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メッシロ・キョウコ その1

 初めて目白京子と会った日もなかなか疲れた。


 その日、輪太郎が自宅の二階ですやすやと寝ていると、ガラスの割れる音で目覚めた。

ベランダに続くガラス扉が割れている。

朝日に照らされて、ベランダに誰かが立っているのが見えた。


「あ、これで壊れちゃうの?」


 ベランダに立っている女性はセーラー服を着ていた。

その子と目が合った時、あまりの美しさに心臓が止まるかと思った。

例えばマスクをしている人の目だけを見て、その人の顔を想像すると大体可愛くなる。

隠れている部分を脳が勝手に美しく補完してしまうからだ。

同じようにシルエットを見て、自分が知りうる一番の美人を想像したのに、そのはるか上をいってきたのである。

天使が舞い降りたかと思うほど現実離れしたその容姿に輪太郎は驚き、その美しさに目が釘付けになって動けない。

美しさに固まってしまう。

 ん? あれ? 本当に動けないぞ? 

 なんだこれ。体が動かない! 声も出ない。

金縛り? ええ、ど、どうなってんのこれ?


「あ、もしかして固まっちゃった? 力使ってないつもりなのにな。地球人は繊細なのね」


 そう言うと女性は目を瞑った。

そうしてやっと輪太郎の体が動くようになった。


「リンちゃん。何か割った? 変な音したわよ」と下から輪太郎の母さんの声が聞こえてきた。

そんな母さんの声を無視して、輪太郎は目の前の女性に話しかけた。


「君、もしかして異世界の人?」


「ええ、そう。メッシロ・キョウコと言います。今日からリンちゃん? と一緒に働かせてもらいます。よろしくね」


 キョウコは目を瞑りながら、口元をにっこりと微笑ませた。

それにしても美しい。


 輪太郎は少し考えてから「心配しなくていいよ」と母さんに答えた。

異世界の事を母さんに言うのは気が引ける。

正直に話してもいろいろ面倒なことになるだろう。

ひとまず部屋の鍵を掛けて、ベランダの扉を開けて、キョウコを部屋に招き入れた。

キョウコは土足で入ってきたが、床にはガラスが散らばっているので、ひとまず目を閉じている間はそのままでいいかなと何も言わずにおく。

勉強机の椅子を差し出してキョウコに座ってもらった。


「ところで何でベランダにいたの?」


「ちょうどそこから覗いたらリンちゃんがいたからね」


「確認するためにわざわざ2階に上がったんだ」


「2階?」


「2階ってわからない?」


「あれ? もしかしてそこが出入り口じゃないの? 確かにあんなに段差があったらお年寄りには入りづらいわね」


 二階までの高さが段差って表現になるのか。

感覚がずれている。


「地球人は世界一高くジャンプ出来る人も二階までは飛べないんだよ」


「そうなんだ。じゃあ、あんまり高く飛んじゃうと地球人じゃないってバレちゃうね。どれくらいなら大丈夫?」


「飛び方にもよるけど真上へのジャンプだと30センチくらいかな。でも女性がジャンプしている姿は滅多に見ないから、ジャンプしないのが一番いいかも」


「30センチ? 1メートルが100センチだよね?」


「そうだね」


「私の身長が1メートル60センチだと思うの。地球人って自分の身長も飛べないの?」


「そうだね。飛べない」


「不便じゃない?」


「不便ではないね、今のところ」


「そうなんだね。ふゆん、勉強になるなあ」


 キョウコはまだ目を閉じている。

目の前で絶世の美女が目を閉じて座っているので、健全な男子である輪太郎はとてもドキドキして落ち着かなかった。

ところで「ふゆん」って何なんだろう? 流れ的に「ふうん」ってことだろうけど。


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