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15話 「ドMな翼竜とその主」

 街の広場では「王国騎士最強」と謳われる男、ユミルの姿があった。

 現在彼が相手をしている魔物は、魔王軍主力を担う者の一人、いや、一頭か……。

 名は、白銀の氷龍・アイスカーボンドラゴン。


 彼らの付き合いは短いようで長い。

 お互いがより強く、そしてより硬いが為に、幾度となく死闘を繰り広げたが、これまで一度も勝敗が決まることはなかった。

 そんな二人が今、王都で激しい戦いを繰り広げている。


 結界の破壊を目論む翼竜。

 その結界を守る王国騎士、ユミル。


 此度の戦いは両者にとって、とても遣り難いものだった。

 今までの戦いは両者全力でぶつかり合っていたのだが……。

 結界を破壊する為、ユミルの攻撃を搔い潜りながら教会を目指さなくてはならない翼竜。

 翼竜を教会に近付けないよう注意しながら追撃をしなくてはならないユミル。

 両者共、隔靴搔痒の思いで戦っていた。



 だが、そこに一人の女性が現れた事で状況が一変する事となる。


 ユミルの奮戦により、翼竜は思うように教会へと近付けないでいた。

 その間に、王国騎士団・魔導部隊が応援に到着。

 集団魔術防壁によって翼竜の進路を塞いだ。


 その光景に女性は安堵する処か、何故だか焦っていた。

 それは何故かーー。



 「これは、翼竜が鬱陶しくなってきてブレスで教会を破壊するパターンのやつだ!!!!」


 俺は焦った。大変焦った。

 この流れになったという事は、教会大破までもう時間の猶予がないという事だ。

 俺は急ぎユミルに要件を伝えた。


 『わかった、やってみよう!』


 ユミルも翼竜との付き合いから「いつブレスを吐いてもおかしくない」と感じていたようだ。

 決め手になる攻撃手段がなかったユミルは「可能性が少しでもあるなら」と俺の提案に乗ってくれた。


 作戦実行の為、魔術防壁を張る魔導部隊の元に向かったユミルは大きな声で叫んだ。


 『魔導部隊、防壁を解除しろ!

 第一部隊は水属性魔法(アグア)を展開、翼竜を包み込め!

 第二部隊はそれを更に包み込むように火属性魔法(フエゴ)を!

 第三・第四部隊はシールドを展開! 蜥蜴を外に逃がすな!!』


 流石は戦い慣れた熟練の騎士達だ。

 魔導部隊はユミルの命令通りに即座に対応して見せた。


 だが、ユミルの素早い攻撃を回避できる反射神経をもった翼竜だ。

 そう容易く魔導部隊の攻撃を受けてくれる筈がない。

 予見(スキル)でそれを理解していた俺は、人知れず、翼竜にとあるスキルをお見舞いしていた。


 ファシネーション(誘惑)


 魔王軍主力戦力を相手に効果の程は定かではなかったが、これで十分に足止めが出来るのは予見(シュミレーション)で解っていた。

 俺と翼竜の視線が交わったその一瞬の隙に、ファシネーションを発動させた。


 そして予定(予見)通り、その動きを止めた翼竜。

 その瞬間をユミル達が逃す筈はなかった。


 翼竜を包み込むように大規模な水属性魔法(アグア)が展開され、更にそれを包み込むように火属性魔法(フエゴ)、シールドの順に魔法が展開されていった。


 「『あぁ……こうして見たらやっぱり攻撃魔法って良いな。覚えておけば良かった……』」


 別々の場所にいた俺とユミルはその光景を見て、まるで打ち合わせをしていたかの様に、同時に同じ台詞を口にするのだった。



 皆はドライアイスを水の中に入れて遊んだ事はあるだろうか?

 水に溶け出したドライアイスが白い煙のようなものを出す筈だ。


 ドライアイスが水で溶けるなら、熱い熱湯に入れたらどうなると思う?

 そう、正解は「より早く溶ける」だ。

 更に、急速に気化するドライアイスをシールドで包んで密封したら?

 正解は、行き場の失った二酸化炭素でシールド内の気圧がどんどんと高まっていく。

 今にも割れそうな風船の様に。

 その状態で水属性魔法(アグア)火属性魔法(フエゴ)を解除して、展開しているシールドの上部に穴を開けたら?

 楽しい科学実験の結果は実地でご覧いただこう。



 『……よし、第一・第二部隊は魔法を解除!

 第三・第四部隊はシールド上部を解放しろ!』


 ユミルの合図により、シールド内の水属性魔法(アグア)火属性魔法(フエゴ)が解除され、それに続いてシールド上部に穴が開けられた。

 その瞬間ーー。


 ドオオオオーーーーン!!!!


 爆発音と共に、シールド上部に開けられた穴から上空目掛けて凄まじい勢いで白煙が吹き出した。

 それはまるで白昼に打ち上げられた花火の如く、人々はその異様な光景に目を奪われていた。



 『やったか……!?』


 白煙が治まるのを待って翼竜の生死を確認するユミル。

 空が再び落ち着きを取り戻した頃には、そこに翼竜の姿はなかった。


 その光景に街の住民や騎士達は勝利を確信して大歓声を上げる。


 その時だったーー。



 グォオオオオオオオオーーーー!!!!


 散り散りになったかと思われた白煙が集まり出し、それらは再び翼竜を形作っていった。

 翼竜は激怒したのか、身体の形成が完了するか否かの状態でけたたましい咆哮を上げる。


 『これでも駄目なのか……!!

 総員、攻撃に備えろ! 何としてでも教会を死守せよ!』



 ユミルが魔導部隊にそう指示を出した時、翼竜は思いもよらぬ行動に打って出たのだ。


 「ええ……? うっそだー!!?」


 何故だろう。

 教会を狙うとばかり思っていた翼竜は、教会でもなく、ユミルでもなく、魔導部隊でもなく……俺を狙って突っ込んで来た。


 『いかん!! ケイ! タマナ! 逃げるんだ!!』


 そう叫ぶユミルは俺から遠く離れた位置にいる。

 翼竜の速度からして、ユミルが俺を助けようとしても間に合わないだろう。

 俺は死を覚悟しつつも、せめてタマナだけは救う方法はないかと考えた。

 その時だった。


 「…………あ……れ?」


 ふと気が付くと、周囲は静まり返っていた。

 それどころか、翼竜やユミル達の動きがまるで硬直したかの様に止まっている。

 俺がどうにか救わんと抱き締めていたタマナまで。



 (主……。我が主よーー)


 突然、俺の頭の中で声が聞こえた。

 え、何? 主? どこかで誰かテレビアニメでも見てるのか?


 (我が主よーー)


 主……。執事ものかな?


 (我が主……我があ・る・じーっ! おーい!)


 五月蠅いな。執事ものならもうちょっとキャラ設定なんとかしろよな。

 何だ「あ・る・じー」って……。

 ていうか、この音声はどこから聞こえてくるんだ?


 (こちらでございます我が主! 前! 前です前!)


 前……?

 そうして言われた方向を見るが、目に映るのは口を大きく開けて、今にも俺を襲わんとしている翼竜の姿だけ。

 うん……まじまじと見ると凶悪な顔をしてるよなこの翼竜。全然可愛くない。


 (凶悪!? 申し訳ございません! 急ぎ時間を停止しました故、このような醜態を……!)


 時間……。あぁ、それで皆パントマイムみたいな恰好で止まっているのか。

 え? もしかしてさっきから「主主」って五月蠅いの、お前(翼竜)


 (然様でございます。

 まわりの小虫共が五月蠅かった為、このような形でお声掛けをしてしまった非礼をお許しください)


 えらく堅苦しい喋り方をする奴だな……。

 それで、俺に何か用でもあるのか?

 もしさっきの仕返しがしたいなら、俺だけにしてくれよな。あの作戦考えたのは俺だし。


 (なんと! 先程の攻撃の指示は貴女様が!? 流石でございます!! 

 私、長年生きてきて「ちょっとヤバいかも」と思ったのは初めてでございます。流石は我が主!! 感服いたしました!!)


 あれ、怒ってる訳じゃーないのね?

 じゃあ一体……てーか、さっきから「主」って言ってるけど……もしかして俺の事?


 (然様でございます、我が主。

 私、貴女様を一目見てビビッと感じました。この方こそが、私が真にお仕えするべき主であると!

 ですので、是非とも私を貴女様の御側に仕えさせていただきたく、お時間を頂いた次第でございます)


 いらないです。ごめんなさい。


 (ーーーーっ!!!!

 くぅっ、流石でございます我が主!! この胸を締め付けられるような感覚、生まれて初めてです!!)


 うわぁああああ、変な子だ。変な子だよぉおおおお。

 「いらない」って言ってるのにまだ俺の事「主」って呼んでるしぃいいいい。

 ……でもあれか?

 もしこの翼竜が俺の言う事を聞いてくれるようになるなら、この事態を収拾出来るって事か!

 そうなればハッピーエンドじゃん!


 「ようし解った! 今日からお前は俺の手下だ!

 だから、これ以上街や人を攻撃するのは止めるんだ。解ったか?」


 (はっ! かしこまりました、我が主!)



 これにて事件は一件落着である。

 恐らくは俺のスキル、ファシネーション(誘惑)の影響下に置かれたであろう翼竜は、新たに俺の仲間となった。


 ……いや、待って。不味いなこれ。非常に不味いな。

 全然ハッピーエンドじゃないなこれ。


 何故かって?今回の騒動を客観的に見てみよう。

 先ず、俺はこの翼竜が来るよりも先にユミル達に避難を呼び掛けた。

 そしてその後に翼竜が襲来。

 襲来した翼竜は俺を「主」と呼び、その命令に従う。


 こうやって一連の流れを文章にして見ると……俺、黒幕じゃね!!?

 街を襲う計画を立てて、それを翼竜に実行させた真犯人じゃね!!?

 いやあ不味いっしょコレは!!


 (主よ! 私、感動しております! この湧き上がる想い、どうすればよろしいでしょうか?!

 時間停止を解いて我が主をギュゥッと抱き締めてもよろしいでしょうか!? ハァッハアッ)


 我が主殺す気か!!!!


 「あのさ、一つ提案があるんだけど……。

 このまま一回「撤退した」テイでさ、飛び去ってくれない?」


 (嫌です)


 え、もう命令拒否ですか? 早くない?


 (人間如きに背を向けるなど、私のプライドが許しません。

 今回はこの街の結界を破壊する事が私の使命。

 我が主の命によりその目的は諦めますが、人間に背を向けるなど私にはできません)


 えぇ、何この子。凄い面倒くさいんですけど。


 「じゃあ、ユミルや魔導部隊にやられた振りをしてーー」


 (ああっ、我が主! 貴女様は私にどの様なプレイをご所望なのですか!!

 流石の私もどうにかなってしまいそうです!!)


 うわー、どーしよー(棒読み)

 何なのこの子、ドMなの? どうやって扱えば良いの?


 今までの人生で、気難しい変人を相手にした事がなかった俺は途方に暮れた。

 撤退は嫌、ユミル達に倒されるのも嫌……。

 こいつ、この後一体どうするつもりだったんだろうか?

 この調子で「我が主よ!」って俺の所に来てみろ。その瞬間に俺は逮捕される事になってしまう。

 かと言って、この翼竜を突っ撥ねてまた街で暴れられても困るしな……。

 どーしよ……。



 途方に暮れ、暫くその場で考え込んでいた俺は一つ……考えが浮かんだ。

 その作戦を翼竜に伝えると、彼は喜んでその作戦に乗ってくれた。


 そうして、翼竜の時間停止が解除されるーー。



 『くそっ!! このままじゃ間に合わない!! ケイが、タマナがやられてしまう……!!!!』

 『お姉ちゃんーーーー!!!!』


 俺とタマナに目掛けて飛んでくる翼竜。

 遠く離れた場所から俺達を助けようと全速力で駆けるユミル。

 誰がどう見てもそれは最悪の状況だった。


 翼竜の飛行する速度はとても早く、瞬く間に俺達の元に迫って来た。

 その距離はもう翼竜の牙が俺に届くか否か……。


 誰しもが俺達の死を確信した、その時だった。



 パアアアアーーーー……ン!!!!


 その音は、静かに街中に響き渡った。

 その光景を見ていたその場の誰しもが、「信じられない」と言った表情をしていた。

 この国で最強の騎士と謳われるユミルですら、目の前の光景を信じられずにいる。



 この日、ひとりの女性が国の歴史に残る偉業を成し遂げた。

 勇者ですら倒す事ができないでいた翼竜……その顔に、「平手打ちをした」という偉業をーー。


 ドライアイスをペットボトルなどの容器に入れて遊び、破裂して怪我をするという事故は以外に多いそうです。

 「子供が遊んでいたのを注意して、容器を取り上げた瞬間に破裂。両手に怪我をした」

 そう言った事故が起こらない為、ドライアイスの扱いには注意が必要ですね。


 関係のない話ですが、オフィスなど人が多い場所は空気中の二酸化炭素が多く、それに影響して眠気に襲われる事があるそうです。

 私は学生の頃から二酸化炭素に襲われっぱなし。

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