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10話 「教会と神父」

 東の王国。

 魔王討伐の為、様々な国が集り建国した国だ。


 その街並みは、中世のヨーロッパとでも言おうか。

 水平・正方形をベースとした建物や、各所にうねりや曲線が取り入れられた建物がある。

 ルネサンス……いや、バロック建築か?

 まるで十六世紀のフランスにでも来ているかのような気分だ。

 観光地にはもってこいだな。


 長年戦争をしていただけあって、この国のセキュリティーは万全のようだ。

 街に入る為の門には魔法が施されていて、そこを通る人間を隈無くチェックしている。

 前もって登録されている個人情報と照合して、もし登録されていない人間が通れば即アウト。

 衛兵に捕まって長ーい尋問を受ける事になるのだ。


 その点、俺は転生前に個人情報の登録を済ませてあるので何の問題もない。

 タマナも生まれてすぐ、カンランが国で登録をしていたので問題なく通過する事ができた。



 普通なら、異世界に転生した主人公はまずギルドへ向かうのだろう。

 それか神のお導きのような出会いを経て、国の騎士になるとか。

 残念ながら俺はそのどちらでもない。

 私はこの国に店を構える為、下見に来たのだよ!


 本来なら飲食店を開業するにあたり、「食品衛生責任者」や「防火管理者」の資格を取得する必要がある。

 あ、因みに調理師免許はなくとも開業はできるらしい。

 他にも保健所で「食品営業許可申請」をしたり、消防署でも様々な手続きを行ったりと……。

 文字で表すならつい目を背けてしまう程、厄介な手続きが多いのだ。


 だがここは異世界。

 そんな面倒な手続きは是非ともスルーさせて頂きたいところだ。

 まぁ取り合えず、話を聞くにも役所のような所を探さねばな。


 そうして俺達は、「役所を探す」と言う名目の下、観光に励むことにしたのだ。



 やはりこの街の建築物は素晴らしい。

 特に教会だ。

 元いた世界にあった、フランスのサントシャペル教会。

 ステンドグラスが演出するその美しい造形美は「聖なる宝石箱」と呼ばれていた。

 ここの教会はそれを彷彿とさせるようだ。


 『お姉ちゃん! キレイなガラスがいっぱいだよ! すごいねー!』


 タマナもその造形美に魅了されてしまった様だ。

 実に良い趣味をしている。


 『ねえお姉ちゃん、どうしてガラスに絵が書いてあるの??』


 ステンドグラスに描かれた聖母であろう女性を見て、タマナは俺に質問を投げかけた。


 「あれはね、字の読めない人達が、聖書の教えをその目で見て解るように描かれたものなんだよ。

 そのガラスにはコバルトや酸化銅、金粉や宝石なんかが使われていて、とても高価なものなんだ」

 『へえー……!』


 俺のトリビアを聞いて関心している様子のタマナ。

 まぁそれは俺が元いた世界の事であって、この世界のステンドグラスの材質や意味は違うのかもしれないが。

 そう思った時だった。

 教会の奥から、司祭のような衣服を身にまとう一人の老人が現れた。


 『お嬢さんは色々とお詳しい様ですな』


 その老人は、にこやかな笑顔で俺達の元へと歩み寄って来る。


 彼の名はオロンジュ。

 ここの教会の司祭だそうだ。

 人の名前に突っ込みを入れる趣味はないが、オロンジュとはフランス語で「オレンジ」の意味だ。

 もし俺が彼と喧嘩をする事があるなら、「おい、このミカン野郎!」と暴言を吐く事になるだろう。

 レディとして、それは避けたいところだ。


 教会に関心をもつタマナと俺の様子を見て、オロンジュ神父は教会の歴史を教えてくれた。

 子供だったタマナには少し難しい話だったようで、気が付くと椅子の上で居眠りを初めていた。

 そんな様子を見てオロンジュ神父は優しく笑う。

 神父ってのもあるのだが、この人は本当に優しいのだろう。俺も彼と一緒にいて心が和むようだ。


 それから、気付けば一時間程経過していた。

 歴史や文化に興味があった俺は、とても有意義な時間を過ごす事ができた。



 長い時間付き合ってくれたオロンジュ神父に礼を言い、俺はタマナを起こして教会を後にすることにした。


 「すみません、お時間をとらせてしまって」


 そう謝る俺に、オロンジュ神父は「構わないですよ。またいつでも話を聞かせてあげよう」と言ってくれた。

 それと、彼には俺が教会に立ち寄った本当の理由が解っていたようだ。

 去り際に言ったオロンジュ神父の言葉ーー。


 『もう外は安全でしょう。気を付けて行きなされ、お嬢さん』


 その言葉を聞いて俺は少し驚いた。

 実はこの教会に来る前、俺とタマナの後をつける不逞の輩の影があったのだ。



 この街に入る直前から俺は、スキル「予見」を使って、身に降りかかる火の気はないかと常にアンテナを張っていた。

 異世界転生をした者は例外なく、その身に大なり小なり厄介事が降りかかって来るというのは「お決まりの事」なのだろう?

 生前、アニメ好きだった俺はそれをよく理解している。

 だから、予防線を張る事にしたのだ。


 常に、片目では予見による未来予知を。

 もし危険がありそうなら、それに係る者の情報を万能知識で探る。

 それを踏まえて、「どう動けばどう回避できるか」をシュミレーション。


 こうして、俺はここに来るまでの様々な厄介事を回避し続けていたのだ。

 まぁ……大方は俺へのナンパなのだが。


 意外と、食えない男なのかもしれないな、あの神父。



 『お姉ちゃん、お腹すいちゃった』


 グウゥーと腹の虫を鳴らしてタマナが恥ずかしそうに笑った。


 「あっはは! じゃあ、どこか美味しいご飯の食べれるお店を探そうか」


 俺の提案にタマナは元気よく「うん!」と答えた。

 さて、ではこの国のシェフの腕前の拝見といこうか!


 タマナと手を繋いだ俺は、期待を胸に飲食店を探しに向かった。

 



 

 

 フランス革命期頃、サント・シャペル教会は行政事務所として使われていたそうです。

 窓は大きな整理棚で隠されていて、その造形の美しさは皆から忘れられていたのだとか。

 勿体無い。

 勿体無いが、時代の流れに沿った有効活用でもありますね。


 因みに、オレンジとみかんは同じ柑橘属ですが違う種類の果物です。

 私は柑橘系が苦手。

 フランスの料理の味付けは、柑橘系のオンパレードデェース。

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