第21話 遭遇
2027.5.20
日本連邦国 台湾島沖 EEZ
第15管区海上保安本部所属【ほたか】
03:25 JST
全世界では台湾島南部海域にはフィリピンなどの国家などがあったが、この世界に転移してきて南シナ海は格段に広くなった。
台湾島南部海域を担当する海上保安庁第15管区海上保安本部は近年の中華民国との澎湖諸島近海を巡る漁業権の問題で強化されていた。
このヘリコプター搭載巡視船【ほたか】もその強化された装備の1つである。
【やましろ型】ヘリコプター搭載巡視船4番艦【ほたか】はジャパンマリンユナイテッド高雄造船所で2年前に進水したばかりの最新鋭巡視船である。
【やましろ型】巡視船は基準排水量4200t、満載排水量5700tの大型巡視船であり、76mm単装砲を1基搭載しており、また海上保安庁の巡視船としては例外的に20mmCIWSが1基搭載されており、その他にも放水銃や機関銃などが装備されている。
また艦載ヘリコプターとして装備の共通化の観点から海軍と同じSH-60Kの旧型のSH-60Jが1機搭載されている。
そして現在、【ほたか】は台湾島沖1500kmの南部海域を警戒監視として航行中であった。
「異常はないか?」
「今のところ問題有りません。現在本艦から70km地点に海軍の【最上型】フリゲートの反応があります。」
「そうか、しかし本当にリフェル軍が攻めてきたら本艦の武装じゃあ対処出来ないからな。警戒を怠るなよ?」
【ほたか】は重武装艦と呼ばれているが、それは海上保安庁の巡視船を基準とした物言いであり、元々想定している敵が違う。
海軍は敵の軍事組織を想定しており、それに準じた装備を搭載している。
しかし海上保安庁は敵というより犯罪者が想定であり、対応している敵装備は良くてもRPGなどの短距離ロケット弾やアサルトライフルであり、戦闘機や戦闘艦艇など想定していない。
その為、【ほたか】に搭載されているエリコン35mm機関砲も機能的には対空戦闘も可能だが、基本は対水上戦闘に用いられる。
「分かっています。これでも海保の中じゃあ武装は多い方なんですけどねぇ。」
「ミサイルを搭載してない時点で終わりだろ?」
「仕方がないだろ?衛星がまだ十分に数が揃ってないんだから!200km離れた地点には【日向】がいるから安心しろ。」
ヘリコプター空母【日向】は第3艦隊群第3艦隊に所属する多用途空母であり、現在は演習の名目の元台湾沖を航行していた。
常時8機のF-35JBを搭載し、軽空母としての能力は保持しているが、どちらかと言えばヘリコプターの方に重点を置いている。
「【日向型】より【大和型】がいてくれた方が安心しますね。」
「同感だな。」
【大和型】ミサイル重巡洋艦は空母機動艦隊である第1艦隊群と第2艦隊群に配備された重巡洋艦である。
155mmレールガンを2基を始めとした強力な武装を数多く搭載しており、対艦戦闘能力•対空戦闘能力•対戦戦闘能力•対地戦闘能力と全てを兼ね備えた巡洋艦である。
しかしその為、1隻辺り2000億円と言う高価格艦艇となってしまったが、アメリカの【ズムウォルト級】の5000億円に比べたらマシであろう。
「【大和型】は居ないが600km地点には【秋月】と【那智】がいる。」
「【秋月】と【那智】かぁ!【那智】の方が好みかな?」
担当官がそう言った理由はミサイル巡洋艦に備えられているAIにあった。
艦を統括するAIとそれを擬似化したホログラム、そのホログラムを公開した時には世界中から凄い反響があった。
最もAIを開発した技研(日本連邦国軍技術研究開発局)の研究開発者には間違いなくそういう意図があった事は確かだろう。
「AIより艦の能力の方を気にしろよ!どっちも同じだけどさ。」
「艦長!AWACSよりデータが届きました!」
「AWACS?なんで空軍が海保なんかに。」
AWACS(早期警戒管制機)はE-767とE-1の2種類が日本連邦国空軍は保有するが、今回は前者のE-767からの情報であった。
基本的に軍隊ではない海上保安庁は保安省の管轄であり防衛総省の管轄である空軍とは別組織である。
当然現場では情報共有を行なっているが空軍の最高機密であるAWACSから直接情報が来るのは通常あり得なかった。
「ディスプレイに表示しろ。」
「了解しました。」
そして艦橋の真ん中に設置されている大型ディスプレイに【ほたか】周辺の敵味方識別情報が表示されたのである。
それによると付近にいる味方は第3艦隊群第3艦隊の4隻とフリゲート艦3隻、同じ第15管区海上保安本部所属の巡視船4隻、その他潜水艦多数であった。
そして南側から国籍不明の艦艇数十隻が向かっているのが判明した。
「こ、これは!?マズイな。」
「マズイっすね。艦長どうしますか?」
「とりあえず第15管区海上保安本部からの指示をまて。総員起こせ!」
「はっ!」
現在時刻は夜中の午前3:30分ほど、当直以外は仮眠をとっている。
しかしそんな悠長な事を言っている暇は無かった、経った今、平時から有事へと切り替わった。
そして艦内放送により寝ている人も休息に入っている人も関係なく持ち場に戻った。
「艦長、本部よりすぐさま高雄基地に帰投せよ、との指示が。」
「AWACSより入電!国籍不明艦隊より航空機とみられる物体が発艦した模様です!真っ直ぐ此方に向かって来ています!」
そう言われディスプレイを見ると国籍不明艦隊から小さい光点が数個離れ此方に向かって来ていた。
「何!?海軍からの応援は?」
「【最上型】と40分後に合流し、一緒に基地に帰投しますが、その他の艦艇は間に合わないと。」
【最上型】フリゲートは軍艦であるが、他の駆逐艦や巡洋艦よりは遥かに武装が少なく戦艦や空母まである敵艦隊と戦闘するには荷が重かった。
一応、対空装備として127mm単装砲やSearam、VLSなどを搭載するが、その数も射程も他の艦艇に比べると見劣りした。
「進路4-4-2、速力25kt!すぐさま基地に帰投する。敵機が来るかもしれない、対空警戒!」
「はっ!」
【ほたか】は最大速力28ktまで出せるが、基本船が最大速力を出す事はまず無い。
そして【ほたか】は任務を中断し【最上】と合流する為、進路を反転母港の高雄基地に向かったのである。
2時間後
ヘリコプター搭載巡視船【ほたか】は無事フリゲート艦【最上】と合流し、台湾島南西沖1400kmの海域を2隻で航行していた。
「AWACSより入電!敵機数6、真っ直ぐ此方へと向かってきます!」
「空軍の応援は無いのか!?」
「高雄空軍基地より1400kmほど離れていますので、戦闘行動範囲外です。幸い敵機はレシプロ機だそうです。」
一番近い空軍基地は日本連邦国空軍高雄空軍基地だが、戦闘機の航続距離は3000km〜4000kmになる。
しかし戦闘機は行って戻って来なければならない。
その戦闘行動半径は1000km弱にまで下がってしまう、その為陸地から1400km離れたこの場所では空母がない限り制空権は確保出来ないのである。
「まぁ、【ほたか】にもCIWSは積んでいるか。」
「ええ、そうですね。まさか衛星網の間を突かれるとは思いませんでしたね。」
日本周辺の衛星監視網が整ってきたと言ってもこの星は地球より遥かに大きいのである。
その為、この国籍不明艦隊はその偶々衛星監視網の隙を突いて来たのである。
よって偶々偶然に海上保安庁の巡視船がそこに居た、運が悪いとしかいいようが無かった。
「偶然か?」
「間違いなく。」
「敵機群、距離90!」
「VLSハッチ1番〜6番解放。SM-2発射準備!」
SM-2は1900年代後半に開発された比較的古い個艦防空ミサイルだが、その信頼性の高さと安価さから未だに使われている対空誘導弾である。
その射程は170kmと艦対空ミサイルの中では比較的長射程を誇るが、フリゲート艦である【最上型】が最大射程で撃つ事はまず無い。
ちなみに他の主要艦艇で運用しているSM-6は370kmもの長射程を誇る。
「ハッチ1番〜6番解放、発射準備完了!」
そう担当官がパネルを操作すると艦前部にあるVLS発射筒のハッチが6個だけ空いた。
「敵機群、距離70!」
「SM-6発射!」
「発射!」
そうして左右に縦方向に12セルづつあるVLS発射筒の空いた穴から6本のミサイルが轟音と共に空へと飛び立っていった。




