第4話 転移先の世界
「では、転移先の世界についての情報を教えるわ。」
「はい、お願いします。」
最初の国家安全保障会議の時から丁度1週間が経った。
女神は約束の時間通りにいきなり現れたが、もう慣れたのか誰も驚かなかった。
寝不足でそれどころでは無かった可能性もあるが。
「分かったわ。転移先の惑星の名前はミストテリアス、地球の約4倍もの大きさを誇る惑星よ。海と陸の比率は約8:2、で8つの大陸があるわ。」
「よ、4倍ですか……」
地球の海と陸の比率は7:3、地球の4倍の面積で8:2の比率はかなり海が広い事を意味していた。
「ええ、そうよ。大陸間の交流は殆ど無いから大陸によって100年ほどの技術格差があるわ。ちなみに向こうの世界は魔法や獣人、精霊まである世界よ。楽しみにしていてね。」
「「「…………」」」
もう、遂に理解出来る躊躇の範囲を超えた世界だと言う事は理解出来た。
特に科学技術省長官や文部省長官はこれからの指針や対策で頭がパンク寸前であった。
「私達も魔法が使えるんですか?」
「使えるわよ。本来日本人は魔法が使えるはずだったんだけどね、地球には魔法の素となる魔素が無いから使えないの。」
「そうですか、なら魔法に関する法律も必要ですねぇ。」
「そうだな。」
当然彼等が想像している魔法とミストテリアスの魔法は同じであったがあんな物を日本で使われた日には、治安などのいくつかの項目で目を背けたくなるような現実が発生する事は目に見えていた。
当然魔法の使用規制もしくは禁止などの制限は必須だろう、下手すれば与野党の満場一致での可決もあり得るかもしれない。
ちなみに今回の国家安全保障会議には前回と違い野党の有力議員達も数名参加していた。
そして総理はその野党の議員達を見ると暗黙の了解のように頷いていた。
「精霊もいるからね、過去にミストテリアスにあった古代文明は自然破壊をし過ぎて精霊の怒りを買って滅ぼされたわ。」
「……自然破壊ってどのくらいですか?」
「え〜と、高度経済成長期の公害が数十年間にわたって続いた感じかな?」
「…………あれが数十年間ですか。」
まさに悪夢である。
日本の公害は1年ほどでピークを超え環境対策基本法の施行と環境省の設置でほぼ収束した。
しかしその公害が数十年間続けており、進行中であったのは環境省長官も驚きを隠せなかった。
「まぁ、5000年以上前の事だから関係の無い貴方達が気にする事ないわ。」
「そうですか。」
「あぁ、伝え忘れていたわ。日本にあるウランやプルトニウムなどの放射線物質は全て消すからね。向こうの世界に放射線物質は無いからね。」
そう言った途端、何人かの大臣や議員の顔が明るくなった、原子力規制委員会の議員達である。
いくら史実の7分の1の規模とはいえ、原発の廃炉にかかるイニシャルコストは数兆円である。
その原因である核燃料が消してくれるなら建物の解体費用で済む。
更に一部の原発推進派の勢力を完全に潰せる、ウランやプルトニウムが無い世界なら諦めもつくだろう。
「そうですか、それはそれでありがたいですね。原発は全て廃炉予定ですからね。」
「そうですね、廃炉コストが大幅にダウンしたのは国交省としてありがたいです。」
日本の原発は廃炉予定だったが、これまで発電した時に出た核燃料棒の処理は各原発にある燃料プールに貯蔵したままであったのである。
最終処分場の候補地はあったが、地元自治体住民の反発などもあり進んでなかった。
さらに全ての原発が止まり増える事が無く。更に全8基と少なかった為、そこまで史実ほど重要視されていなかったのである。
「まぁ、向こうの世界は魔法のせいで技術が停滞しているからもし戦争を仕掛けられても軽く返り討ちにするだけの軍事力は日本にはあるわ、その気になれば大陸を支配できるけどね。」
「勘弁してください。向こうの世界の国家はそんなに侵略精神旺盛なんですか?」
「各大陸に1ヶ国は列強と呼ばれる国家があってね、各大陸を支配しているのよ、まぁ列強ごとに支配の仕方は違うのだけどね。植民地みたいに支配してたり、徹底的に同化政策をしている国家もあれば、軍事力を貸しているだけの国家もあるわ、大陸国家のみで同盟を組んだりね。まぁ倫理観は酷いからそれには気をつけてね。」
「転移早々戦争ふっかけられないか、これ。」
異世界転移系小説の定番である、異世界転移したらいきなり戦争ふっかけられるパターン、それが容易に想像出来た。
ここの参加者は殆どそういった系統の小説やアニメは網羅している、流石はアニメ大国日本である。
「可能性としては否定出来ないわね。まぁ大丈夫よ。彼等もどう足掻こうが日本には勝てないわ。それに日本に精霊も付いてくれるだろうしね。」
「精霊が?何故です?」
「まぁ、それは転移してからのお楽しみよ。まぁ、日本人なら魔法も使えるし、日本の技術と合わせて面白いのが見えそうね。」
「そうですか………。」
「あぁ、そうそう。向こうの世界に資源は地球とは比べ物にならないほどあるけど、全く採掘されてないから、見つけるのも苦労すると思うから、日本が転移する場所の近くに資源島を作っておくわ。これで資源が見つかるまでなんとかなるでしょう。」
そりゃそうだ、あの一大油田地帯となった中東でも300回以上のボーリング調査をしてやっと見つけたほどである。
そんな簡単に資源は見つけれるわけがない、早くても半年、下手すれば採掘するまでに数年間は待たなければならない。
「資源って、どのくらいなんですか?」
「軽く30年ほどね。30年経ったら邪魔になるから消滅させるからあまり恒久的な物は建てないようにね。」
日本の年間石油消費量は約20億バレルである、それが30年分、つまり600億バレル、イギリスの北海油田規模の油田である。
いくら石油消費量が年々減っているからとはいえ、日本の重要な資源である事には変わらない。
日本連邦国軍の兵器を動かす主要燃料も一部艦艇を除き石油由来の燃料である。
「さ、30年分ですか……ありがとうございます。」
「いいのよ。私は日本の神様だからね。正確には日本を管理している神のうちの1人だけどね。」
「何人もいるんですか?神様って。」
「ええ、日本は災害とかが多いから何人かで担当する事になったのよ。」
地球の神様は1人しか居ないのに、日本の神様は何人かいるというと異常さが分かるであろう。
しかし日本は4つのプレートの真上にあり、地震が多く火山も多く、まさに自然災害大国である。
「まぁ、今の日本なら向こうに行っても適切に対応出来るでしょう。食料も言葉も困る事は無いと思うわ。日本なら世界最強国家になるでしょうね。まぁもうちょっと兵力を増やしても良いと思うけど、国防のみなら別に大丈夫か。」
「今でも42万人の兵力が居るので特に増強する予定は有りませんが、転移して様子を見て決めます。」
日本連邦国軍の兵力は陸軍27万人、海軍8.5万人、空軍6.5万人の計42万人である。
しかし他にも警察と軍の中間組織として保安隊と呼ばれる日本版州兵が計7万5000万存在する。
日本版州兵である保安隊は災害時の応援部隊としても機能しており、保安隊で対応出来ない時には軍に災害派遣命令が下される。
保安隊の装備は警察以上軍以下であり、小銃や装甲車、ヘリコプターは保有しているが、戦車やミサイルなどは保有していない。
あくまで警察では対応出来ないテロや災害などに対応する為の組織である。
その為、管轄は防衛総省では無く、警察や海上保安庁と同じ保安省である。
「そう、まぁ国防とシーレーン防衛ならその程度で問題ないでしょうね、ただ、あの世界は今軍拡競争中よ、地球で言う1930年みたいな感じかしら、まぁ技術レベルはそんなに無いんだけどね、まぁ魔導戦艦と言う戦艦もどきならあるけどね、他にも魔導戦闘機と言う戦闘機もどきとか。」
「魔導戦闘機?それってどのくらいの速度なんですか?武装は?」
「武装は魔導機関銃と言うバルカン砲もどきよ。速度は大体音速も無い程度ね、大体時速800km/h無いかしら。貴方達が持っている戦闘機には敵わないわ。ちなみに空母もあるから気をつけてね。」
日本連邦国空軍が保有しているF-2A/BやF-15Jはもちろんの事、最新鋭機であるF-35JA/JBやF-3A/B、F-6A/Bには当然次元が違う。
最も時速800km/hも無いなら旅客機にも速度で負けると思われるが。
「まぁ、今日はこんな所ね、そろそろ時間だわ。念を押しておくけど核弾道ミサイルには気をつけてね、私も原爆が落ちた日本は見たくないから。」
そう言って女神は前回の時と同じく光の粒子となって消えていった。
今回の会議参加において女神の存在に半信半疑だった野党の議員達も信じざるを得なかった。
それほどまでに今日の出来事が衝撃的だったのである。