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13話 「とある嫁の逆転転生」

 私の名前は敷矢ユミ。

 とある田舎町で生まれ育ち、大人になって、結婚をして。

 子供はいなかったけど、夫と愛犬との暮らしは私にとって、とても幸せなものでした。


 そしてお婆ちゃんになった私は、夫よりも先に死んでしまいました。

 先に逝ってしまうのは心苦しいけども、でも私は覚えているよ。

 生前夫と交わした約束を……。


 「天国へ行ってもいつまでも夫婦で一緒にいようね」


 だから、私は待つことに決めた。

 夫が天命を全うして、私の元に来るその日までーー。



 『うっそ! 異世界に転生できるって本当!?』


 私はあの世の役所みたいな所で、受付にいたお姉さんから信じられない話を聞いた。

 このまま天国に行くか、他の異世界で生まれ変わるか、選択ができるんだって。

 これはもう行くしかないでしょ!? 異世界に!!


 こうして、私は異世界転生への道を即決したのだった。


 転生後の姿を自分で作れるなんて夢のよう!

 年齢を若くしたり肌の色を白くしたり、自分の思う理想の姿が思いのまま!

 私は神だっ!!


 私は舞い上がるテンションに身を任せ、欲望のままにアバターを作成していった。


 そんな私の隣で、同じく自分のアバター作りに熱中する一人の男の人がいた。

 後で私、その人とぶつかってしまうんだけど……。

 気さくで優しい人みたい。私が落とした書類を親切に拾い集めてくれた。



 次は能力の取得。

 私の選んだ世界はファンタジーな世界で魔法が使えるんだって。

 魔法だよ魔法!

 生前一度は夢見た「嫌いな会社の上司に魔法でドンッ」が出来ちゃう世界なんだよ!

 いや、勿論やっちゃダメだろうけど。


 魔物にやられちゃったら痛いもんねぇ……。

 そう考えるとステータスの全振りか……テレポートで好きな場所に行けるのも良いな。


 そうして色々と考えた結果、レベルアップ時にステータスが大幅に向上するスキルと、念動力、それとテレポートのスキルを選ぶことにした。

 ファンタジーっぽく格好良い魔法を習得するもの良いけど、やっぱり扱いやすさと実用性が大事。

 だからこの三つのスキルに決めた。


 それと、夫がここに来た時に私の居場所が解るようにと受付のお姉さんに伝言を預けておいた。

 これで、同じ世界でまた夫と一緒に暮らす事ができる。


 実はここに来る途中、うちの愛犬を見付けたんだけど……。

 私よりも夫によく懐いていた愛犬は、私には付いて来なかった。

 なんて子憎らしい子なのかしらっ!

 でも、私の代わりにあの人を待っててあげてね。

 また向こうの世界で会おう。


 私は愛犬にそう伝えて、一足先に異世界へと旅立った。



 異世界に到着して早々、想定外のアクシデントが起きました。

 私の姿が、男になっていたんです。


 どうしてこうなった!?

 私の選んだアバターは色白で、身長は女の子の平均身長よりもちょびっと高めの百六十二センチ。

 そこそこ可愛い顔でバストも程良くⅭカップ!

 なのにどうして……!?


 私はその日、あまりのショックに半日間もその場から動く事ができませんでした。


 どうしよう……。

 こんな姿でもし夫に会ったら、私は何て言えば良いの。

 私はボーイズラブの趣味はないから、夫婦からマブダチに格下げ?

 はぁ……。


 色々と考えては溜息をつく。

 暫くその行動を繰り返した私は一つの結論に至った。


 私達夫婦の付き合いは長く、若い子達の様にイチャイチャやラブラブをする間柄ではない。

 何て言うか、それを超えた絆のようなもの。

 決して切れることのない強い絆……それで私達夫婦は繋がっている。

 だからもし、この姿で夫と会っても大丈夫だと思う。

 あの人は受け入れてくれる。


 そう確信を持てた私は、立ち上がって前に進むことにした。



 すぐ近くには大きな街がありました。

 その街は「東の王国」と呼ばれ、沢山の人々が往来する巨大な国家です。

 私は先ず、そこで冒険者ギルドの登録を行いました。


 そしてレベル上げ。

 街の近くには弱い魔物が多いようなので、そこを狩場にしてレベルの底上げを行う事にしました。

 ギルドで剣の貸し出しをしていたので、お金のない若葉マーク冒険者には大助かりです。



 そしてレベル上げを始めてから一週間ーー。


 スキルの効果のお陰で順調に強くなっていった私は、中級者がよく利用する狩場へと活動の場を移していました。

 クエスト報酬で得たお金で自分専用の剣や装備を買い揃える事ができ、ギルドで仲良くなった人達とパーティを組んで、一緒にクエストやレベル上げを行ったり。

 私の冒険者としての人生は順調そのものでした。


 それから半年、一年と時間が過ぎていきました。



 私のスキル、レベルアップ時にステータスが大幅に向上するその能力は、ただのチートです。

 今の私の強さはギルド内に並ぶ者がおらず。

 その頑丈さはドラゴンの攻撃にも耐え、拳を突き立てれば一キロメートル以内であればその方角にある障害物は全て吹き飛んでしまいます。


 私は喜びました。

 これだけの強さがあればどんな魔物にも負ける事はない!

 夫がこの世界に来ても私が守ってあげられる!

 ふふふ、いつの世も「女は男よりも強し」なのだよ。



 そうして、更に月日が流れていきましたーー。


 この世界に来て四年くらい経った頃でしょうか。

 転生した当時の私の年齢は十六歳。

 元いた世界なら成人式を迎えている頃です。

 ……勿論、私が設定した年齢じゃないよ!? そこまで図々しくないから!


 ゴホンッ! えっと、四年で色んな出来事がありました。


 この世界の食文化は私が元いた世界とは比べ物にならなくて……。

 あ、「比べ物にならない」と言うのはダメな方にです。

 もしここに夫がいてくれたなら、今頃はもう少しマシな食生活を送れていたのかもしれない。

 私が知っている知識は精々「海水を煮詰めたら塩ができる」という事くらい。

 それだけでも随分食生活はマシになりましたが……。


 それと仲間達と調査に向かった遺跡で、たまたま魔王の配下である翼竜と遭遇しました。

 その翼竜の鱗はとても硬く、私が何度攻撃を加えても砕く事ができません。

 翼竜との戦いは長期戦となりました。

 次々と負傷していく仲間達……。

 私はともかく、このままでは仲間の命が危ない。そう思った私はテレポート(スキル)を使い、王国騎士団に援軍を要請しました。

 そして援軍を引き連れて戻った私は、何とか翼竜を撃退する事に成功。

 その武功を称えられ、私は国王から勲功伯、ナイトの称号を与えられました。


 他の仲間達は「堅苦しいのは面倒だから」と国からの報奨金だけを受け取っていました。

 ギルドを辞めて、そのお金でのんびり暮らすんだって。

 私だってそうしたいよ!


 でも私の力を知った国王は「是非とも王国騎士として魔王討伐の為に力を貸してほしい」と言ってきた。

 一国の王様に「無理ぷー」だなんて言えると思う?! 無理じゃん! 拒否権ないじゃん私!


 まあ翼竜の鱗は硬かったけど、「死ぬ!!」って程の危機感を感じた訳じゃないし。

 もしあれが魔王軍の上位戦力なのだったら、私の力でも魔王を倒せるかもしれない。

 それにもし魔王の存在が、私と夫の第二の夫婦生活の障害となる可能性があるのなら……早急に叩いておくべきなのかもしれない。

 そうして私は王国騎士になる事を決意した。


 私が王国騎士になると答えた時、国王は酷い事を言った。

 「ユミと言う名は男のナイトとしては可愛すぎる。なので今後はユミルと名乗るがいい」と。

 ぬぁにが「名乗るといい」だ! 親からもらった名前にケチを付けるとは怪しからん国王だ!



 それから二年ーー。


 何だかんだで魔王を撃ち滅ぼす事に成功した私は、これまで重ねてきた功績でその地位はナイトから伯爵まで上がっていた。


 魔王を倒した報酬として広大な領土を。

 国王から「他に望む褒美はあるか?」と聞かれた私は、冒険者としての活動を再開する許しをもらった。

 私にはやっぱり、王国騎士よりも冒険者の方が合ってると思う。

 冒険者としてクエストを受けながら、要請があれば騎士として魔王残存勢力と戦う。


 それが、今の私の生活スタイルです。



 そんなある日の事ーー。


 お腹を空かせた私は、いつもの行きつけの食堂に向かっていた。

 そして、その店の騒ぎに遭遇する。


 店に入ると一人の女性が、ここの店主であるドワーフと言い争いをしていた。

 いや……その女性の一方的に見える言葉の猛攻は「言い争い」ではないのかもしれない。

 恐らく店主のドワーフがこの女性に失礼な事を言ったのだろう。

 この店主はよく女性の反感を買っている。

 中身が女である私からしたら、いずれはこうなるだろうと思っていた。

 これで少しは反省してくれると良いのだけれど。



 私が二人に割って入るように話しかけると、店主はバツが悪そうに店の奥に引っ込んで行った。

 それまで凄い剣幕で怒っていたその女性の表情は、心なしかスッキリしている様に感じる。


 女性の顔を見た私は、そのあまりにも美しい顔立ちに見とれてしまった。


 そういう趣味はないよ!? ただ、この人が余りにも美人過ぎて……。

 同性から見た私でも見とれてしまう。

 夫にも教えてあげたいな。こんなにも綺麗な人がいたんだよ! って。

 そうだ! 夫と再会した時の為にこの人と友達になっておこう! ナイス名案私!!



 この時、私は知る由もなかった。

 彼女との出会いが私にとって運命の出会いであった事をーー。



 彼女の名前はケイという。その名前を聞いて私は驚いた。

 だって、私の夫と同じ名前だったから。

 こういう偶然ってあるんだな。


 横にいる小さな女の子はタマナと言った。

 ケイの妹なのかな……?

 「お姉ちゃん」と呼んでいるから、多分そうなんだろうな。



 スープを注文しても答えてくれない店主に代わって、ケイが私に料理を作ってくれる事になった。

 こんな美人にご飯を作ってもらえるなんて私は幸せ者だ。

 夫に会ったら自慢してやろう。


 料理を作る時のケイはとても楽しそうに見える。

 私の夫もそうだったけど、あの表情は本当に料理が好きな人の顔だ。

 とても生き生きとしている。


 そして出来上がった料理。私はそれを見て更に驚いた。


 鶏肉のガランティーヌ。

 それは、元いた世界で私が夫に頼んで作ってもらった料理だ。

 テレビで見て「どうしても食べてみたい」と思った私の我が儘で、夫が調べて作ってくれたガランティーヌ……。


 その味は、今も私の記憶に残っている「あの」ガランティーヌだった。



 気付くと私は涙を流していた。

 あの頃の懐かしい味……。

 その美味しさに感動したのは確かだけど、それよりもーー。

 

 夫に会いたい。


 今までそう思った事は何度もあったけど、こんなにも強く思った事は初めてだった。


 いけない、私の様子にケイ達が心配をしている。


 『凄く、美味しい。

 この料理をまた口にできる日が来るなんて……思わなかった』


 私は今できる精一杯の笑顔で、ケイにそう答えた。


 

 

 「もし魔法が使えるならどんな魔法が良い?」私の問いに嫁はこう答えました。


 『何でも出来る魔法!!』


 空を飛ぶとか、格好良い攻撃魔法を放つとか、そんなんじゃないのね?

 全部なのね?

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