第9話 記者会見
2025.1.1 01:15JST
日本連邦国 首都東京特別区
総理官邸 地下 危機管理センター
「さてと、国民にも事態の事は伝えねばならない。女神様の事は隠さないとな。」
20時間における会議にやっとこさ終わりの兆しが見えてきた。
と言ってもこんな時に呑気に寝ていられる訳が無く、この後打ち合わせや確認などがあるのだが。
「そうですね、何処まで情報を出しますか?」
「ん?なんで私を隠すの?」
そう言ったのは総理と対面する椅子に座っていた女神レミアスであった。
完全に隠す形で進めようとしていた総理達は「え?」といった感じとなり、しばらく無言の空気になった。
「え?いや、隠さないでいいんですか?国民に公表しても?」
「別にそんな事、気にしなくても良いわよ。この世界の人なら私の存在を知っているしね。一部を除いてだけど。」
先程までどうやって存在を隠して発表しようかと悩んでいたが、逆に「公表してもいいよ。」と本人から了解を得たとしても神など見たことが無い国民にどうやって説明しようかという問題が出て来た。
何しろ神にしろ女神にしろ聖書や小説•アニメ内の話で誰一人、見たことのある人は居ないのだから。
「一部?」
「まぁ、時が来たら説明してあげるわ。とりあえず私の事は気にしないで説明してあげたら?」
「そ、そうですか。ならそうさせて頂きます。官房長官、原稿の作成を。19:30に記者会見だ、マスコミ各社に伝えてくれ。」
当然、この異常事態はマスコミ各社が知らない訳が無く、しばらくしたら説明を要求されるのが目に見えていた。
「はい、かしこまりました。恐らく事態には気づいているでしょうね。」
「事態には気づいているかもしれんが、転移には気づいて無い。通信不良程度だろう。」
「核戦争についてはどう報道致しますか?核戦争により文明は滅びた、と発表しますか?」
まだ文明が滅びた所は見ていないが、女神レミアスが話していたし、間違いなく滅んでいるだろう。
「いや、確かに世界の名だたる都市が消えたのは知っているが、地球が滅びた事までは確認していない。核戦争は起きた、だが文明が滅びたかどうかは知らない。で良いだろう。」
「そうですね、では原稿の用意と記者会見をマスコミ各社に伝えてまいります。」
「あぁ、頼んだぞ。」
そう言い官房長官は席を立ち退席して行った。
その後も30分ほど対策会議を行い解散、女神レミアスは神界に、その他の大臣は各省庁に、総理は上へと向かって行った。
2025.1.1 07:20 JST
大手キー局 ニュース番組
『皆様、あけましておめでとうございます。年明け早々、早速ですがニュースをお伝えします。本日0時より続いている通信不良に関して政府は記者会見を行う旨を発表しました。現在日本以外の全ての国家との通信が取れなくなっており、GPSの使用不可により航空機の運航再開の目処はたっていません。』
この時、視聴者は核戦争が起きている事は知っており、日本に核爆発の一報が無い為、軍が頑張って迎撃しているが、いつ着弾するか分からないと戦々恐々としていた。
その為、年明けとはいえ初詣に行っておせちを食べるなど祝い事の気分では無かった。
『また、海外にサーバーを置くサイトも使用ができない状態となっています。東京証券取引所はしばらくの間、取引を中止する事を発表致しました。また、対馬や澎湖諸島の視聴者からは朝鮮半島や中国大陸が消えたとの報告も相次ぎ、使用出来るサイトでは異世界転移では?との書き込みが相次いでいます。』
東京証券取引所は10月半ば頃から取引を連続して中止しており、2025年から再開すると公表していたのである。
またサイトのサーバーをアメリカなどに置かず日本に置く企業も増えてきている為、使えるサイトも数多くあるのである。
『では、もうそろそろ総理による記者会見が始まる模様です。現場を呼んでみましょう。木崎さ〜ん。』
『はい、こちら総理官邸の記者会見室です。あと残り3分ほどなんですが、総理はまだ記者会見室に現れていません。年明け早々ながら部屋には沢山の記者が詰めかけています。本来ならばアメリカのCNNやイギリスのBBCなどの海外メディアがいるはずなんですが、まだ姿を見せていません。』
正確には外国人記者クラブなのだが、それは置いておいて日本にいる外国籍の人は居なくなっているのだから来なくて当然である。
また、大手キー局にも少なからずいた外国人の人も今日からは出社していない。
『え〜と、それはどういう事でしょうか?伝えられてはいるんですよね?』
『はい、官邸によりますと全てのマスコミ各社、報道陣に伝えたと発表している事から伝えられてはいると思います。あ!総理が出てきました。ただ今、長谷部総理大臣が記者会見室に入室してきました。これより緊急記者会見が始まります。』
こうして色々な不安や疑問を抱えながら総理による記者会見が始まった。
2025.1.1 07:30JST
日本連邦国 首都東京特別区
総理官邸 記者会見室
「皆様、あけましておめでとうございます。え〜と、先に総理が通信不良などについて話しますので質問は纏めて最後にお願い致します。質問は各社1つづつとなっていますので、よろしくお願いします。では長谷部総理、お願いします。」
官房長官が記者に対して注意事項などの説明を行い、その説明を終えると総理に話を渡した。
「はい、日本国民の皆様、あけましておめでとうございます。新たに2020年という新しい年が始まりました。しかし年明け早々に他国のと通信が途絶え、衛星の使用も出来ないなどの不可解な現象が発生しました。え〜と、はっきり申し上げます。日本連邦国は地球では無い異世界に転移しました!」
はっきり異世界転移と言った総理に対して記者会見場は官房長官の発言を忘れた記者達による「質問!」や「スクープだ!」との声で溢れかえった。
「お静かに!!質問は最後に受け付けます!静かに!」
官房長官が静かにするように言っているが静かにならず、総理も一時記者会見を中止した。
その後10分ほど経って記者達も落ち着きを取り戻し記者会見を再開した。
「はい、日本は異世界へと転移しました。先に核戦争についてお話し致します。2024年12月31日19:00、ロシアから日本に向けて2発の核ミサイルが発射され、日本海に展開していたイージス艦により迎撃しました。その後21:00に中華人民共和国から同じく2発の核ミサイルが発射されましたが東シナ海に展開していたイージス艦により迎撃しました。」
昨日の弾道ミサイル迎撃について話す。
この事は昨日既に防衛大臣により発表されているので別段驚く事でも騒ぐ事でもない。
「日本は2024年までしか地球に居なかった為、現在は分かりませんが、アメリカ、イギリス、フランス、インド、ロシア、中華人民共和国の名だたる都市は核などにより消滅しました。他にも中華民国や韓国、カナダ、オーストラリア、ドイツなどにも数回の核爆発を確認しました。我が国が確認しているだけで発射された核ミサイルは1200発を超えます。恐らく今、地球に居たらその内の何割かは日本に向けられ、今私がこうして話す事は出来なかったでしょう。」
そう言った途端に、記者達の顔が暗くなったのが見て取れた。
テレビの前の視聴者も暗くなり、中には想像してか涙を流す者もいた。
「次にこれから話す事は夢物語ではありません。私を含め政府高官や一部の議員達は本当の事として認識しています。皆さんが信じるか信じないかは自由です。ただ、この世界は地球の常識が通用しない世界だと認識して下さい。まず初めに私達はこの世界の神に会いました。女神レミアス、それがこの世界ミストテリアスの神です。そして同時に日本の神でもあるそうです、昨年の10月頃に始めて出会い、その時にミストテリアスへの転移を伝えられました。それから日本政府はミストテリアスへの転移に向け少なからずの準備をしてきました。」
そう言った途端に記者達が騒ぎ始めたが、今度は数十秒ほどで収まった為、記者会見はそのまま続けられた。
「この惑星、ミストテリアスには人間だけではなく、エルフやドワーフ、獣人などの数多くの民族が住んでいます。アニメの世界と考えてもらったら良いかと思います。そしてこの世界には魔法があり、精霊が実在します。各地域毎に精霊とその7つの属性を束ねる大精霊が存在するそうですが、そして日本政府はその日本の7人の大精霊と友好関係にある事を発表致します。」
この話も特に記者達は騒いだりしなかった。
もう異世界転移など言っている時点でもう女神なの獣人なの、好きにしてくれといった感じであろう。
正確には驚き疲れているだけだと思うが。
しかし最後の日本政府が日本の精霊を束ねる大精霊と友好関係を言ったのにはとても驚いた。
今日転移したなら有効関係などまだ気付けるわけがない、つまり転移前から接触があったという事である。
実際には彼等には見えていて此方側からは見えて無いだけであり、彼等が日本を好意的に見ていただけの事であるのだが。
「とりあえず、今判明している情報はこれだけです。他の情報は随時発表致します。これで記者会見を終わります。」
こうして記者会見が終了したが、これからまだ記者会見があると思うと総理や官房長官、護衛のSP達は溜息を漏らした。