第26話 戦闘開始
2027.6.2 17:27JST
日本連邦国 台湾島南部海域
日本連邦国海軍第2艦隊群第2艦隊
多目的航空母艦【天城】CIC
5月中旬に台湾島沖1200kmまで侵攻してきたリフェル帝国海軍艦隊は日本連邦国海軍艦隊を察知したのか2週間程何もしてこなかった。
その為、日本連邦国軍上層部も相手の意図を図りかねず何も対処してこなかったが遂に攻撃命令が下されたのである。
その為、第2艦隊所属の航空母艦【天城】飛行甲板上では飛行要員達が忙しく艦載機であるF-6B艦上戦闘機の発艦準備を行なっていた。
F-6B艦上戦闘機はF-2戦闘機の後継として開発されたF-6多用途戦闘機の艦載機バージョンであり、区分で言うと第6世代型戦闘機となる。
F-2A/B戦闘機がF-15J/DJ戦闘機の後継としてアメリカのF-22戦闘機と同じように絶対的な制空権確保の為に開発されたのに対しF-6A/B多用途戦闘機は様々な事が出来るマルチロール機であるF-3E/Fの後継として開発されたのである。
当初はF-3戦闘機を改修して艦上戦闘機にすると言う案が浮上したが、F-3戦闘機ではステルス性能が不足しており、小型の為弾薬搭載量も少ない事により却下された。
F-3E/Fの後継の為、対空戦闘•対地戦闘•対艦戦闘と様々なミッションに対応出来るが、その分機体も大型化して、艦載機としては大きく過ぎる事が弱点だった。
しかしそのF-6多用途戦闘機の艦載機版であるF-6B艦上戦闘機を搭載する【赤城型】多目的航空母艦は機関を他国のように原子力やガスタービンではなく新開発のハイドロゲン水素タービンエンジンを搭載、その為燃料タンクを設置する必要がなくなった(燃料は水の為、海から給水する為)のである。
それによりかなりのスペースが空き大型のF-6B艦上戦闘機の搭載スペースができ、その為【赤城型】は他の同型サイズの空母に比べ艦載機スペースがかなり広くなっている。
ちなみにF-6AとF-6Bの違いは足回りの強化や着艦フックと翼を折り畳めるか否かの違いである。
そして現在発艦準備を行なっている5個飛行小隊の20機のF-6B戦闘機にはASM-4空対艦誘導弾が各2発、胴体内の格納庫に搭載されており、更に自衛用としてAIM-9X短距離空対空誘導弾各4発搭載している。
「司令、第1次攻撃隊の発艦準備が完了しました。」
「そうか、【伊勢】の指示でいつでも発艦可能な態勢せよ。」
多用途ヘリ空母【伊勢】、第4艦隊群第4艦隊所属のこの艦は多用途艦であり、こういう時の指揮通信艦として機能するように設計されていた。
その為、現在の【伊勢】には艦載機であるF-35JBは搭載せず(元々数機しか搭載していない)、十数機のヘリコプターが搭載されているだけであった。
「了解しました。」
「ところで、お前は何故アイツらが2週間も動かなかったと思う?あくまで個人的見解でいい。」
そう聞いたのはリフェル帝国海軍艦隊が海保の巡視船に戦闘機6機を襲撃させて、同伴してきた【最上型】フリゲートに全機撃墜されてから艦載機の発艦は増えたが、艦隊自体は停泊し、それが今に至るまでの約2週間続いているのである。
通常、敵の目の前(リフェル帝国艦隊にしてみれば敵のいない安全地帯)に停泊し、2週間もの長さで停泊しているのが防衛総省の関係者や軍事専門家達の頭を悩ませていた。
「何故ですか?あるとすれば艦のシステムの損傷や6機の艦載機を撃墜された事に対する対策の為では。」
「まぁ、そうだろうな。だが?ここはアイツらからしたら敵陣だぞ?艦載機をあげてるとは言え、普通停泊するか?」
前世界だと絶対にあり得ない事であり、まだ関係の無い国ならまだしも戦争をしている敵国の目の前で停泊するのは有り得なかった。
前世界なら間違いなく対艦ミサイルや魚雷の格好の的で有り、直ぐさま撃沈させられていたであろう。
「となると、艦艇の推進システムの異常ですか?」
「多分な。向こうの戦艦などは重油じゃなくて魔力を動力とした機関らしいからな。俺達からしたら考えもつかないような事があるのかもしれない。」
実際にその通りで有り、艦隊の主力とも言える戦艦2隻が機関推進システムの故障により3基ある魔導推進機関のうち1基がいわゆるオーバーヒートを起こし壊れたのである。
その為、戦艦を置いていくわけにもいかずに艦隊全てが停泊して警戒していたのである。
日本連邦国政府及び防衛総省も精霊からの報告により初めてそれを知ってやっと攻撃命令を出したのである。
「そうですか。」
その時部屋の扉が開き、担当官が航空司令に報告に来た。
「航空司令、【伊勢】より18:00に第1次攻撃隊を発艦させよ。との指示が。」
「そうか、いよいよだな。敵艦隊との距離は?」
「1番近い艦で200km程で、本艦は500km程です。」
「近く無いか?」
対艦ミサイルというものがある現代海戦の感覚でいうと200kmはかなり近い。
幾ら第2次大戦レベルと言っても艦載機の行動半径は200kmを優に超える為、挑発と言っていいレベルであった。
「敵は魔導誘導弾と言うミサイル擬きを保有しているそうなので撃たせてその性能を測れとの事です。」
女神レミアスからの報告にもあった魔導誘導弾は初期のミサイルレベルの性能が有ると防衛総省は把握している為、艦艇の防空システムで撃墜可能だろうと判断していた。
「ちなみに1番近い艦艇は?」
「イージス駆逐艦【愛宕】です。付近には防空駆逐艦の【冬月】【不知火】も同伴しています。」
イージス駆逐艦【愛宕】は最新鋭のイージスシステム搭載型駆逐艦であり、基準排水量7800tと国によっては巡洋艦レベルの大きさを誇る艦艇である。
イージスシステムは元々、ソ連海軍によるミサイルの飽和攻撃を対処する為に設計された為に防空能力は世界トップクラスの実力を誇る。
防空駆逐艦の【冬月】【不知火】はイージス駆逐艦の弾道弾迎撃による防空網の穴をカバーする為に建造された高性能防空駆逐艦である。
基本的にイージスシステムは対空接近してくる飛翔物に対して探知し難いという弱点があるが、防空駆逐艦は日本が開発したFCS-3の搭載により対空接近してくる目標の迎撃を得意とする。
「ほぅ、見事なまでの対空特化戦闘艦隊だな。」
「あと、先程対潜警戒中の【羽黒】艦載機より潜水艦1隻撃沈との報告が来ました。」
現在艦艇搭載の対潜ヘリコプターであるSH-60Kは敵潜水艦撃沈の為、対潜哨戒中であった。
艦艇にとっての1番の脅威が潜水艦から発射される魚雷であった、しかし肝心の潜水艦を発見してしまえば機動力に劣る潜水艦に逃げる術は残されていない。
「そうか、敵の潜水艦ってどのくらいのレベルなんだ?」
「Uボートレベルだそうです。相当うるさいようで。」
確かにこれまで仮想敵国であるロシアや中華民国の潜水艦と日々凌ぎを削っていた海軍の潜水艦部隊や対潜哨戒部隊の彼等からすればうるさいの部類に入るであろう。
「そうか。おっ?いよいよか。」
そう言った佐賀航空司令が前部艦橋に備え付けられたカメラを通して船首部を見ると3基のリニアカタパルトに備え付けられたF-6B艦上戦闘機が次々と射出され飛び立って行った。
【赤城型】多目的空母はイギリスの【クイーン•エリザベス級】航空母艦の姉妹艦であり、基礎設計は同じな為艦橋が前部艦橋と後部艦橋に分かれていた。
前部艦橋は艦の運用、後部艦橋は航空運用と用途別に分かれていたが、艦橋の設置方向の問題からカタパルトで射出される航空機は前部艦橋上部に備え付けられているカメラを通してしか見られなかった。
「第1次攻撃隊全機発艦しました。」
するとCICの一角でレーダー担当官の1人が敵艦隊の異変を察知した。
「ん?て、敵艦隊よりミサイル発射!」
「ほう、上の考えが見事にあたったな。」
そして後に台湾沖海戦と呼ばれる戦いがこうして始まった。




