第10話 陸地発見
2025.1.1 08:12JST
日本連邦国 首都東京特別区
総理官邸 記者会見室
「では、総理の発表はこれまでです。続いて質問タイムに入りたいと思います。質問は各社1つでお願いします。ではまずそこの方、どうぞ。」
1時間を超える総理の説明の後、官房長官の発言によりそれまで現実を理解するのに時間がかかっていた記者達は、現実へと帰ってきた。
そして現実に帰ってきた者から手を挙げ出し、何人かの記者達は会見場を飛び出しタクシーに乗り込み、それぞれの会社へと急いで帰っていった。
「夕日新聞の古賀です。例えさっきの女神様の話を本当だと仮定して、総理達は2ヶ月以上前からこの転移の事を知っていたという事ですよね?何故隠していたのですか?」
「なるほど、確かにその質問は最もだ。だがもし去年の10月にこの話を私がしたらどうなっていたか、貴方なら簡単に想像ができるのでは無いですか?恐らく私は今ここに居なくなっていたのでは?」
「し、しかし日本人1億3000万人は助かったとしても、他の70億弱の人類は核戦争により亡くなっているんですよね?貴方はそれを見捨てたという事になりますよね?」
夕日新聞は転移前から誤報問題など色々と問題が多かったマスコミである。
一応、大手新聞会社であるが、近年の活字離れと信頼性の低下から、他社がネットニュースに移行していても夕日新聞は資金の都合上、中々移行出来ずにようやく最近になって、移行し終えたのである。
しかしもう既に他社に顧客を取られ、地方新聞社になるのも時間の問題と言われていた。
「見捨てた。確かにそうですが、我が国はロシアと北中国から実際に核攻撃を受けたのですよ?女神様は自滅した。と言っていましたが、まさにその通りなのでは?」
「し、しかしそれでも他の人類は。」
「女神様が私の管理する世界に連れて来れるのは日本人だけだ。と言ったんです。私にはどうする事も出来ません。その証拠にこの記者会見場に外国人はいますか?いませんよね?女神様が日本から強制的に転移させたんですよ。これで分かりましたか?」
総理の強い口調に勝てずに夕日新聞の記者は合意して、質問を終えた。
「は、はい。ありがとうございました。」
「他にご質問は?ではそこの方。」
「はい、NHKの朝霞です。総理は日本連邦国が転移してきたとおっしゃいましたが、日本連邦国全ての島々が転移できたんですか?」
「はい、女神レミアスの話によると日本連邦国全ての領土と領海と言っていました。現在確認中ですが、今のところ欠けたという報告は聞いていません。」
今のところとはいえ、全て確認し終えたのであるが、まだ一応念の為である。
「そうですか、ありがとうございます。」
「では、続いて後ろの方、どうぞ。」
「テレビ日本の尾道です。転移時と思われる0時頃の地震発生時、日本中で停電が発生し、ブラックアウトが発生しました。原因は判明しているのですか?」
総理は今回の記者会見である意味一番痛い所だと思っていた。
日本の電力は10社の半国営会社により発電と供給を行なっている。
当然、半国営なので電力会社のミスは管理者である国のミスという事になるのだ。
「はい、女神様の話によると、この世界ミストテリアスには地球には無い魔素という物があるそうです。恐らく転移時に火力発電所の安全装置がその魔素の影響を受けて誤作動を起こしたと考えられます。他の水力発電や風力発電、地熱発電所などからは報告が上がっていませんので火力発電所だけの影響と考えています。その後再起動を行い、現在では全ての停電は復旧しています。」
「では、日本中の火力発電所が全て停止した事によりブラックアウトが発生したと?」
返答の信憑性を増すためにさらに畳み掛けてくる記者に対し総理は内心イラつきながらも丁寧に返答を返した。
「はい、その通りです。火力発電所が全て停止した事により過剰な負荷を避ける為他の発電所が停止しました事によりブラックアウトが発生しました。」
「そうですか、ありがとうございました。」
その後も質問タイムは続き、記者会見が終了したのは開始から3時間後の10:30分であった。
2025.1.14 18:19JST
日本連邦国 台湾州 澎湖諸島
日本連邦国空軍澎湖基地
台湾が日本のままになったこの世界、史実なら台湾領であった金門島は中華民国領のままであった。
その為、日本の対中国大陸の最前線基地は澎湖諸島にある澎湖空軍基地であった。
澎湖空軍基地は日本連邦国空軍の主力戦闘機であるF-15Jを中心に様々な種類の航空機が配備されていた。
そして史実なら海軍(海上自衛隊)が担当している対戦哨戒任務も空軍が行なっていた。
総理大臣の転移宣言から2週間弱、現在、日本中の哨戒機及び無人偵察機などの航続距離の長い機体が陸地探しに必死であった。
そんな中、1機の機体が整備を終え格納庫から出てきて、滑走路へと侵入し、離陸していった。
その機体は4発のレシプロエンジンを搭載し、7000kmを超える航続距離を有するP-3C対潜哨戒機であった。
P-3C対潜哨戒機は米ソ冷戦時代、ソ連の潜水艦を発見する為に調達された当時最新鋭の対潜哨戒機である。
現在は後継のP-1対潜哨戒機にとって代わられているが、現在も一線で活躍するだけの実力を有しており、今回駆り出されたというわけであった。
「機長、どう思います〜?」
「ん〜何がだ〜って、あれしか無いか。」
最近の話題と言えば1つしか無い。
2週間経った現実でもワイドショーやネットサイトを賑わせている、そう異世界転移である。
「はい、長谷部総理の女神発言ですよ。本当にいると思いますか?」
「さぁな、だが野党の議員達も見たとか言ってたし、いるんじゃ無いのか?ここは獣人やエルフ、精霊までいて魔法が使えるファンタジー世界なんだろ?」
「最高っすよね!」
操縦席に座る機長と副機長のしょうもない会話を止めたのは後ろにいたレーダー担当官の若い女性であった。
彼女を含めレーダー担当官は耳にヘッドフォンをして僅かな音を聞き出すのも仕事のうちである。
そこにさっきのしょうもない会話、怒らざるを得なかった。
「真面目に仕事してください!さっきから五月蝿いんですけど?いくら今回の目的が潜水艦探しじゃなくて陸地探し…………。」
「ん?おい!どうした?」
話を途中でやめてしまったレーダー担当官に前から好意を抱いていた副機長が心配そうに尋ねる。
しかし彼もこのP-3Cを操縦している身、後ろなど振り向けない。
「レーダー反応あり、陸地です。北に距離200km!」
「お、おい。マジかよ!」
「落ち着け、基地からの距離は?」
「澎湖基地から約1800kmです。対馬からなら700kmほどです。」
澎湖諸島から北に真っ直ぐ向かったP-3Cは丁度、対馬に一番近い場所を飛行していた。
「そうか、本部に連絡を入れろ。残りはどのくらい飛べる?」
「そうですね。今の速度だと大体4時間、2500kmほどは飛べるかと。」
現在のP-3Cの速度は時速630km/hである。
P-3Cは時速900km/hほどで飛べるが、別に急いでるわけでもなく、ただ単に陸地探しである。
それに燃料もフルに積んでいる訳ではなく、今回の任務だと大体7割程度、5000kmほどの航続距離になる。
「よし、陸地に向かうぞ。帰りは対馬に着陸出来るように要請してくれ。」
「了解しました。」
しかし、しばらくして通信担当官が持ってきた内容は信じられないものだった。
「き、機長!」
「どうした?そんなに慌てて。」
「本部から連絡があったのですが、現在対馬は敵の攻撃を受けており、対馬基地を始め使用不可のようです。また、すぐさま鹿屋基地に着陸せよ。との事です。」
鹿屋基地は鹿児島にある空軍基地である。
主にP-3Cなどの対潜哨戒機部隊が配備している基地であり、戦闘機などは配備されていない、いわゆる地方基地であった。
「な、なんだと!?攻撃って何処からだ!?」
「情報によると攻撃してきたのは韓国軍だと思われます。」
「な、なんで韓国海軍がここにいるんだよ!」
この世界には日本人しか(正確には正式に取得した日本国籍保有者)転移してきていないと記者会見で発表されていたのである。
その為、この世界(ミストテリアスに正式に決定)に韓国軍があるなどあり得なかった。
「韓国は地球にいるはずなんじゃ無いのか?」
「私に聞いても分かりません。機長、どう致しますか?」
「対馬を攻撃している事については置いておいて。先に上からの命令は絶対だ。俺たちは命令通り鹿屋基地に向かうぞ。」
「り、了解。進路4-4-2、鹿屋基地に向かいます!」
こうしてようやく念願の陸地が見つかったにもかかわらずP-3C対潜哨戒機は危険防止の為、鹿児島にある鹿屋基地へと向かって行った。