってくれるから大丈夫。
それに、お肉の焼き過ぎや、ヤキニクをした時に出る、特有の煙なんかも軽減してくれるの。
青竹の香りも楽しめて、一石三鳥にも四鳥にもなるんだよ」
お姉ちゃんのお話はよく解らなかったけど、でも、お肉がすっごく美味しくなるのは解ったよ!
火は焚火じゃなくて、お姉ちゃんが村で作った「炭」って言う黒い木で火を起こしたの。
真っ黒で燃え尽きちゃった木みたいなのに、ちゃんと火が付いたんだよ。
お姉ちゃんは物知りですごいな!
「牛タンは私の物だ!」って、お姉ちゃんとアビおじさんが喧嘩してたけど、
すっごく美味しくて、すっごく楽しい晩御飯だったの!
毎日、こんなだったら良いな。
二日目。
道で倒れている人がいたの。
私が「助けなきゃ!」って思ったとき、お姉ちゃんが茂みに向かって魔法を撃ったの!
お姉ちゃんが「シィトリックアーシッドォオーー!!」って呪文を唱えると、茂みの向こうから武器を持ったおじさん達が、泣きながら出て来た!
おじさん達はすぐにアビおじさんに捕まって、道で倒れていた人はそれを見て逃げようとしたんだ。
でも、お姉ちゃんの「シトリックアシッド」にやられて、倒れちゃった。
その後話を聞いたら、このおじさん達は皆、盗賊なんだって。
お姉ちゃんはすごい!
誰よりも早く気付いて、やっつけちゃうんだもん!
キレイで、強くて、優しくって。わたし、大きくなったらお姉ちゃんみたいになるのが夢なんだっ!
今回は盗賊のおじさん達を許してあげるんだって。
「『次に会ったら殺す』」って、お姉ちゃんとアビおじさんが、盗賊のおじさん達に言ってた。
とっても優しい、タマナの自慢のお姉ちゃん!
三日目。
着いた! わたし、とうとう東の王国に来たんだよ!!
丘の上から見ると、すっごく大きいの!
街の中はどうなってるのかな!? 楽しみだなぁー!!
タマナの日記はここまでである。
そうして東の王国に到着した俺達。
外にアビゴル達を待たせて、俺とタマナの二人は街の中へと入って行った。
竹網を使った焼肉はお肉が焦げにくく、煙も少ないらしいです。
一回使い捨てになってしまいますが、とても美味なんだとか。
とあるユーチューバー夫婦がそういう商品を購入してキャンプで使っているのを拝見した事がありますが、とても便利だそうです。
「プーレイッ」