第18話 対策会議
2037.4.19 07:27JST
日本連邦国 首都東京特別区
総理官邸 会議室
「では、始めよう。早速だが、忙しい皆に集まってもらったのは他でも無い、リフェル帝国に動きが見られたからだ。」
長谷部総理がそう言い会議が始まった、転移から2年が経つが転移という国難に見事打ち勝ったその実績は大きく、支持率も70%台の安定政権となっている。
今回の会議の参加者はNSC国家安全保障会議の参加者とプラス風•水の大精霊であり、女神レミアスは参加していない。
そもそも高々1ヶ国の会議に女神が参加する事自体あり得ない話であり、この事は日本政府上層部の秘密となっている。
「リフェル帝国にですか、」
「確か2年前に共和制から帝政に移行した筈ですが、早すぎませんか?」
「我等が想定していたより帝政に移行した混乱が少なかったんだろうな。もしくは共和制のトップに対しての不満かな?」
リフェル帝国が共和制から帝政に移行した事は日本政府も把握しており、そのせいでフォロナ大陸に侵攻する可能性もあると予測していた。
しかし、その予想は地球の地政学的に考えて少なくともあと5年ほどあると考えていた。
「恐らくな。防衛大臣、もしリフェル帝国が日本又は南フォロナ大陸に侵攻してきたら防衛できるのか?」
「ミストテリアスに転移してきてその後に南フォロナ大陸各国と交流し始めてから2年が経ちますが正直言って仮想敵国はリフェル帝国のみでしたので、防衛総省の意見としましては日本単独で十分防衛出来ると考えています。」
「なるほど、それなら問題ないのだが。」
いくらフォード大陸を武力で統一した国家と言えども日本との軍事力を含む技術格差は100年以上の差があった。
日本もこの世界に来て魔法の研究の為に科学技術省の配下に魔法庁を設立し、魔法の研究を進めてきたが、その結果を踏まえての発言である。
「ただ、フォロナ大陸は広大ですので、全てを防衛可能か、と言われると不可能です。南フォロナ大陸各国にはジェット機対応の飛行場が各地にあります。戦闘機の展開にも支障ありません。敵の戦闘機は第二次大戦のレシプロ機レベルであり一部ジェット戦闘機の保有情報もありますが負ける事はまず無いと想定しています。」
「海軍としてもリフェル帝国海軍の艦艇は1900年代中盤の弩級レベルです。いくら魔法で補強しているからとはいえ耐久性も弱く、射程は少し長くて70km程度で命中精度もそれなりにあります。今回は精霊と協力して撃退にあたります。しかし一部の新鋭艦艇には初期型の対艦ミサイルを搭載していると思われますが速度は遅いと考えられます。」
当時の砲ははっきり言って全く当たらないのである。
なので数十もの大砲を積んだ戦列艦や戦艦などという艦種が出来るのである。
しかし現代の場合、命中率がほぼ100%でありなおかつ射程が数百kmのミサイルと射程が30km程度しかないが費用効果に優れている小口径の砲に兵装が限定されるのである。
「もう既にリフェル帝国のものとみられる潜水艦を確認しています。隠密行動のつもりでしょうが、現場の乗員曰く海中をドラムを叩いて進んでいるようでした。だそうです。」
日本連邦国海軍の潜水艦は地球でも有数の能力を誇っていた。
アメリカに続き世界2位の潜水艦大国であり、原子力潜水艦を持たない代わりに静穏性に優れている通常型潜水艦を28隻も保有していた。
それに引き換えリフェル帝国海軍の潜水艦は見た目は第1次大戦時のドイツ海軍のUボートだが、性能はUボートに軽く及ばない。
「フォード大陸近海ならまだしもその他の海域なら潜水艦や艦艇を海の底に沈める事も可能だけど。」
「反帝国派もいるでしょうし、あまりそう言う事はしたく無いですね。」
「あの大陸はリフェル教に侵されているわよ。貴方達が思っているより国民は反発してないわ。ゼロでは無いでしょうけどね。」
「そうですか。精霊に頼りすぎるのもどうかと思いますので補助でお願いします。」
日本の為に敵を全て潰したい精霊達だったが、精霊の力に頼りすぎるのも危険と判断して協力まで下げた。
それほどまでに精霊の力は強力なのである。
普通なら精霊は人間より高位な存在、こうも力を貸してくれる事が無いのだが、日本の精霊は特別であった。
ちなみに日本の政府上層部はその事を知らない、この状態が普通だからだ。
「そう、分かったわ。でも、やられたら出るわよ。」
「はい、その場合はお願いします。」
「今回陸軍の出番は殆ど無いと思われます。フォード大陸とフォロナ大陸は最狭部でも3000km以上ありますので。出番があったとしてもその間のリート諸島の占領でしょう。」
「あぁ、そうだな。フォロナ大陸条約機構には伝えてあるのか?」
日本は南フォロナ大陸の国際機関である南フォロナ条約機構の参加国であり、さらに南フォロナ条約機構軍の最主要国なのである。
南フォロナ条約機構参加国全ての軍事力を合わせても、日本に勝てないほど日本の軍事力はこの世界で圧倒的なのである。
「はい、もう既に。各国我が軍の作戦時の自国領土•領空•領海の使用を許可しています。」
「リート諸島は現在、何処の国にも所属していない諸島です。日本が所有してしまえばよろしいのでは?」
「まぁ、そうなんだが、そうも出来ない事情があってな。防災大臣。」
「はい。4日前、リート諸島を震源とする地震が発生しました。マグニチュードは7.6ですが日本には津波の被害はありません。そして6ヶ月前にもマグニチュード6.8、15ヶ月前にもマグニチュード9.1の地震が発生しています。建築物を建てるには危険過ぎます。」
マグニチュード9.1は2011年に発生した史実の東日本大震災レベルの地震であった。
しかし様々な精霊の協力により日本に被害は殆ど無かった。
そもそもこの世界に転移してきて天候が精霊の気まぐれに変わり自然災害など殆ど起きていない。
他の地域だと、そうでも無いみたいだが、何故か日本発生災害がここ2年殆ど発生していないのである。
「その他にもリート諸島は台風の通り道だ、特にこれからの季節はな。精霊のお陰で日本には来ないがそれらの通り道であるリート諸島はもろに影響を受ける。一応領有宣言はしたが、近寄る事は出来ないな。」
「リート諸島は前にリフェル帝国に怒って精霊達がやった島々ね。辞めようとしたら出来るけどどうする?あそこは動物も植物も無い死の島々よ。」
そう言ったのは水の大精霊であるウンディーネであった。
日本も衛星や観測船まで派遣しリート諸島を観測したが、その正体は火山地帯であり、その影響で植物も動物も居ない死の島であったのだ。
「いや、今のままで良いのでは?リート諸島のお陰でフォード大陸からフォロナ大陸への航路が2つに絞れますからね。」
「そう言ってくれると助かるわ。リート諸島には元々リフェル帝国の軍事施設や奴隷収容施設があったの。」
「奴隷ですか。南フォロナ大陸では見ませんでしたが、やはり異世界ですね。」
「南フォロナ大陸が特殊なだけかもな。衛星に映った他の大陸にも似たような施設がある事が分かってるからな。」
南フォロナ大陸に奴隷が居なかった訳では無いが、それは重罰を犯した人の犯罪奴隷のみで有り、それも食料が豊富な事もあり日本から見ても身分が奴隷なだけで特に問題は無かった。
その為、当初日本政府は心配していた奴隷問題が無いと安心していたが、人工衛星による他国の画像によりこの世界にも奴隷問題があると認識していた。
「そういえば北フォロナ大陸、また新たな国家が生まれたみたいですよ。」
「ほぅ、北フォロナ大陸に?」
「えぇ、なんでも各地の軍閥を次々と撃破して次々と吸収したらしいです。JIAが調べたところどうやらリフェル帝国が関与しているらしいです。」
JIAは情報省配下の日本の諜報機関である日本連邦情報局(Japan Information Agency)の略である。
ミストテリアスへの転移により地球に築いていたヒューミント網は全て無くなったが、この2年で再構築し、一応諜報が可能になるまでとなった。
「リフェル帝国!?フォード大陸から北フォロナ大陸まで軽く8000kmはあるぞ?」
「いくら衛星を打ち上げたからとはいえフォロナ大陸全てを見張れるほどは無理ですから、輸送船なり使用したんでしょう。」
「北フォロナ大陸の事があったとはいえ長らく平和だったフォロナ大陸、まぁ異世界という事もありますがね、戦争で技術が発達するのは貴方方も知っているでしょ?」
「軽く1世紀ほど差がありますよ?」
「恐らく魔法のせいね、そう感じるだけであって実際には30年ほどかしら。私達も最近他の地域の精霊と交流しだして随分情報が集まってきたわ。」
日本に居た精霊は当然の事ながらミストテリアスの歴史などは全く知らない。
しかし日本がミストテリアスに転移後、日本がリフェル帝国とは違い精霊に愛されている国と知ると日本の精霊と他の地域の精霊のと交流が増えてきた。
「それはなりよりです。ところで、防衛大臣。リフェル帝国が南フォロナ大陸に上陸する事はあり得るのか?」
「十分あり得るでしょう。日本に攻めてきて撃退されたら、向こう側となるのは当然でしょう。東側と違い西側の国家にはジェット機対応の飛行場は有りませんし陸路にしても1週間程度は掛かります。」
「さらに空中給油機を使用しても地球のオーストリア大陸の1.5倍ほどある南フォロナ大陸で行動するには爆撃機並みの航続距離を誇る戦闘機じゃ無いと行動は不可能です。その場合は陸上戦力を派遣せざるを得ないかと。」
日本連邦国空軍が保有しているF-15EJは4600km、F-2A/Bは4000km、F-3E/Fは3250km、F-35JBは2500km、F-6A/Bは4600kmであり、戦闘行動を行うなら半分以下となる。
空中給油機も8機とそう多くは無く、広大なフォロナ大陸では運用は限定的となる。
「やはり、そうなるか。2個外征団2万8000だけでは当然足りないな。」
「そうなりますね。少なくとも4個師団5万は必要になります。日本の防衛に支障が無いのはありがたいですね。」
外征団は4個連隊規模の1万4400名の人員を要し他の師団は3個連隊規模1万800名の人員を要している。
その為、2個外征団とその他の2個師団だと14個連隊で5万400名となる。
「そうだな。では、その通りに進めてくれ。」
「了解しました。」




