ターニングポイント その3
外に出ると、2メートルはありそうな鉄格子の門と柵がぐるりと屋敷を囲んでいた。
かなり広い庭である。
その大きな庭の中にボスが言っていた店があった。
店と言っても外装は木造の一軒家のように見える。
なぜそこがボスの言っていた店だとわかったかと言うと看板に「店」と書いてあったからだ。
「なんの店だよ」と思わず言ってしまった。
店に入ると、一件駄菓子屋に入ったように思えた。
店にはアメやらチョコレートやらお菓子類がいろいろ置いてある。
「いらっしゃい。あんさんがボスの言っていた地球での部下やな。ワシの名前はシーナ・ラスと言います。よろしゅうな」
「あ、初めまして。漆輪太郎と言います。背中で寝ているのは吉高真居子です」
「そうか。真居子ちゃんはそこの椅子に寝かしてくれてええで」
勧められたので、真居子を長椅子に寝かせた。
「あの、それでちょっと今意味がわかってないんですけど、パトロールをすればいいんですか?」
「そうやな。16時から24時まで働いてもらって日当は一万イェン。もし異世界のものを見つけたらその度に報酬を払う感じやな」
「あの、でも僕には出来る自信がないんですが。異世界のものって今日会った化け猫とかですよね。すぐに死んじゃうと思うんですけど」
「ああ、それは大丈夫や。どうやってるかは知らんのやけど、君はいま魂がないらしい」
そう言えばあの石に僕の魂が入っているとボスは言っていた。
信じがたいが。
「だから新しい体がある限り、あんさんは生き返れるねんて」
何を言っているんだろう、この人は。
「ボスのサービスでスペアボディを五体と100万イェンそれにチュッパナイフがあんさんに与えられる。ええなあ、百万も貰えて。ワシの二か月分の給料やで」
輪太郎は白けた表情で聞いていた。
あと29900万イェン稼がないといけないわけである。
しかし、本当に1イェンで金1グラム買えるなら、この時点で日本円にすると48臆円もらったことになる。
そう考えると確かにすごいサービスだ。
「ここにある食べ物は地球人が食べると、いろいろパワーアップするようになっている。いろいろなドーピングアイテムがあるからそれらを買って、パトロールに備えてな」
いろいろなお菓子にはそれぞれ効能と値段が書いてあった。
ムサシスナック棒 力アップ 3万
カチコチキャンデー 耐久力アップ 3万
脱兎アメ スピードアップ 3万
チョコと集中 脳の回転上昇 3万
うまいドリンク 元気になる 3万
崖っぷち納豆 粘り強く死ににくくなる 3万
紫のプチトマト 傷が治る 3万
イチコロチーズ 体が臭くなる 3万
夜道のイチゴ 目が良くなる 3万
炎玉 擦ると燃え上がる 3万
スペアボディ 一度生き返れる 100万
なかなかの品ぞろえだ。
意味のなさそうなのも売っている。
「ところで、ちょっと本当に生き返るか興味あるからあんさん試しに死んでくれへん?」
「試しに?」
「試しに」とラスは頷く。
「死ぬ?」
「もちろんワシの好奇心からのお願いやから、スペアボディを一つプレゼントさせてもらう。どうかな?」
「いや、当然嫌ですけど?」
「でもあれやん。本番に生き返るか不安に思うより、今ここで生き返れるか知っておいた方がいいやん。な」
輪太郎は呆気に取られて言葉が出なかった。
本当にボスやラスは異世界の人間なのだろう。
感性が違う。
そんなに簡単に人に死ねだなんて。
そんなことを考えていると、沈黙は了解と思ったのか、ラスはすっと輪太郎に近づくと、ほほに手を当ててから、クキッと首の骨を折ってしまう。
輪太郎は意識が消える瞬間、天井が下に、ラスが逆立ちしたように見えていた。
「さて、ほんまに生き返るんかな」とラスは人を殺しといてのんきな声を出した。
すると店の外で何やら気配を感じた。
外に出てみると黒い芋虫が地面からちょうど出てきていた。
「お、認定聖物の黒芋虫やん。何でこんなところにおるんや」
ラスが驚いていると、その芋虫が新しい輪太郎を吐き出し、キュッとラスを見上げた。
何だろうとラスが動くと、黒芋虫はするする店の中に入って行き、輪太郎の死体を飲み込むと、また外に出てから地中に行ってしまった。
「うわ、何が起こったの? すごい体がベタベタするんだけど」
輪太郎は立ち上がると、体中に着いたどろどろの透明な液体に顔をしかめた。
その液体は空気に触れると気化していく。
「おう、ほんまに生き返るやん! こんな術がこの世にあるとは。ボスって凄いな」
「いや、生き返らないと思いながら首の骨を折ったんですか?」
「ん? いや、そんな事はないけどな。でもまさか本当に生き返るとはなあ」
そう言いながら誤魔化すためかラスは豪快に笑った。




