第23話 NSC国家安全保障会議
2027.5.20 15:19 JST
日本連邦国 首都東京特別区
総理官邸 危機対策センター
「防衛大臣、説明してくれ。」
その日のうちにNSC国家安全保障会議が首相官邸地下の危機対策センターで開かれ防衛総省や保安省などの主要な省庁から多数の幹部が出席していた。
既に各メディアにより台湾沖の事態は報道され、国民の大多数が今回の戦争に関して知る事となった。
国会前には4万人もの人々が集まっており、無届けであったが、集会でも抗議活動でも無い為、公安条例法は適用されてない。
ちなみにここで言う公安条例は各地方自治体の公安条例では無く、国会にて1947年に定められた公安条例法の事である。
「はっ!ではこれまでの経緯を簡単に説明致します。本日午前03:00頃哨戒中のE-767早期警戒管制機が台湾島南部海域1700km地点海上を侵攻してくる国籍不明艦隊を探知、直ぐさま近くにいた海上保安庁巡視船に警告、警告を受け巡視船は近くにいたフリゲート艦の護衛の下高雄港に帰投、その際国籍不明艦隊から発艦した戦闘機の追撃を受けフリゲート艦の対空誘導弾により6機全機を撃墜しました。」
「その後国籍不明艦隊は我が軍を察知したと考えられ、艦隊を停止し、現在台湾島南部海域1300km地点を遊弋しています。付近には第3艦隊及び第12艦隊が展開しております。」
台湾州高雄市には日本連邦国海軍高雄海軍基地があり、目の前である。
元々、高雄基地は転移前、澎湖諸島の領有を巡り非常に関係が悪化していた南中国(中華民国)に対処する為に大型艦艇では無く、フリゲートなどの中型艦艇が主に配備されていた。
「海上保安庁から報告です。第15管区海上保安本部によりますと遠洋漁船3隻の行方が分からなくなっており、捕縛されたか撃沈されたとみています。」
「なに!何故、付近海域に漁船が居るんだ!」
「リフェル帝国による明確な脅威が現れてない当時、法律上海上保安庁が可能なのは警告のみで禁止する事は不可能でした。当然その3隻の漁船にもその事については伝達済みです。」
海上保安庁は漁船に対し出航停止命令や、逮捕権を要するが、強制的に出来るのは明確な危険があった時であり、数日前までは警戒すべき海域だが、特に危険海域では無かった。
「はぁ〜。済まない、続けてくれ。」
「はい。衛星によりますとリフェル帝国は南フォロナ大陸南西部のステアート王国に侵攻し、占領しました。」
「なに?じゃあリフェル帝国は部隊を2つに分けたのか?」
敵を攻めるのに部隊を分散させるのは軍事の常識としてはあり得ない、各個撃破される可能性があるからだ。
さらに1ヶ国に侵攻するならまだしも南フォロナ大陸という北アメリカ大陸並みの巨大な大陸に侵攻したのである。
幾ら敵に舐めてかかったからと言え、防衛総省幹部としてはあり得なかった。
「そうみられています。向こう側の部隊は陸軍が多く、こちらの部隊は海軍が多く、編成に偏りがあります。明らかに我が国を意識して最初に撃破しようと考えている事が推測されます。」
「ステアート王国にはリフェル帝国はどのくらいの兵力を派遣したんだ?」
「あくまで推測になりますが、少なくても25万、多ければ30万と見られます。」
「さ、30万!?」
その言葉に官房長官は驚いた。
日本連邦国陸軍は総兵力27万名程度であり、日本連邦国陸軍の総力レベルの量が攻めてきたのである。
最も太平洋戦争時には400万名の兵力を動員していた大日本帝国だったが、少数で多大な戦果を挙げれる今日の感覚だとどうしても多く感じられる。
「近隣諸国に防衛するだけの力はあると思うか?」
「無いでしょう。ステアート帝国は砂漠地帯にある国家ですが、ステアート王国と、その他の諸国との間には広大な森林地帯があります。ステアート王国は鎖国国家と言っても多少なりとも交流はあり、軍事的にも脅威とは見られていませんでした。国境を隔てる諸国も小国ばかりです。現地時間の本日18:00より南フォロナ大陸条約機構の本部があるアースレイト連邦にて緊急会議があります。条約機構参加国は自国領土の他の軍事通行権を認めていますので他の国家から隣接諸国に対して援軍が派遣されるでしょう。当然ながら我が国も地上部隊の派遣が要請されると思われます。」
日本も加盟しているSFCTO、南フォロナ大陸条約機構は元は軍事同盟である。
加盟国軍の自国領土通行許可は勿論、装備品の共通化、弾薬の共通化などNATO以上の協力である。
最も日本は自国領土通行権などは一切許可しておらず、装備品は勿論弾薬の共通化も行なっていない。
日本からすれば圧倒的な技術格差がある諸国と軍事で共通化する事など不可能である。
日本連邦国軍で主力小銃の弾薬は5.56mm弾及び7.62mm弾であるが、南フォロナ大陸条約機構軍の共通弾薬は6.5mm弾である。
「そうか、どのくらいの時間が掛かる?空港などないだろう?」
「はい、そうですね。地上部隊ですと1週間弱掛かります。海軍の輸送艦に乗船していくと3日ほどなんですが。」
「南側航路にはリフェル帝国艦隊、北側航路は政情不安。無理だな。」
北側航路は南フォロナ大陸と北フォロナ大陸の間の大河の航路である。
川幅が数百キロになる所もある為、大型船の通行も可能だが、南側はともかく北側は政情不安定であり、下手すれば拿捕(返り討ちになるが)されるような、そんな場所を航行出来ない。
「はい、幸いにもステアート王国侵攻により多少の時間が掛かると思われますので、時間の確保は問題無いかと。」
「防衛総省は派遣部隊はどのくらいにすると考えている?」
「幸いにも我が国はこの世界では最強の軍事大国と言っていいレベルですので、2個外征師団とプラスで部隊を引き抜いても問題ないでしょう。」
外征師団は定員1万4400名のPKOやPKFなどの国外派遣専門部隊であり、装備は最新鋭の物が配備され、機甲師団並みに戦車の数も多く、2個外征師団が配置されている。
遠征旅団は海兵遠征旅団の略であり4個旅団が配置され、日本版海兵隊として定員は7700名である。
その為、海兵遠征旅団を派遣する訳にはいかなかった。
「それだけで3万の兵力になるが。」
「敵は25万〜30万の兵力になります。付近に空港なる場所が無い為、航空支援を受けるのは不可能です。突然HIMLRSなどの対地誘導弾などは最大限使用しますが、航空支援が戦闘ヘリとなりますと。まぁ一部航空機の支援は受けられますが、」
HIMLRSはアメリカが開発した対地誘導弾発射装置であり、遠距離に強烈な火力を投射する事ができる。
史実陸上自衛隊では1世代旧式のMLRSを99両導入したが、日本連邦国陸軍ではHIMLRSを182両導入し、史実日本が批准したクラスター爆弾禁止条約にも批准してない為、クラスター爆弾を採用している。
「普段通りの力は出せんか。で?どの部隊を引き抜くんだ?」
「特定の基幹部隊では無く各師•旅団から満遍なく引き抜き、約3万の兵力を派遣しようと考えています。ちなみにステアート王国とは隣接していませんが、テスタ王国及びフィラント共和国にはジェット機対応の空港が存在します。」
外務省のその言葉に空軍の幹部達が強く反応した。
「なに?空港があるのか?」
「はい。我が国のゼネコンが建設を終えたばかりの空港でして、両空港共に再来月の開業予定でした。その二つにならば3個飛行隊ほどの戦力を配置出来ます。ただ、元々MRJ-200型などの中型旅客機が就航する予定でしたので、最寄りの飛行場から飛び立っても5000kmほどの距離が離れていますので、輸送機でのピストン輸送となりますので、多少の時間が必要になるかと。」
国交樹立から3年が経ち、旅行なども行われるようになると空港の無い場所に空港の建設の動きが高まり、南フォロナ大陸各地で空港の建設が相次いでいた。
日本が転移した為、ボーイング製やエアバス製の航空機はあるが、整備などに問題がある為、現在はMRJに一本化している。
ちなみにMRJ-100型は70人乗りの中型機であり、E-1早期警戒管制機のベースとなったMRJ-200型は航続距離が9000kmほどあり、200人乗りの比較的大型の中型機である。
「5000kmか、確かに戦闘機では厳しい距離だな。仕方がない航空支援があるのと無いのでは大きく違う。早急に準備に当たれ。」
「はい、了解しました。」
戦闘機の航続距離は3000〜4000kmな為、輸送機に数機づつ詰め込み輸送するのである。
空中給油機を使用したら可能だが、そんな事やってられない。
「大陸への派遣部隊の話はとりあえずこれで終わりだ。肝心の台湾沖の艦隊への対応はどうする?」
「現在、第3艦隊及び第12艦隊の艦艇と多数の潜水艦がいます。さらに第2艦隊、第9艦隊、第16艦隊、第18艦隊、第19艦隊を展開し、撃破します。」
海軍は艦隊群直轄の艦隊は第1艦隊から第15艦隊であるが、艦隊数は第20艦隊ある。
これはローテーションを組む為であり、領海警備などを担っている比較的小型艦艇(3000t程度)が多い。
「7個艦隊も投入するのか!?」
「7個艦隊全て合わせても28隻です。敵艦隊は戦闘艦艇のみでも40隻近くおり、その他の艦艇も含めますと60隻近くになる大艦隊です。生半可な戦力では対処できないかと。」
リフェル帝国海軍日本侵攻艦隊は空母2隻、戦艦4隻、巡洋艦8隻、駆逐艦26隻、輸送艦22隻の計62隻の超大艦隊である。
搭載魔導航空機だけでも150機程に及び、生半可な戦力をぶつけても防ぎきれず撤退する可能性が高い。
「分かった。軍事出動命令を発令する。防衛大臣、絶対に民間人に犠牲者を出すな。」
「はっ!了解しました。」
こうしてNSC国家安全保障会議は終了し、この後総理は記者会見を開き、リフェル帝国の侵攻とそれに対処する為、日本連邦国軍全軍に軍事出動命令を発令した事を正式に発表した。
こうして日本は戦後3回目、転移後初の戦争へと突入していった(対馬事件は国籍不明の武装勢力による攻撃であり、この世界に韓国という国家はない為、紛争ではなく事件として扱われた)。




